元素21サイドストーリー Li編
「ふぅ……今日も疲れたなぁ」
黒鉄徹哉が杵島ギンと、中臣ジョンソンが杵島蛍と出会っていた頃。
「あ〜……気持ちいい……」
施仗明子は銭湯に来ていた。
先程まで実家の道場で剣術に励んでいた明子。
施仗道場と明子の自宅とは約500メートルほど離れており、その間にこの銭湯があるのだ。
自宅に風呂はあるものの、基本広い風呂好きの明子は道場帰りによくこの銭湯を利用し、汗を流していた。
「あ〜ったかい〜」
明子は頭にタオルを乗せ、のぼせるまで湯船に浸かっているのであった。
「ふぅ……いいお湯だった」
銭湯からあがり、右手にコーヒー牛乳、左手に竹刀を持ち、すぐ目の前にある自宅へ向かう明子。
「う〜ん……やっぱりお風呂上がりにはコーヒー牛乳だわ」
ゴクッと豪快に一口飲み、ぷはぁっと息を吐く。
空はもう薄暗く、星もちらほらと見える。
夏の夜だけあって、とても蒸し暑い。
「コーヒー牛乳がぬるくなる前に飲んじゃわないと!」
そうして、コーヒー牛乳の飲み口に唇を当てた、
その時……
「……施仗明子だな?」
「ん?」
近くの電信柱の影。
そこに、人影が見えた。
「……誰?」
夜のため、暗くて顔が確認出来ない。
明子はその場で立ち止まり、よく目を凝らして人影を確認。
その瞬間……
「影斬ッ」
「……えっ」
電信柱の影から、鈍く光るモノが見えたと思った途端!
その光は、明子目掛けて高速で放たれた。
「うわっ!!」
明子は右手のコーヒー牛乳を途端に捨て、竹刀を両手で持ち、その光を受け止めた。
「……って、これは」
受け止めて分かった事。
その光は、銀色に輝く短剣の刃だった。
そして……
「……誰?」
電信柱に隠れ、短剣を振るった人物。
身長が190センチあろうかという、大型の男だった。
体つきは筋肉ありの細めな体型。
黒いTシャツに薄い黒のベスト。
下も黒いジーンズ。
黒い短髪、鋭い瞳。
正直、かなりのイケメンだ。
「……俺は杵島黒磨。杵島はがねの兄だ」
黒磨は低く冷たい声をしていた。
「杵島先輩の……お兄さんっ!?」
一方の明子はビックリしたかのような高い声。
実際、ビックリはしていたが。
「……施仗明子。貴様を捕縛させてもらう」
「……え?」
黒磨の言葉に呆けをとられていた明子。
しかし、黒磨は短剣を逆手に持って構える。
「牙刃ッ」
それは一瞬だった。
相手の呼吸のタイミングを計り、一瞬で相手に接近。
歩あいを半歩ずらし、相手の反撃に備えつつ、一気に短剣を振るう。
「……っ!!」
かなりの剣技。
明子は訳も分からずに、その刃を右肩に食らった。
「痛っ……」
肩からは出血。
明子はすぐさま後退。
しかし、黒磨は追撃。
「哭突ッ」
これまた相手の呼吸に合わせ、半歩ずらした上での強烈な突き。
「な、何なのよッ!」
明子は咄嗟に動き、竹刀を構え、突きの切っ先を右にずらした。
「あなた、杵島先輩のお兄さんなんでしょ? 何なんですか一体!?」
「牙刃ッ」
黒磨は明子の問いには答えず、次々と刃を振るう。
「ちょっ、待っ……」
かなりの速い斬撃。
明子は何とか刃を竹刀で受け止めていたが、徐々にその速さについていけなくなる。
「哭突ッ」
そして、何度目かとなる黒磨の突きを弾いた明子は、ここで初めて反撃に出た。
「もうっ! と、とにかく……」
明子は腰を低くし、竹刀を水平に構え……
「施仗桜花流一ノ型“桜吹雪”ッ!!」
強烈な横斬撃。
しかし……
「……フン」
元々半歩ずらしていた黒磨には、明子の竹刀の先端が少しかすっただけだった。
「うそっ!?」
「……甘いッ」
斬撃をかわした黒磨は一気に距離を詰め、明子に接近。
そして……
「首討ッ」
明子の首に、黒磨の短剣の刃が迫った。
「しまった……」
そして……