元素20 ツンデレもロリも女王様も自衛隊もまとめてかかって来い!
「なッ! ぶ、文化祭でコスプレ系化学体験をやるだってぇ〜!?」
な、なんだって!?
「イエース!!」
杵島先輩Vサイン!
やあ諸君!
私は黒鉄と申す者なり。
俺はさっき鬼アキコから頂戴した鞭アタックで腫れた顔を擦りつつ、驚いていた。
何に?
クルパの発言に。
「実はな、今年の文化祭の化学部の出し物は、コスプレ系化学体験コーナーをやろうと」
byクルパ
つまり、さっきまでのアレは……
「つまり、俺でその実験……いや、リハーサルしたんだな?」
「その通り!」
「よし、とにかく一発殴らせろ」
必殺、黒鉄くんドリームジャンボパーンチ!
「それでだなO」
うおっ!?
すんなりかわされたッ!!
「Oは何のコスプレがしたいんだ?」
杵島先輩、なぜかメモとペンをスタンバイ。
あら熱心……じゃなくて!!
「ってか先輩、そもそもなんでコスプレ?」
化学体験なら、もうフツーにそれだけでいいじゃん。
なのに何でコスプレ?
「そんなの決まっている!!」
ビシッとキメポーズなクルパ。
「大事なのはだな、いわゆる“萌え”と言うヤツなのだッ!!」
第二回、化学部総会。
現在科学室。
その中央にある、デカイ机。
東側に俺と自衛隊コスプレしたジョンソン。
……自衛隊?
しかもご丁寧にコンバットヘルメット付き。
西側には女王アキコ三世と、ロリータ琴浦さん。
鞭は今だ女王の手の中に。
そして北側にはツンデレっ子クルパ。
ってかツンデレは性格であってコスプレじゃねぇし。
「ではこれより、第二回化学部総会を始める。今回の議題はこれだッ!!」
杵島先輩は椅子から立ち上がり、教室前の黒板にチョークで書き書き。
そこには……
『今年の文化祭化学部出し物のスローガン“お前の嫁はみんなの嫁、みんなの嫁はお前の嫁”』
と、書かれていた。
何故か緑チョークで。
黒板が緑だから見にくい……
じゃなくて!!
「ちょ、何だそのスローガンはッ!?」
何その、1人はみんなのために、みんなは1人のために的なヤツは!?
「よいかO、今年の化学部は“萌え”を中心に、可愛らしい感じの化学部にしようと思っているのだ」
「何故にッ!?」
そしてそのスローガンの意味は!?
「……それはだな、化学の堅苦しいイメージを払拭するためだ!」
「意外と真面目!?」
つまりはこう言う事だ。
化学……って、何となく堅苦しいイメージがあるでしょ?
難しい実験とか、白衣着た髭ぼーぼーのオッサン科学者とか。
その堅苦しいイメージを無くし、みんなの興味を引く事が出来るような化学部を、今年の文化祭では再現するらしい。
で、その堅苦しいイメージを払拭させるには……
「堅苦しいとは真逆である、萌えなのだ!!」
で、つまりはコスプレ系化学体験コーナーと。
……逆にオタク感がプラスされて、イメージダウンになるんじゃねか?
「……でだ。Cがロリ妹系、Auが筋肉系自衛隊、Liがハードな女王様系に決定し、私も幼なじみツンデレ系に決定したのだが」
ここでなぜか俺を睨み付ける杵島先輩。
睨むなし。
「……まだ、Oのコスプレが決まっていないのだ」
みんなで俺を睨むなし。
「Oよ、お前は何のコスプレがしたいのだ?」
「はい、俺は黒鉄徹哉君のコスプレがいいです」
「そうか、黒鉄徹……いや、それではお前のコスプレの意味が無くなるだろ!」
「あーバレた」
くそー。
コスプレ嫌ぁ〜。
何か嫌ぁ〜。
「あたし的には……執事なんてどう?」
何故かニヤニヤのアキコ。
「執事かよ……」
ちょっと考える俺。
で、とりあえず実践。
「……お嬢様、エスプレッソのおかわりなどは如何ですか? ノルウェー産のミルクをご用意しておりますが」
「……なんかテツキモい」
「じゃあ執事やらせるな」
アキコは相変わらずポテチをご賞味中。
俺の渾身の執事はキモいだとよ。
……はぁ。
「私は……バンドのギタリストとか似合うと思うけど……」
お次は琴浦さん。
バンドのギタリスト?
