元素21 うわ、今回から一気に真面目なパートに入ったよ!!
夕暮れが沈み、夕闇が辺りに充満する。
暑さもあるが、若干だが心地よい風も吹いてきた。
夏の夕方―――
「久しぶりだな。探したぜ」
杵島先輩との下校中、突然現れた謎の赤い男。
髪もスーツも赤。
……奇抜や。
そして
「…………っ」
杵島先輩は無言を貫いていた。
その顔は……真っ青だ。
……ってか、
「あ、あの……どちら様ですか?」
初めて会った人にはまずお名前を聞く!
これ基本や!!
「……そういう時は、まず自分から名乗るモンだろ?」
あ……真顔で返された。
うーん……全く知らない人に名前教えていいのかな?
なんか……個人情報流出しそうだよね。
「え、えーっと……」
「……杵島ギン」
「えっ……?」
さっきまで黙りこんでいた杵島先輩が、その重い口をゆっくりと開いた。
「そいつの名前は杵島ギン。私の……実の兄だ」
そう言う杵島先輩の瞳は、ひどく怯えているような瞳だった。
……あのハイテンションバカの杵島先輩が怯えている?
そして……人の名前を元素記号で呼ばずに、素の名前で呼んでいる。
なんだ……この感じ?
ってか、それ以前に……
「えっ? お兄さんッ!?」
この不良丸出しのこの人が、兄貴だ!?
似てねぇ……
その時、お兄さんがゆっくりと口を開いた。
「さぁはがね。家へ帰ろうか」
そう言いながら先輩に接近するお兄さん。
その瞳は……鋭い。
「…………」
そして相変わらず無言の杵島先輩。
俺、気まずい。
「……相変わらず、反抗的だな」
お兄さんは右手を出し、その先輩の頬に触れる。
そっと頬を撫で上げ、その手は髪へ。
先輩は顔こそ逸らさないけど、目はガチで逸らしているし。
「……こっちを向け」
お兄さんが呟いた。
「こっちを向け、はがね」
「…………」
先輩は相変わらず無言を貫く。
「こっちを向けッ!」
ちょ、お兄さん?
顔、なんか怖くなってますよ?
ナマハゲみたいになってますよ?
「…………」
先輩動かず。
もしかして兄妹喧嘩?
しかし、次の瞬間……
「はがねッ!!」
お兄さんは突然、腰のベルトのホルダーから、銀色に輝くある物を取り出した。
何あれ?
「テメェ、杵島の首領の命令だぞッ! そのツラこっちに見せろッ!」
銀色の物―――それは特殊警棒だった。
って、何っ!?
そして……
バシッ!!
「…………っ」
お兄さんは、その特殊警棒で妹の顔を殴った。
妹の顔を……
「…………」
「何だはがね、まだ反抗すんのか? アァ?」
先輩は動かない。
お兄さんはそんな先輩の髪を強引に掴み、引っ張り上げる。
「…………っ」
先輩の顔は、苦痛に歪んでいた。
「その醜い顔を兄貴に見せろ。このゲスがッ」
先輩の髪を掴んでいた手を離すお兄さん。
そして先輩は地面に腰から落ちた。
「とにかく、一旦お仕置きだな」
お兄さんは特殊警棒を構える。
「兄貴の言うことすら聞けないバカには、骨折くらいが丁度いいか?」
先輩は地面に倒れたまま動かない。
「……ハッ、じゃあお仕置きだな」
そう言うと、先輩の目の前へ接近するお兄さん。
……正直、俺には何が起きているのか分からない。
突然、下校中にお兄さん(自称)が現れ、杵島先輩を脅し……
兄妹喧嘩なのか?
反抗期?
に、してはやりすぎだろ……
特殊警棒て……
ちょ、ちょっと仲裁に入るべきかな?
それとも警察呼ぶ?
「……私は」
その時、杵島先輩がその重い口を開いた。
先輩の視線はお兄さんから外れているが。
そして、先輩は弱々しいながらも、はっきりと言った。
「私は……杵島家の……オモチャではない」
「……アァ?」
先輩の一言に、お兄さんの動きが一瞬止まった。
「私は……杵島家のオモチャではない。私、杵島はがねは……石鉄高校の化学部在籍で、酸化マグネシウムが好きな、普通の人間だ」
酸化マグネシウム?
じゃなくて。
先輩……
「……テメェは杵島家の下僕だよ」
お兄さんは先輩の前でしゃがみ、顔の高さを先輩に合わせる。
「テメェは杵島の女だ。普通の人間じゃねぇんだよ」
その瞬間、先輩の顔が凍った。
「……とにかく仕置きだ。腕の骨を折る」
お兄さんはゆっくりと警棒を構えた。
「今まで勝手にいなくなってた分、きっちりと痛めつけてやる」
……動かない先輩。
不気味に笑うお兄さん。
その警棒は、もう降り下ろされる寸前。
俺は携帯を取り出した。
そして通話ボタンをプッシュ。
番号は110番。
もうこれは……喧嘩とかじゃないっ!!
暴力だ。
ただの暴力。
俺にはこの暴力の事情とかは分からないけど。
杵島の家庭の事情とか分からないけど。
これ以上、先輩を痛めつけさせたくないッ!!
