1.00 守
キーンコーンカーンコーン
チャイムが高々と響き渡る。
「ん……? うぉ!」
俺はバッと起き上がり周りを見渡す。
「ほとんど……人がいない……なぜ?」
「なかなかロマンティックな質問をするんだねぇ。守君は入学した直後の授業でぐっすり寝ちゃうんだから」
結構可愛い少女が声を掛けてくる。一応入学式の日に可愛い女の子がいないかをしっかり下調べしている。結果可愛い女子の比率がかなり低かったのだがこれほどまで可愛いとは……
「なにエロい視線でみてんのよ! 変態!」
と言われ、バチン! と俺の頬が豪快な音をたてた。というか、そんなにエロい視線になってたか!?
まぁこの引っ叩き女が市ヶ谷鳴海である。不運にも隣の席……
「女子にいきなり引っ叩かれるなんておもしろいね」
と言ってきたのは中学の同級生の古谷健吾 である。
「おもしろかねぇよ! 痛いだけだ。いつか真っ赤になって学校来れなくなるぜ!」
これはまじですよ! 本当に!
「いやいや、そんなことないよ。似合ってるよ、その真っ赤な頬。と、まぁそれはいいんだけど……。今日予定してたクラス皆でやるカラオケなんだけど一人が用事入っちゃって。できないんだよ。守が寝てた時に発表したから分からないだろうから一応伝えといた」
「一応って何だ! 一応って。まぁいいけどな……。じゃあ帰るわ、俺。まだ眠いから……」
「あれだけ寝といて、一体君はどこの星の人だい? 火星人に決まってるか」
いや決まってないから! 俺は地球人だよ!?
俺は席をさっさと立ちよろよろしながらも頑張って廊下を歩き靴箱を目指す。なんとか靴箱に着くと俺のっぽい靴を取る。それを履こうとすると古谷と書いてあるタグをかろうじて見つけたのでそれを靴箱に戻して(場所は開いているところに入れといた)俺の靴を取りそれを履き外に出る。予報では子に時間帯には雨が降ると言っていたが全くあてにならない。ピンピンに晴れてるじゃないか。
朦朧となりながらもかろうじて開いている目達に起きろと信号を送り目が復活したところで家に向かって歩き出す。
タカ……タカ……
静かな道に靴が地を叩く音が鳴り響く。
タカ……タカ……
静かな道に靴が地を叩く音が鳴り響く。
タカ……タカ……
静かな道に靴が地を叩く音が鳴り響く。
ドガン!
気のせいだろうか爆発音っぽいのが聞こえた。俺も幻聴が聞こえるぐらいに神経衰えたのかな? んなことはないよな。そう思い再び前方に視線を向けると目の前には人形があった。俺の身長より少し低いぐらいの彼女の――里香の人形だった。本当に里香に似ている人形だった。
「り……か……?」
「里香! 里香!」
俺は目の前の人形を抱きしめていた。当たり前に肌の感触も返事もない。だが抱きしめていた。喋るはずはない……。
「あ……なた……は……守……?」
人形が喋る。
「そうだよ! 里香! って人形がなぜ喋る?」
「私は姿形は人形だけど魂は里香なの。ねぇ助けて、守。私を生き返らせて」
「でも待て。里香はあの事件で行方不明になってそのまま遺体すらでてきていないんだ! というか、里香の魂ってなんだよ!? ありえるわけないじゃねぇか! この人形が里香ならその証拠を見せてみろ!」
つい、カッとなってしまった。里香、里香と言い張る謎の人形(しかも言語能力が備わっている)が許せなかった。好きだった里香は辱めるような行為はやめてほしいのだった。
「いいよ。見せてあげる。守と最初に遊んだ場所は坂之上第三公園で守が私に向かって最初に喋った言葉が、里香……パンツ見えてるよ……、だったよね。私が最初に喋った言葉は、……守のエッチ……、だったよね」
全て的中している。というか、そこは思い出しただけでも恥ずかしい。そこを突いたということはこやつ本物だな。
「里香……。本物なんだな。本当に本物なんだな。これは日々の疲れとかで起こった幻覚とかじゃないんだよな」
「うん! うん! うん!」
里香はとてもうれしそうに頷いていた。
「里香、とりあえず俺の家に来てくれ。姿形が人形なのに喋ってるってさすがに変人扱いされる。酷くて、お巡りさんに捕まって交番まで連れて行かされる。知ってたか? 今の交番での扱いがとても厳しくなっているんだぞ」
今の日本では対応しきれなくなった犯罪のせいで交番がいくつも作られされ、人材も4人以上を配備して牢屋も設置されるようになり、ちょっとの犯罪を犯した者には懲役1年または懲役6か月が与えられる。交番に連れて行かれたらまともな学校生活なんてできない。
「それは大変ね。すぐ行きましょう」
俺と人形――里香は少し急ぎ足で俺の家に向かった。