第八話【黒ひげ】
久しぶりの投稿です。今回は少々長くなってしまいました、流石に10000文字は長過ぎでしょうか?これ以上は流石に長過ぎるので、一旦切ります。
諸君は黒ひげについてどれくらい知っているだろうか?例えば残虐非道な海賊だとか、黒い髭を生やした海賊だとかそんなところだろうか?
勿論黒ひげと言えば様々な逸話が語られており、なかでも強烈なのは首を斬られた後で体が船の周りを3週泳いで回ったと言う話だろうか?勿論作り話だとは思うが、【エデン】に登場する黒ひげならばやりかねない。
その驚異的なHPは勿論だが、 最も警戒すべきは所持する武器の能力と数だ。黒ひげは、俺達プレイヤーですら所持できない“銃”を所持している。勿論現代で使われている様な機関銃等ではなく、大航海時代に使われた初期のーーー所謂火縄式のマスケット銃だ。
弾丸1発撃つにはいちいち弾薬を入れなければならないが、物理的遠距離攻撃手段が弓矢しかない【エデン】では非常に強力だ。それが6丁あるのがさらに厄介だ。本来弾を込める時に出来る隙を狙って攻撃するのがいいのだが、6丁もあると中々隙が出来ない。
しかしそれだけならば全く問題にはならない、一気に何十人かで襲い掛かれば銃だけでは対処出来なくなる。銃より厄介なのは剣、名前の存在しない大きな剣で、波を操り風を操り船を操る力があると言う、海のーーーとりわけ船上ではチートとも言える能力がある。
勿論ただの剣としても強力で、能力抜きでも炎剣レーヴァテイン並の攻撃力を持っている。見た目は金と銀を使ったシンプルな見た目で、刃にはアストラル文字と言う文字で『偉大なる海賊に捧げる剣』と書かれている。
意味は不明だ。もしかしたら新しいイベントの伏線なのではと一時期話題になったが、何かのイベントで偉大なる海賊と言う言葉が登場したと言う話は1度もなかった。
これ以外にも黒ひげは複数の剣を所持する。中には神級に近い能力を持つ様な剣を数本持っていると言う事は、近接戦闘ではかなり有利となる。何せ武器を使い捨てとして使えるのだ、厄介極まりない。
さらに黒ひげは魔法も使える。正しくは魔法ではなく呪術(黒魔術)だが、その効力は厄介な物が多いの。特定の条件を破るとステータスが半減したり、レベルが1になったり、最悪即死する物もある。
「ーーーつまり黒ひげは、非常に厄介極まりないモンスターなんだ。分かったかレフィ?」
「えぇ、お父様が厄介に思う程黒ひげが強いと言うのは分かりました。でもお父様1人で黒ひげと戦うのは許可出来ません。」
「別にお前の許可を求めてる訳じゃない、被害を最小限に抑えるなら俺が単独で黒ひげと戦う方がいいと言ってるんだ。」
港を出て5週間、海流に流されたり、モンスターに襲われたり、ゲロを撒き散らしたり、色々あったがなんとか無事に死海まで辿り着く事が出来た。この辺りまで近付けば探知系のスキルで黒ひげを見付けられるので、さっさと黒ひげのもとへ行こうとしたのだが、何やらレフィが文句を言ってきた。
「確かにそれなら安全かもしれませんが、お父様1人で全て解決すると冒険者の沽券に関わります。」
「沽券で飯が食えるのか?沽券で金が手に入るのか?死んだら沽券も糞もねぇだろうが。お前は沽券の為にこの船を沈めるつもりか?」
レフィ、お前は何なの?馬鹿なの?死ぬの?