その時……
「そこのガキ、何してんだ?」
お兄さんが俺の行為に気付き、振り返った。
そして、目があった。
「……ガキ、余計な事しようとしてねぇか?」
「あ、あーいや……その……」
いかんッ!!
相手の迫力凄ッ!!
押し負けるッ!!
「……何だ? テメェも仕置き必要か?」
「え、えええぇぇぇッ!?」
そういう展開!?
うそぉっ!!
「……ハハッ、いいぜいいぜ。先にテメェから仕置きしてやるぜ」
「う、うおっ!!」
こ、怖い!!
ジリジリこっちに寄って来る!!
あ、早く警察に連絡を……
「ハッ!!」
バシッ!!
「いっ!!」
その時、お兄さんは警棒を降り下ろした。
で、俺の右手直撃。
携帯落としたッ!!
「う、ううぅっ!」
俺、あまりの事に変な声が出た。
「っ待て、Oには手を出すなッ!!」
ここで先輩に動きが。
「アァ? なんだはがね?」
お兄さんはもはやヤンキーだ。
「Oには……私の友達には手を出すなッ!」
杵島先輩はゆっくりと立ち上がる。
「友達だ? はがねにか? ……っぷ!!」
や、ヤンキーお兄さんが笑いを堪えておる。
「……ハハッ、テメェに友達か。化学オタクのゲスなテメェにか」
その時、お兄さんは先輩の前へ。
「……友達大事か?」
「……手出しをしたら、貴様だろうと許さない」
「……目がマジになったな」
「……黙れ」
……いつもニコニコな杵島先輩。
そのいつもの先輩からはちっとも伺う事の出来ない、先輩のマジ顔。
何かとても……凛々しかった。
「せ、先輩……」
思わず呟いた俺。
その時、風が吹いた。
「……じゃあ俺はお前の友達に手出しをするぜ」
その瞬間……
フワッ
「えっ……」
いつの間にか、目の前には警棒を構えた―――
お兄さんの姿が……
速いッ!
「……仕置きだ」
咄嗟の事で、すぐには回避行動に動けない。
「うっ……」
この一瞬に、俺が出来た事。
それは、目をつむる事だけだった……
「……ハッ!!」
目をつむってから、約5秒。
……あれ?
痛み、全然感じない。
あれ?
俺はゆっくりと目を開いた。
「……何だはがね? 兄貴の邪魔をするのか?」
「……貴様ッ!」
そこには、鬼の形相をした二人の人間……
そして、振り上げられた警棒は、先輩の手で握られ、宙で止まっていた。
……怖いッ!!
「……怖い怖い」
怖いお兄さんが怖い怖い言いながら怖い妹の顔を見ているの図。
「……はがね、お前ウチに戻って来い」
二人共動かないまま、お兄さんが喋り出した
「……断る」
先輩即行拒否。
「……速っ」
お兄さんの顔は……笑っている。
ちなみに俺、フリーズ中。
「……もしだ」
お兄さんの声にはトゲがある。
それも、何とも毒々しい……
「もし、お前がウチに帰ってくるのなら……
もう二度とお前の友達には手を出さない
って言ったら、どうする?」
その時、先輩の表情が一瞬動いた。
「……それは本当か?」
「……帰って来い。杵島の下僕」
その僅かなやり取り。
しかし、全ての話はついていた。
「……どうする?」
「…………」
そして、先輩は警棒から手を離した。
「……Oよ、色々とすまなかったな」
あれからすぐに、お兄さんは消えていった。
近くに車でも停めていたらしい。
そして……満面の笑みで、消えていった。
「……先輩、一体何なんですか?」
お兄さんがいなくなり、フリーズから解けた俺。
そして、先輩に積めよった。
「何なんですか先輩、これは一体何なんですかッ!?」
正直、分けわからない。
先輩が殴られて、反抗して……けど、多分俺のために何かを和睦して……
「先輩……」
「……すまんなO」
先輩はただ、苦い顔で謝った。
「すまんなって……ってかあの人、本当にお兄さんなんですか? それに杵島の下僕って……」
「Oよ」
その時、先輩は俺の顔を見て……
「本当にすまない。私は……もう……
この場所を……去る事になりそうだ」
……杵島の家に戻る。
俺は、先輩の家庭の事情なんか一切分からない。
だから、その言葉の意味を理解出来なかった。
「……先輩」
「Oよ、化学部の事……よろしく頼むぞ」
ちょっと待て……
俺は多分、先輩を止めたかったんだと思う。
けど……
「……じゃあな」
先輩はただ一人
この場所を……去って行った
……まだ、何も分からない。
杵島の家庭?
お兄さん?
さよなら?
本当に、クルパだ。
何も分からない。
けど、一つだけ分かる事があった。
それは……
先輩は俺のために、辛い道へと走って行った事だ……
こんにちは。
五円玉です!!
はい、今回からちょこっと真面目なシリーズ突入です。
ちょくちょく笑いも入れてはいきますが、基本シリアスムードぷんぷん……
あとですね……ぶっちゃけようか……
……薄々勘づいている方もいるとは思いますが。
バトルシーン導入の確率大です。
いや、この小説は基本コメディーなんで、日頃はバトルなんてご法度ですよ?
でも今回だけは……申し訳ない、多分入れます。
その辺のご理解をよろしくお願いします!
そしてこれからも、元素彼女をよろしくお願いしますね!