第一章 四話 Lv.44(後半)
なんか、色々とばれてないか?ヤバイと思ったがアリスは何も言わなかった。個人情報保護の考え方があるのかな、とも思ったが、あとでミリアに聞いたところによると、ギルドカードにかかれてあるスキルは本人以外見ることができないとか。一応異空間BOXの存在がばれなくてよかった、か。
約束通り、クレアは依頼ボードの前で待っていた。
「無事に登録できたようね。そしたら、さっそく依頼を受けましょう。えっと、どんな依頼がいいかなぁ。」
ミヅキは依頼ボードのrankGのまとまりを眺めた。特に気になる依頼はない。それこそ掃除洗濯から溝掃除、害虫駆除が大半を占める。
ん?
ひとつ目に留まった依頼があった。
【仲買人護衛】
rankG 難易度★★☆
依頼人.ナツメの商人
城下町にきて商売を始めようと思うが、とりあえず交易に手を出してみることにしたんだ。隣町まで護衛を頼む。
もう行動してるやつがいるみたいだな.
「じゃあ、これで。」
「OK♪特に注意することはないけど、時々強い魔物が出る地区でもないし。大丈夫よ。」
「では、お願いします。」
依頼ボードの紙を剥がして、アリスのもとへ持っていき、受付を済ませる。アリスは手慣れたもので、すぐに受理してくれた。
「クレアさんが同行されるなら余裕ですね。」
そんなこともいっていた。
依頼開始時間まで、一時間ほど時間があったので、クレアさんと一緒に城下町を見て回った。そこでやっとクレアさんから自己紹介をされた。
「アリスが言ってたから、すっかり自己紹介忘れてたわ。私はクレア。さん付けしなくていいよ。ミヅキのことも呼び捨てにするから。仕事は、公安委員で町の安全を守ってるの。」
自己紹介遅いよ。何度もクレアさんと呼ぼうとしてしまったじゃないか。ミヅキは先ほど一通り見て回ったのだが、クレアに色々とアドバイスをもらいながら、装備品を中心に見て回った。
「まず、その服をどうにかしなきゃね。」
と、買ってくれた。ありがとうございます。
「武器は、これかな?」
と、買ってくれた。もう持ってるんですが、ありがとうございます。
「アクセサリーはこれかなぁー、とりあえずは。」
えっと、完全にヒモじゃないですか、俺。と、言いそうになったが、あとで必ずかえそうと決心して、厚意に甘えることにした。
『ゲイズ』
★ミヅキ
Lv.3
装備.鉄の剣 布製の服 回復の守り
スキル.☆ゲイズ☆ブックマーク☆SP召喚☆異空間BOX
それなりの装備が揃った。回復の守りに対して『ゲイズ』を使う。
★回復の守り:攻撃を受けたとき、自動的に回復魔法の紋章を描き、発動する。効果は一日に一度。
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約束の時間が来た。見たことある、村人が少し遅れてやって来る。
「すみません。遅れました…って、ミヅキさんじゃないですか。」
ごめん、俺、あなたの名前知らないや。
『ゲイズ』とぼそりと唱える。
★カズマ
Lv.2
種族.人間《男・37》
職業.仲買人
装備.そろばん 布製の服 安全祈願の守り
スキル.☆暗算☆商売繁盛
★商売繁盛:売りの寸前に金額を1割吹っ掛けることができる。
ものすごいスキル持ってるのね、カズマさん。
「カズマさん、さっそく仕事ですね。よろしくお願いします。」
「ええ、娘っ子二人養わなければならないので、お金を稼がなければならないんですよ。ははは。」
大変だなぁ、お父さんも。
クレアの紹介をすると、嫌らしい目で一瞥(した気がする)すると会釈をして荷車を引き始める。
道中、クレアも気づいたみたいで、
「あのおっさん、やらしい目で見てる気がします。」
と言っていた。
「多分、クレアがセクシーなのだと思う。」
とフォローしておいた。
始めにクレアがいっていたように、隣町まで特に危険はなかった。特にというか、全く危険はなかった。魔物ひとつ出てこない。
隣町まで約六時間の道のり。平坦な道が続いて半ば休憩をはさみながらの移動だった。
「退屈な依頼ですね。」
クレアはぼそりとミヅキの耳元で呟く。ミヅキは顔色変えず、頷き返す。
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隣町についた。町は城下町ほどではないが、商人の町といわれるくらいには賑わっていた。
「そしたら、仕入れしてくるから少し待っててくれ。」
カズマはそういうと空の荷車を引いてどこかへいった。
「ミヅキ、少し訓練していきませんか?」
クレアは戦いたくて仕方がないといった雰囲気だ。俺も戦いたかったし、それにただの一匹も戦わないで依頼達成なんて依頼らしくないので、クレアの話に乗ることにした。
「この辺にはちょうどいい魔物が出るはずなんです。」
二人で町の外れまで出てくる。町の外れには、小さな魔物がちらちらと見える。
「私がサポートしますので、何匹か戦ってみましょう。」
その言葉に威勢よく「はい。」と返事し、小さな魔物へ剣を構えた。
『ゲイズ』
★スラりん
Lv.5
種族.物質族
スキル.☆ねばねば☆体力自動回復
剣を鞘から抜き、スライムに一閃を浴びせる。しかし、あっけなくかわされる。あれ?こんなはずじゃなかったのに。そう考えているうちに、スライムは形状を変え始める。
☆ねばねば
ミヅキの顔面にスライムはくっつく。あれ?ヤバイかも。息ができない。鼻の穴だけでもと思い、必死にスライムを剥ぎ取る。案外しぶとかったが、なんとか引き剥がし、地面に叩きつけた。
「はぁはぁ。」
「気を付けてください。また来ますよ。」
クレアの言葉はよく聞こえるが、少し酸素が足りない。体が動かない。
形を取り戻したスライムは、再びスキルの構えをとる。なんとか息を整えることができた。
☆ねばねば
先ほど同じように、顔面に向かって体当たりしてくる。
させるかよ!!