「しかし!冒険者が何十人と集まっているのに、誰も戦わずに帰って来たなんて事になったら笑い話にもなりません!もしそんな話が広まれば、最悪依頼を斡旋して貰えなくなる可能性もあります!」
まぁ、言わんとする事は分からなくもない。実際海に数週間も出て、一切戦闘がなかったなんてあり得ない、つまり戦ってない=モンスターから逃げたーーーもしくはモンスターが出て来ない浅瀬に居たのに、法螺を吹いて沖に出たと言っているかだ。
当然冒険者が逃げたとか法螺を吹いているだとか言う噂が立てば、依頼者に「〇〇さんにはこの仕事を斡旋しないで下さい。」と言われる可能性もある。しかしそれでも確実に死ぬと分かっている場に出す訳には行かない。
「なら、まず俺が1人で行ってヤバい奴だけ殺ってくる、その後で冒険者が雑魚を片付ける、これならいいだろ?」
「…………分かりました、それで譲歩します。」
よし!レフィが黒ひげについて余り知ってなくて良かった!黒ひげが乗るアン女王の復讐号には、船長の黒ひげ以外にはレベル200程度の船員しか居ない。しかしその船員達は、黒ひげが死ぬと船と一緒に海に沈み死んでしまう。
つまり、黒ひげを殺せば雑魚等残らないのだ。間違えて船ごと沈めてしまったと言う事にしてレフィに納得してもらい、冒険者達には俺が用意した召喚獣に船を襲わせて、戦わせよう。
そうしてモンスターにわざと負けた様に見せて撤退してもらい、冒険者達が勇敢に戦って追い払った様に見せる、そうすれば悪い噂が立つ事は無いだろう。ただ問題なのは、冒険者達のレベルで追い払える様なモンスターを俺が召喚出来ないのだ。無駄に強過ぎると冒険者が戦意を失いかねない。
つまりレベル60でも倒せる、しかし多少は苦戦する様なモンスターを召喚しなければならない。60でギリギリ倒せるモンスターなら、レベル150程度だろうか?レベル差90がギリギリのラインだ、これ以上高くなると倒すのは難しいだろう。
140~150辺りとなると、オーガやオーク等の陸上に居る様なモンスターばかりで、海に居るモンスターは居ない。基本的に海はレベル6500~9000程度のモンスターが居るフィールドなのだ、そこでレベル150のモンスターを召喚するなんて無理な話だ。
「じゃあ、取り敢えず行ってくるから船は任せたぞ。」
召喚するモンスターは後で考えるとして、取り敢えず黒ひげを倒しに行く。黒ひげの位置は大体分かるので、そのままか空中を歩いて行く。因みにスキルは使ってない、空中を歩くのなら天上人の靴の効果があるのでスキルを使う必要がないのだ。
まぁ普段は余り使わない、かなり目立つからな………。天上人の靴はかなりのレアアイテムなので持っているプレイヤーは極僅かだ、余り知られていないアイテムだがその効果が“何の代償もなく空を歩ける”と言うものなので、持っている事がバレると狙われる可能性が高くなる。
スキルにも空を移動出来るものはあるのだが、MPや闘気の消費量が他のスキルの類を見ない程多い。飛行系のスキルは毎秒1000~1300程度のMPや闘気を消費するのだから、そうそう使えない。しかしそれが何の代償もなく使えるアイテムがあれば、当然欲しがるに決まっているだろう。
それこそ殺してでも奪い取ろうと向かって来るだろう。だから普段は人目に付かない様に、人が全く居ない場所でしか使わないので使う機会は少なくなるのだ。
今は海の上ーーーしかも滅多に人が来ない死海の上なのでいくらでも使う事が出来る。この靴で空を歩くのは非常に気持ちいいので、思いっきり走り回る。勿論ちゃんと黒ひげの元へと向かってはいるが、多少はテンションを上げながら寄り道しても構わないだろ?
「ある日~♪海の上~♪黒ひげに~♪出会った~♪」
やっとこさ黒ひげの乗るアン女王の復讐号を見付けて、某童謡のちょっとした替え歌を歌って居るとーーー。
「敵襲!右舷上空より敵襲!帆を畳み大砲を準備しろぉ!」
「敵は1匹だ!よく狙って撃ち落とせ!」
「誰か船長に知らせろ!」
ーーー気付かれた。
「やばっ!いきなり大砲撃ってくるのか!?やっぱゲームの様には行かないか………。」
通常此方から攻撃しない限り向こうも攻撃してこないのだが、やはりゲームの様には行かないらしい。ただ近付いただけで敵襲!って言われて、今にも砲弾が飛んでくるんじゃないかってくらい向こうは殺気立っている。
まぁ俺としても話し合いをしに来た訳ではないので、手早く戦闘に移れてありがたい。贅沢を言うなら気付かれない様に近付いて、甲板に居た船員を片付けておきたかった。更に贅沢を言えば、船に1発高火力スキルを使っておきたかった。
船がゲームのシステム通り破壊不可オブジェクト扱いなのか、それとも破壊可能オブジェクト扱いなのか確かめなければオチオチ戦闘も出来ない。下手に暴れて船が沈みましたじゃあ格好悪いだろ?