「ぎゅっギュイイィィんッ!!」
エアギター挑戦中。
気分は武道館。
「ギュイイっぎゅっギュイイィィんッ!!」
「……………」
おやおや?
何故か琴浦さん、黙り込んじゃったよ?
その発言に最後まで責任持て。
「イマドキエアギターカヨ……フルイナッ!」
ジョンソンは今全国のエアギタリストを敵に回しました。
バッシング可。
「クロガネハ……ナンカリストラスンゼンノサラリーマントカ、ニアイソウダヨナ」
リストラ寸前のサラリーマンだ?
「…………」
「ナンダヨ、ハヤクジッセンシロヨ!」
「だが断るッ!!」
栗鼠と虎ならまだしも、リストラは嫌。
「ナンダヨーヤレヨークウキヨメヨー」
「うるせーだまれーくたばれー!」
ジョンソンの相手してると片仮名解読しないといけないからメンドイ。
「とにかく、俺はコスプレなんてしませんからね」
「何故だ? この化学部に萌えが必要だとは思わないのかO?」
「ってか、そもそも男に萌えを表現させるのは明らか違うだろ」
そしてジョンソンコスプレはあれ自衛隊だし。
もう萌え関係ないし。
現在下校中。
隣にはクルパ。
アキコは実家の柔道場へ、琴浦さんは家の方向逆、ジョンソンは秋葉原へ行くとかで、みんなとは学校で別れた。
「よいかO、男だって萌えは表現出来るぞ?」
「何を真顔で言ってんですか先輩」
拳グッて握って、熱弁状態の先輩。
「いわゆる、青い手紙だ!」
「青い手紙?」
と、男の萌えとはどのような関係が?
「Oよ、私はそのような好みはないが、きっとこの世の中、青い手紙が好きな人もいるはずだ!」
「だから青い手紙て何!?」
赤紙の逆バージョン的な?
よく分からん……
「いや……しかし、OとAuとが青い手紙を……うおぉ……」
「……何妄想してんの? なんでその妄想に自分で引いてんのあんた!?」
もう本当に意味が分からない……
空は夕暮れを迎えていた。
太陽は山に沈みかけ、モノの影は長く伸びる。
辺り一面に橙色が映えて、とても幻想的だ。
電線には烏、道の脇の塀には野良猫、アスファルトの道には小さな虫。
車の行き交いが少ない、ちょっと小さな灰色の小道。
時折、思い出したかのようにそよ風が吹く。
俺は、そんな道を杵島先輩と歩いていた。
「よいかOよ、青い手紙には本人達の同意が……」
相変わらず意味不明な事を言っているクルパ。
夏のそよ風が、その先輩の黒い髪を揺らす。
「だから青い手紙って何だよ!」
俺も相変わらずツッコミに専念。
しかし、杵島先輩に意識を向けつつも、このそよ風を体で感じる。
じめじめとした、夏の夕暮れ独特の暑さ。
今は7月。
夕方でも汗をかく。
そして、いつかは秋になり、冬にもなる。
……これが、俺の日常なんだ。
杵島先輩とくだらない会話をしながら、下校の道を歩く。
たまにアキコや琴浦さん、ジョンソンなんかも一緒に。
夕暮れの中、笑いながら帰宅する。
みんなと一緒に。
これが、俺の日常なんだ。
けど……
この日の夕暮れから、この日常は非日常へと変わったんだ。
「……よぉ、はがね」
道の向こう側。
そこに、こちらに手を振る1人の男性が立っていた。
赤いツンツンの髪に、黒っぽい赤のスーツ。
「……っ!」
ほんのさっきまで青い手紙が何ちゃらとか言っていた杵島先輩。
その杵島先輩の顔は、まさに青い手紙の如く真っ青になっていた。
そう、その男に気付いた途端にだ。
「……先輩?」
どうしたんだ?
……俺はこの時、まだ知らなかった。
……杵島先輩と、その男の関係を。
そして、「杵島」と言うその名字が意味する、杵島はがね先輩の背負っていたモノに。