カウンターとでも言わんばかりの斬撃だったはずだ。手応えあり。スライムを一閃した。スライムはその場から動かなくなった。
「おめでとうございます。初魔物討伐ですね。」
クレアが笑みを浮かべる。可愛い。でも、スライムにこんなに手こずる俺はカッコ悪い。
「案外強かった。はぁはぁ。」
安心と同時に息が上がる。スライムが倒れたあとにはなんだか光るものが落ちていた。
「これは?」
クレアに尋ねる。
「これは、生命の塊ね。魔物を倒すと落とすんだけど、町で換金しなきゃ役に立たないわ。」
とりあえず、拾っといて損はないか。むしろ拾わないともったいない。クレア曰くスライムの生命の塊はミカンひとつ分くらいのお金になるそうだ。よくわからなかったので、ポケットに入れるふりして異空間BOXに収納した。
そのあと、何匹かのスライムと、一匹のオオネズミを倒して、町へ戻った。
★ちゅーた
Lv.3
種族.ネズミ《オオネズミ》
スキル.☆かみつき☆ローリングアタック
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町へ戻るとカズマが大きな荷物をのせた荷車を重そうに引きながら、やって来るところだった。時間的にちょうどよかったみたいだ。
「そんなにたくさん仕入れたんですね。持って帰るの大変そうだ。」
「いやぁ、さすがに買いすぎたかなぁって思いましたが、頑張らなきゃならんのでなぁー。」
カズマとミヅキで笑ったが、クレアは苦笑いしていた。出会い頭のやらしい目は女の子には尾を引くものなのだと学習した。
ある意味期待を込めながら、左手をかざした。
『ブックマーク』
ペラペラとページをめくると、スキルが増えている。
☆ねばねば
☆かみつき
☆ローリングアタック
☆ナイフ投げ
どうやって使うものかと、悩んだが、使い道のないスキルをあえて使うものでもないかと、本を閉じた。
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城下町へ帰る途中、何度か休憩をはさんだが、またしても魔物はいなかった。
「クレアの戦うところ見てみたかったなぁ。」
と、小声でいったつもりだったが、クレアはニコッと微笑みながら頷きを返してきた。
どういう意味なんだろう?
その意味を知るのは、その数分後。クレアは声をあげた。これまでに聞いたことないような大きな声。
「カズマさん、止まって!」
へ?と、カズマは立ち止まる。一緒に歩くミヅキもつられて立ち止まる。次の瞬間、激しい揺れが荷車を襲う。なんとか倒れないように支え、踏ん張った。
「ミヅキ、カズマさんと荷物を守ってください。」
「は、はい。」
とはいったものの、守れるとかそういう状況じゃないの一番知ってるのクレアでしょうが。
地中からなにかが来る。
揺れは治まったり、激しくなったり。荷物を支えるのも一苦労だ。
そして、その正体が明らかになった。地中からズドンと大きな音を立てて、ミミズのでかいのが現れた。なんか、見たことあるぞ、サンドワームてやつだ。昔、ゲームのボスで出てきたようなビジュアル。クレアはハンドガンを二丁構える。
『ゲイズ』
★グリム
Lv.35
種族.巨虫族
スキル.☆地震☆ロックブラスト☆ドレインブレス
レベル的には、クレアが勝っているが、ビジュアルはヤバイかもしれない。
先に動いたのは、クレアだ。ハンドガンをワームの目に打ち込む。数発打ち込んでワームが怯むと、その隙にハンドガンをガチャガチャやって、ショットガンになった。その動作が早すぎてミヅキにはよくわからなかった。
ショットガンを今度は口のなかに打ち込む。クレアは動かないが、ワームは逃げようと必死である。
圧倒的すぎる。
☆ロックブラスト
ワームも反撃を試みるが、全ての岩をショットガンに打ち砕かれる。
「じゃあ、特別を見せてあげますね。」
クレアはそういうと、ショットガンを構えたままスキルを唱える。
☆武器チェンジ
ショットガンは光を放ち、形を変えた。昔ゲームで見たことある。ガンブレードだ。
クレアは一気にワームとの距離を詰める。ワームはここぞとばかりにスキルを放つ。
☆ドレインブレス
ワームから茶色の息が吐き出されるが、クレアはガンブレードのトリガーと同時にブレスを切り裂く。
☆スペシャルショット
☆弱点特効
☆オートリロード
クレアはワームの足元から、一気に背中の方へ回り込み、頭の上へ立ち、光を放つガンブレードを脳天に突き刺した。そして、トリガーを何度も引く。
ドンドンドンドンドンドンっっっ!!
まさに脳天が弾けるとはこの事だ。ワームの頭は見る影もなくなった。そして、その場に倒れこむ。
役目を終えたガンブレードは、ハンドガンへと姿を変えた。どんな原理なんだろう。
「ふう。いい運動になりました。」
そういうクレアはさっきまでのクレアだ。さすがLv.44。強さがけた違いだ。ワームの中から生命の塊を回収し、城下町へ向かった。