「取り敢えず甲板に1発魔法撃ってみて、壊れなかったら船で戦おうか。《光閃》。」
確めるには威力がそこそこある必要があるので、軽く光属性のレーザーを放つ。《光閃》は貫通性が高いので、普通の船なら一撃で甲板から船底まで穴を開けるのだが、今回は穴が開くどころか弾き飛ばされてしまった。
つまり破壊不可オブジェクトと同じように扱いと言う事になる。これならいくら暴れても問題ないだろう。
「確り狙え!敵は中に浮いてるだけだ!確実に当てろ!………撃てぇ!」
船の耐久力を調べてる間に照準を合わされて居たらしく、20門程ある魔導式砲が俺に集中砲火してきた。魔導式砲は基本的な構造は大砲と変わらない、砲身があり本来火薬を入れる薬室に爆発の魔方陣が刻み込まれているのだ。
砲口から砲弾を詰めた後で、砲身後部の魔石に魔力を込める事で薬室内の爆発の魔方陣が作動し、砲弾を発射する仕組みだ。火薬の代わりに魔力を使う為、用意するのは砲弾だけなのである意味現代の大砲より低コストで使える。
ただし消費する魔力はバカにならない量なので、そこまで頻繁に使われる事はない。level:5000くらいのプレイヤーならば、大体20~35発程度発射出来る。つまりアン女王の復讐号に乗るレベル200程度の船員には数発が限界だ。
数は余り飛んで来ないので、1発ずつちゃんと対処すれば大した障害にはならない。まぁ当たるとダメージはでかいけど、所謂「当たらなければどうと言う事はない。」ってやつだ。
爆音と共に発射された砲弾の雨を掻い潜り、船のマストへ降り立つ。そして一言ーーー。
「俺降臨!」
「「「………………………」」」
………すべったかな?ここまでウケないのは予想外だな………なんとか起死回生のギャグを絞り出さねば!俺の脳ミソよ、少ないボキャブラリーから一番ウケるであろう一言を考え出すんだ!
「…………(駄目だ!全く思い付かん!)。」
「…………て、敵を討ち取れぇ!」
「「「お、おおぉぉお!」」」
あっ!向こうが痺れを切らして俺の元へと向かって来た。しかし俺が居るのはマストの上なので、当然船員達は必死でマストをよじ登ったり、ロープを伝ってやってくる。しかしよじ登るにしても、伝って来るにしても、1度に俺の元へと来れるのは数人だけだ。
なので登って来た奴は蹴り落として、マストから甲板に伸びるロープを斬っていく。これである程度は登って来る人数を減らせるので、その間じっくりとアイテムボックスを見ていく。
やっぱり折角海賊と戦うのだから、カットラスやサーベルと言った刃が曲線を描いている、いかにも海賊や山賊等の無法者達が使う剣を使おうか?某海賊映画の三作目では、主人公とタコ頭の海賊が嵐の中、マストの上で戦うシーンがあったと思う。あんな風に格好よく剣で打ち合いをしてみたい。
ならば草薙の剣は論外だ。あれは何でも斬ってしまうので、打ち合いなんて出来ない。斬りつけた物を豆腐か何かの様に綺麗に斬ってしまう、それはそれで格好いいのだがやはり剣の打ち合いがしたい。黒ひげ相手なら草薙の剣を使うが、その黒ひげは今のところ姿を見せていない。
「これは威力が強過ぎるし、これは耐久力が低過ぎる、これは剣じゃなくて槍だし………うーむ、迷うな。」
「隙を見せたな!背後ががら空きだ!」
アイテムボックスの一覧表を見ながらどの武器を使うか悩んでいると、ちょっと目を離した隙に背後に回った船員が剣を振り上げて一気に降り下ろしてきた。
「ご忠告どうも、ただ死角から攻撃するなら声は上げない方がいいぞ?」
わざわざ大声を上げてくれたので、サッと横に移動して避ける。勿論忠告のお礼に蹴りを1発お見舞いするのも忘れない。当然足場がそこまで良くないマストの上で蹴ったので威力は無いが、斬り掛かって来た船員を蹴り落とすくらいの威力はある。
「うーむ?この武器は………駄目だな、切れ味が良過ぎる。おっ!?この剣良いな!これにしよう。」
