第一章 五話 戦いのあと
城下町へ戻った三人はギルドにて依頼完了手続きを行った。アリスから依頼完了の印を押される。
「クレア、ほんとにありがとう。助かったよ。」
ミヅキはクレアに握手を求めた。
「最後の一撃は少しやりすぎだったかもしれないですね。」
そういってミヅキの握手に答えた。ミヅキにはその言葉の意味がよく理解できなかった。そして、クレアと別れた。
『ミリア』
「はいはーい♪お呼びですかぁ。ご主人様。」
ミリアを呼び出し、クレアの言葉の意味を尋ねた。
「それはですねぇ、ワームの性格的には、ってことでしょうかねぇ。ワームって普段は大人しいんですよ。だけどクレアさんの最初の一撃から怒り出して、止めまで刺さなければならない状況になったからでしょうかねぇ。」
つまり、クレアはわざとワームを怒らせて戦っていたと、そういうことなのだろうか。恐ろしいな、クレア。確かに退屈だと言っていたけど、そこまでする必要があったのか、とも思えてきた。
「ま、なんにせよ、ご主人が無事ならいいんですよ。」
とミリアは締めくくる。ミヅキもそうかと無理矢理納得した。
ギルドを出ると、カズマが待っていた。
「ミヅキさん、ありがとうございました。まさかあんなのが出てくるとは思わなかったです。クレアさんの攻撃すごかったです。クレアさんがいなかったらと思うと…」
カズマにはさっきのミリアの話は伏せておいた方がいいだろう。
「カズマさんも商売頑張ってください。娘さんたちを幸せにしてあげてくださいね。」
カズマと別れた。
さて。
今日はもう疲れたから、宿でも探して寝ることにしよう。ミヅキはミリアと一緒に宿探しを始めた。
「ミリア、この辺にはどんな宿がある?」
「城下町周辺で、宿と言えばピンキリだよ。例えば、あそことか。」
ミリアが指差したのはいかにも古くさい宿。看板の塗装も剥がれかけている。あそこには泊まりたくないな、と思ってしまう。
「他には、んっとー、あそことか。」
なるほど、確かに宿っぽい。一軒家で、瓦葺き。日本の民家の様な雰囲気。まさかこの世界で瓦葺きを目にするとは思わなかった。
「よし、そこにしよう。久々に国に帰った気分だ。」
とはいっても、この世界に来てまだ二日。それでも、すごく長い時間だったように感じる。
「こんばんわー。」
「あらいらっしゃい。お兄さん、泊まっていくかい?」
「ええ、よろしくお願いします。」
提示された金額を払う。思っていたよりもずいぶん安い。クレアの言うミカン10個分くらい。依頼達成でミカン20個分だったから、結構プラスになった。
「部屋は、二階になります。」
そういって、そこの女将さんに案内された。
『ゲイズ』
★美智子
Lv.17 rankF
種族.人間《女・37》
装備.和服
スキル.☆もてなしの心☆茶道
ものすごい人だな、ある意味。一応、スキルの効果を調べておく。
★もてなしの心:宿屋などでお客を泊めると、体力以外にストレスも回復させることができる。
★茶道:美味しいお茶を入れる。
まさに、宿屋のためにあるようなスキルだ。
部屋に通されると、畳があった。これまたすごい景色だ。まさかこんなところで畳が拝めるとは。いきおい余って、畳に飛び込んだ。
痛かった。
ゴロゴロとしているうちに、夕食の時間になる。
「失礼します。夕食をお持ちしました。」
そういって美智子はドアを開ける。これが、ドアじゃなくて襖とかなら完璧なのだけれど。欲は言うまい。
ミヅキの前には夕食が並べられた。米に魚に、漬け物まで。すごいすごいすごい!ずっとここに泊まろうかなぁー。とさえ、思えてきた。
「ごゆっくり。」
そういうと美智子はドアから出ていった。
『ブックマーク』
白紙のページをペラペラとめくっていく。スキルが増えてた。
☆地震:地面を揺らす。震度はレベルに依存する。
使う機会がなさそうなスキルだが、やけくそになったときに使えるかもわからない。
「なぁ、ミリア。この国の奴隷制度っていつから続いてるんだ?」
「もう、この国始まってからずっとだね。この国の偉い人たちの生活は奴隷制度ありきで成り立ってるようなもんだからさ。」
「どうにかできないかな。」
「そうだねー。だけど、奴隷制度のお陰で生きてる奴隷がいるのもまた事実だよ。」
「というと?」
「奴隷になるひとって訳ありが多いんだよねー。んで、そんな人たちを雇う雇い主って、割かし裕福な人たちだから、奴隷で有る限り働き続けるんだけど、奴隷でなくなれば働くこともできない人がたくさん出てくるって訳さ。」
平たい言葉で言うと、持ちつ持たれつってやつか。だけど、ハーミットのことは放ってはいけない気がする。次、なにかをするとなれば、ハーミットのことか。
ミヅキは自分のステータスを確認して床についた。
★ミヅキ
Lv.7 rankG
種族.人間《男・24》
装備.浴衣
スキル.☆ブックマーク☆SP召喚☆異空間BOX
レベルが相当上がってる。ワームを倒したのがクレアでも、経験はしたことになるのか。
いまいちレベルの存在がわからない。
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「おはようございます。」
耳元で声がした。ビックリして飛び起きると、かわいらしい女の子。
女の子?
なんで?
眠たい目を擦りながら、じっと見る。どこかで見たことあるような、ないような。
あ。
「すみません、来ちゃいました。」
彼女か!って突っ込みたかったけど、とりあえず深呼吸して冷静になろうとする。
「聞いていいかな。どうして君がここにいるのかな。アリス。」
かわいらしい女の子はアリスで、顔を見てもピンと来なかったから、乳を…
「実は、この宿屋。」
まさかの違法営業…?
「私のおうちなんです!!」
ええええええーーーー!!!
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。母に聞いたらミヅキって人が泊まってるって言うもんだから、一度見てお仕事いこうかなぁと、思いまして。」
そりゃ、どーも。と心のなかで呟く。
「ただの営業ですよ。新人さんなんだから、どんどん依頼をこなしてもらわないと。それじゃ、待ってます。では!」
アリスは出ていった。ポカンとするミヅキ。今日はギルドにいきたくなくなった。
そして、連続攻撃。
「おはようございます。」
美智子さんです。名前、雰囲気全然違うけど、そういうのもありなんですね、この世界。
「まさか、アリスちゃんのお知り合いだとは。もう少しおまけしたらよかったですね。」
「いえいえ、十分良心的なお値段ですよ。」
そう言うと、美智子はにっこりとして朝食を置いていった。
朝は、米と味噌汁まであるのか。シンプルな和食を堪能し、宿を後にした。