1.01 里香
「ここは……ど……こ……?」
目の前に広がるのはどこかの高校だった。
「誰か……助けて……」
手を伸ばそうとするが動かない。
体が何かに拘束されている。鎖だ。鎖で拘束されている。だがただの鎖ではない。呪術が掛けられている鎖である。それも私の呪術を封印する強力な呪術である。
呪術というのは、闇の力で闇の契約者と一定の呪術に掛けられた者しか使うことができない、と聞かされている。
私は死んだ。シージャックの犯人ではない、謎の人物に殺されたのだ。それも船の中ではない。周りが真っ暗な闇の世界で実験台のような場所で実験に使われた。その実験は魂の隔離する実験らしい。魂と体と隔離することは成功したが魂は固体化し10個に分裂して地域内のどこかに拡散したのだ。
強力な呪術者であるその人は魂をとられる間際にある呪術を掛けた。それこそが『doll』である。『doll』の能力は相手を人形にする代わりに動いたり言葉を話したりできる。と、ともに限られた能力ではあるが呪術が使えるようになる、と言うものである。
「くっ……。動いて! 動いて!」
だが動かない。足も何もかもピクリとも動かない。動くのは頭だけである。
「何で動いてくれないの?」
気合で鎖を無理に引きちぎろうとする。だが、体中に痛みが走るだけで何も変わりわしない。
「何で動いてくれないの? 動いてよ! 動いてよ!」
体に力を込めてみるが全く動かない。
「ならば! 第二呪術式発動! シスペリオサンダー!」
呪術名を口にするが、起こるのは鎖から放たれるスパークだけである。
諦めて目の前を向いたとき外の道路に何かが見えた。見覚えのある。こんなに遠くても分かる。分かる、分かる!
「分かるよ! 守!」
そこに見えたのは、高校生の守だった。守が静かな道路を一人で歩いている。
「守! 気づいて守! 抜け出して守と会わないと!」
守は気づくはずもない。
「気づいてよ……守……」
私の目からは涙が零れ落ちていた。頬を滴り落ちていくのが分かる。
守に会いたい! 会いたい! 会いたい!!
「シスペリオサンダー!」
会いたい! 会いたい! 会いたい!
「会いたーい!」
その時、奇跡が起こった。シスペリオサンダーが発動されたのだ。真っ暗闇の空から一対の光の束が落下していく。そして、鎖に直撃した。鎖はみるみるうちに焼切られていき、とうとう消滅した。
自由になった私は呪術で結界をぶち破り外に飛び出す。
リアルな"落ちていく"という感じがする。落ちていくスピードは速く悲鳴をあげる隙もなかった。
ドガン!
自分の体が地を叩く。痛みは感じない。人形は痛みは感じないのだ。
目の前には守がいた。
守はふらふらとしていて気づいていないようだった。だが、守に会えたうれしさは尋常ではなかった。人形に"泣く"などないのに涙があふれそうになった。