アイテムボックスの一覧表を見ながら襲い掛かってくる船員の攻撃を上体を反らして避ける。その間も武器を選ぶのは止めずに丁度いい剣探していると、打ち合いをするのに丁度いい威力、切れ味、耐久力を持つ剣を見付けた。
名前は聖銀剣、【エデン】では比較的序盤で手に入る剣だ。耐久力が高く、闇属性のモンスター相手に高ダメージを与えられる光属性を刀身に宿しているとされている。切れ味はそこそこで威力もそこそこ、レベル200と打ち合うならば丁度良いくらいだ。
ただし振り方を間違えるとすぐに壊れてしまう程度の耐久力しかないので、余りテンションを上げ過ぎない様にしなければならない。俺は自分で言うのもなんだが、相当な戦闘狂だ。テンションが上がるとかなり無茶な戦い方をするので、耐久力が低い武器だと1分も持たない。
「軽く撫で斬りする感じでいくか。」
アイテムボックスから出した聖銀剣を取り出して軽く素振りをしてから構える。丁度船員の1人が登って来たので、斬りつけてみる。
「せいっ!」
「ギャッ!?ーーー痛ぇ!!」
気合いを入れつつ剣を上から斜めに降り下ろして斬りつけると、肉を斬った時の生々しい感触が右手に走る。予想外の事態に一瞬動きが止まるが、瞬時に背後からの攻撃を察知して避けながら背後の敵の脇腹を斬る。するとまた生々しい肉の感触が右手に走る。その瞬間理解した、この剣では切れ味が良過ぎるのだと。
「マジかよ………一撃で死んでるし。」
これは予想外だ、いくら俺のステータスが高くても、序盤で手に入る様な武器ではレベル200のモンスターを倒す事は難しい。勿論首や心臓等の弱点を狙えば話は違うが、今攻撃したのは脇腹だ。どう考えてもおかしい。
一応スキルを使って調べてみるか?《検索》では名前と性別と種族とlevelしか分からないので、今回は《分析》を使う。《分析》は本来詳細不明のアイテムに対して使うスキルなのだが、実はモンスターにも使える。
《分析》をモンスターに使えば、HPやMPの量や掛かっている状態異常、モンスター固有の常時発動スキルを知る事が出来る。これは結構万人に知られている裏技的なもので、モンスターに関しておかしな事が起きれば、取り敢えず《分析》を使えばいいと言われていた。
「《分析》ーーーむ?これは………どう言う事だ?」
スキルの結果は良く分からないものだった。一番最初に斬りつけたら船員はHPが2割程減っており、2人目の脇腹から真っ二つにした船員はHPが0になっている。最初の奴は別におかしくはない、聖銀剣で攻撃したに相当するダメージを与えている。
ただ2体目は少々おかしい、普通武器で攻撃すれば多少の上下はあれど一定のダメージを与えられるものだ。それが全く同じモンスターなのにダメージが全く違うのはおかしい。別に脇腹が弱点ではない、クリティカルヒットの判定は出ないのでダメージは1体目と同じになる筈だ。
おそらく斬り方に違いが原因ではないだろうか?1体目は上から斜めに撫で斬りしたーーーつまり薄く削ぎ落とす様に斬ったのだ。一方2体目は深く抉る様な一閃を食らわせた。薄く斬るのと深く斬るのでは当然ダメージ量は変わる。
更に言えば、2体目は明らかに致命傷を受けたーーー体が真っ二つになったのだから普通なら即死だろう。つまり受けた傷の大きさの違いが、今回のダメージの大きさを変えたのだろう。
かすり傷と刺傷では当選ダメージは違う。ゲームでは軽く当てただけの攻撃と思いっきり振り抜いた攻撃のダメージ量は殆ど変わらない、10や20程度の差はあれど大きな違いはない。しかしここは現実、当然軽く当てただけの攻撃と思いっきり振り抜いた攻撃ではダメージ量は全く違う。
つまり1人目は軽く斬られただけでダメージは少なくただの怪我で済んで、2人目は体を真っ二つにされて大ダメージを受けて即死した。やはりこういう所もゲームとは違う様だ、つまりいくらステータスが高くても人体には限界があると言う事だ。
身体能力が上がっているとは言え、俺だって隕石がぶつかれば死ぬ可能性がある。数値的には耐えられる攻撃でも人体の都合上耐えられない場合もあるのだ。
例えばHPが1000の人間に、攻撃力が1しかない剣で首を攻撃したとしよう。ゲームならば攻撃を受けた人間はHPが999になるだけなのだが、現実では刃物で首を攻撃されれば頸動脈が切れてしまい出血多量で死んでしまう。ゲームでは1しかダメージを受けない攻撃でも、現実では1000のダメージを受ける可能性があると言う事だ。
「ふむ、ゲームでは気にしていなかった部分も気にして戦わないとな………。」
下手に攻撃を受けると危険なので、武術スキル《見切り》を使う。これで視界に入る攻撃は完璧に見切れる。
「何をブツブツ言ってんだよ!」
「おっと!ちょっと考えに没頭し過ぎたな。」
ブツブツ独り言を言っていたのが不気味だったのか、既にマストに登って来ていた船員達は中々攻撃してこない。向こうが攻撃してこないなら此方から攻撃する。
手っ取り早く一番近くに居た赤いバンダナを着けた奴に近付き縦に一刀両断する、そして隣に居る緑のバンダナの奴を降り下ろした剣の返す刀で斬り捨てる。ここでやっと他の奴等が反応し、斬り掛かって来るのを聖銀剣で捌いて行き、目の前に居る黄色のバンダナの奴を蹴り飛ばす。
蹴られた奴は他の奴等に当たり、一緒にマストから落ちていく。それを確認する事なく近くに居たピンクのバンダナを着けた奴に、滅茶苦茶派手なバンダナだな!と思いながら斬り掛かる。しかし上手く受け流されて体勢が崩れてしまい、隙を狙って居た船員達が一気に襲い掛かってきた。
「死ねぇ!!」
「甘い!プリンに角砂糖とガムシロップと蜂蜜を掛けて杏仁豆腐とメープルシロップにミルクチョコと生クリームを混ぜた物並みに甘い!」
崩れた体勢から強引に体を捻らせて、ブレイクダンスをするかの様に体を回転させる。すると剣も一緒に回り、四方から迫る剣を弾き返す。そのついでに回転しながら俺を囲んでいる奴等の足を斬りつける。
当然足を斬られれば痛いに決まっている、痛みでしゃがんだ所を素早く武術スキル《エアーアサルト》で空中に蹴り上げる。《エアーアサルト》は当てた相手を上空に打ち上げる効果を持っているので、しゃがみこんでいた奴等は空中に投げ出される。
「ただマストから落とすだけじゃあ芸がないな………。足技で仕留めてみよう。」
格好良く足技を決めるならば、武術スキルの《ラッシュ》と《デッドフェンサー》の組み合わせがいい。《ラッシュ》による連続攻撃と敵の弱点を的確に撃ち抜く《デッドフェンサー》の組み合わせは強力だ。
そうと決まれば急がないとな、こうして考えている間にも蹴り上げた船員達は落ちていっているのだ。手早く近い奴の元まで天上人の靴の力で走り寄って、スキルを使う。《ラッシュ》により何十もの蹴りが首や心臓、頭等の弱点に決まり、食らった船員のHPを0にする。
それを確認してから、次の船員の元へと走り寄る。落ちていっているのは全部で6人、1人1人にスキルを使っていたら間に合わないので何人かは剣で斬りつけて息の根を止め、最後の1人は飛び蹴りを食らわせる。
「足技で仕留めたの2人だけだな………。」
地面に着地してから気付いたのだが、結局何人かは剣で仕留めてしまい蹴りで仕留める事は出来なかった。格好良く足技を決める予定が全く足技が使えなかった。
「まぁいいや、取り敢えずお前等船員じゃあ話にならねぇから黒ひげを呼んで来い!」
戦ってみて分かったのだが、どうやらモンスターがゲームの時より弱いみたいなのだ。勿論ステータスは変わってないが、ゲームと違い心臓を貫かれればさ即死する点等がゲームよりも弱く感じる原因だろう。
「誰か船長を呼んで来い!こいつは俺達じゃ敵わねぇ!」
「やっと黒ひげの登場か?こういう所はゲームと変わんねぇな。」
ゲームの時も黒ひげは船員を一定数倒さないと船長室から出てこないのだ。今のところマストの上で倒した奴と蹴り落とした奴等を合わせて30~40人くらいは倒しているので、そろそろ出て来る頃合いだ。
お待ちかねの黒ひげが出てくるのを待つ間、周りに居る邪魔な船員達を片付けておこう。まぁかなりの人数倒したから、残りはほんの数人しかいないので、大した事はしない。軽く実験を兼ねてスキルを使うだけだ。
武器での攻撃ではゲームと違う点があったので、スキルでの攻撃でゲームとの違いが有るかを確認する。
「《高熱気体》、灼熱の空間でどれぐらい耐えられるかな?」
《高熱気体》、自らを中心に半径約25m内の空気の温度を上昇させて、範囲内に居る敵に継続的なダメージを与えるスキルだ。与えられるダメージはそこまで高くはないが、MPが無くなる迄発動出来るので、一時的に毒等を追付するスキルよりも使えるが、断熱効果を持つ装備を着けている相手には効果がないと言うデメリットもある。
しかしこれは所詮ゲーム上での設定だ。現実で周囲の気温が上がれば、ダメージ等関係なく様々な症状を引き起こす、例えば目眩や吐き気、痛みを伴った筋肉の痙攣や強い疲労感、口の渇き、頭痛、失神、昏睡、発汗停止、多臓器不全、血圧上昇等々、所謂熱中症、熱射病、日射病と呼ばれる症状が出る。
熱中症では年間1700人近くが死亡しているのだ、周囲の気温が上がるのがどれ程脅威になるかがよく分かるだろう。
しかし1つ問題がある。気温の上昇により何かしらの効果があるか?と言う事だ。ここは現実だが、たまにゲーム上のシステムや設定が見受けられる。もしかしたらこの《高熱気体》はゲームの時と同じ様にただ一定時間毎にダメージを与えるだけかもしれないし、ゲームには存在しない効果を引き起こすかもしれない。
それを確認するのだ。
「ギャァァァアアッ!!熱い!」
「うがぁぁあ!?苦しい!」
「………予想外の効果だな。」
《高熱気体》を使ってものの20秒程度で近くに居た船員達が気を失い倒れ、30秒程で一番離れていた奴が吐いた。40秒は経った頃には近くに倒れていた奴等の皮膚が爛れ始めた。熱せられた空気で火傷を負っているのだろう、全身に溶けた鉄を掛けられた様な状態だ、気絶していた奴等も飛び起きて熱さのあまりのた打ち回る。
流石にこれは見ていられないので、《高熱気体》を解除する。すると肉の焼ける臭いが漂ってくる。これを嗅ぐのは2度目なのでもう慣れたのだが、やはり何度嗅いでもいい気分にはならない。
不快感MAXの中で黒ひげを待っていると、船の後部にある船長室の扉が開き人影が見えてきた。髭に編み込まれた導火線が少量の煙を上げており、なんともインパクトがある見た目の顔が見えてきた。腰に9本の剣と6丁の銃を差して、黒色のコートを羽織っているその姿は見慣れたゲーム内での黒ひげと変わらない。
しかし1つだけ違う所がある。それは言葉で現すのが難しい、言うなれば強者の覇気と言ったところだろうか?一目見るだけでその強さが分かるオーラを纏っている。
「お前か?我が部下を葬った敵は?」
「………あぁ、あんたの部下は俺が殺った。」
「そうか………愚かなる人間よ、我が剣の錆となれ。」
会話とも言えない程の短い言葉のやり取りをした後、黒ひげは腰に差してある剣の1本を抜き放つ。それに応える様に波がうねり、潮風が吹き荒れる。俺も聖銀剣をしまい、草薙の剣を取り出し抜刀するーーーと同時にうねっていた波が吹き飛び、潮風の風向きが変わる。
お互いがお互いに相手の力量を理解して本気で武器を振るう。この瞬間、世界最強の男と海上最強の海賊がぶつかった。
次回はいよいよ本格的に黒ひげと戦います!戦闘描写は苦手なので、今まで以上の駄文になりそうですがよろしくお願いします。