元素17 誤解と純情は紙一重的な感じだと俺は思うよ?
「さて、ではそろそろ帰るとするか!」
現在、時刻は午後5時。
俺達はまだ、アクアランド内にいた。
……今日は疲れたなぁ。
賀谷には変な誤解をされたままだし。
アキコに至っては事故るし。
あの後、結局医務室まで行ったのだが、
「異常なし」
との事務員の言葉一つで俺達は返された。
無愛想な事務員だ。
「う〜ん……今日は遊んだな」
とか言う杵島先輩。
コヤツ、実はプールサイド等で結構ナンパされてたりしていた。
色黒の兄ちゃんが
「ねぇそこの君、今日1人?」
とか聞いてきた。
そしたらジョンソンが
「キタネェテデセンパイヲサワルンジャネー!!」
で、半ばリアルファイトにまで発展。
監視員が止めに入るまで続いていたな。
金髪はもっと自重すべき。
ってかジョンソン、意外と喧嘩強かったなぁ。
「さてOよ、帰りはどこか寄っていくか?」
浮き輪の空気を抜きながら杵島先輩は質問。
「……いや、多分寄る寄らない以前に……無理だと思います」
俺は視線をプールサイドのベンチへ。
そこには遊び疲れ、生きた屍と化している3つの人影があった。
「……みんな、超げっそりしてるな」
ウォータースライダーや流れるプール、波がハンパねぇプール等々。
今日はたくさん遊んだからな。
「先輩、とりあえず今日はもう寄り道せずに帰りましょう」
「……そうだな」
「く、黒鉄君!」
「ん?」
結局寄り道せずに帰る事を決め、俺は着替えるために更衣室へと向かう。
その途中、突然どこかから俺の名前を呼ぶ声が。
そして、遠くに彼女を発見した。
「……もしかして、賀谷か?」
こちらに小走りで掛けよってくるのは、やっぱり賀谷だ。
「く、黒鉄君!」
「な、何?」
ちょっと声がでかい……
ってか、何用?
「あの……んんもう!!」
何?
何か……突然何?
何故地団駄踏んでる?
「あの……何か……用か?」
俺、そろそろ着替えに行かないと、帰りの電車が……
その時、彼女は突然言った。
「私、黒鉄君の事が好きだったッ!!」
……ん?
え?
「私、好きだった! 昔は黒鉄君の事が、好きだった!」
……だった?
過去形?
ってか
「……え?」
黒鉄徹哉混乱中。
「だ、だけど今は違う!!」
やっぱり過去形だ。
「だから……だから……」
賀谷の顔は真っ赤ッか。
「あ、アキコを幸せにしてあげてね!!」
……意味がわからない。
……ん?
「じゃ、じゃあねッ!!」
そして、賀谷は来た時以上に猛ダッシュで去って行った。
……あ。
嘘だ。
やっと今、何となくだけど……全て理解した。
賀谷……
「……複雑だ」
誤解と純情は紙一重。
その後、賀谷から謎の告白を受けた俺は、それを素直に受け止めるべきかどうかを考え……ではなく、
「……動けない」
普通に電車内にいた。
しかも左にはアキコ。
右には琴浦さん。
二人は既に夢の中。
両方から俺の肩に寄りかかり中。
……至福や。
っな事を考えている場合ではなくて。
「……はぁ」
やっぱりと言うか、賀谷の事を考えちゃう俺がいる。
複雑や。
化学コメディー小説が、昼ドラ並みにドロドロしててはアカン。
ここは是非とも主人公補正で全てを丸く納めたいのだが、生憎作者は俺に補正の力を与えてはくれない。
他力本願禁止か。
その時、電車が少し揺れた。
「おっと……」
俺はアキコと琴浦さんが衝撃で起きないよう、バランスを取る。
あ、ちなみにジョンソンは電車の先頭車両へ行ってしまった。
運転席が見たいんだってさ。
小2か。
で、杵島先輩は俺の前、向かいの席にいます。
「……時にOよ」
「な、何ですか?」
「……CとLiの寝込みを襲うなら今だぞ?」
「ハハハ、幻聴が聞こえらぁ」
とにかく早く帰りたい。
「ついたぁッ!」
その後、電車は俺とアキコが降りる駅に到着。
琴浦さんはこの次の駅。
杵島先輩とジョンソンはさらに次の駅で降りるらしい。
「おら二人共、ちょっと起きてくれ!」
俺は相変わらず寄りかかり状態の二人を起こす。
ああ、至福の時が……
「ん……んん……」
きゃーっ!!
寝起きの琴浦さん、何かすげぇ!!
「あれ、もうついた?」
アキコは寝癖すげぇ。
こう、モワァッと。
「じゃあ先輩、俺とアキコはこの駅なんで」
「……めいこ」
寝起きでも訂正するのかコイツ。
小声で迫力ねぇけど。
「そうか。ではO、Li、また明日部活でな!!」
杵島先輩は疲れた表情ながらも笑顔。
……杵島先輩でも疲れる時ってあるんだな。
いつも超人的な感じの人だから……
改めて、先輩もちゃんとした女の子なんだなって実感。
「はい。先輩、今日はありがとうございました」
とりあえずはお礼。
「……Oよ」
「……はい?」
と、突然真顔になった杵島先輩。
「どうしよう……」
「……え?」
何だ?
どうした?
「アクアランドの更衣室に……浮き輪忘れてきてしまった」
「知るか」
俺は半ばアキコを引きづりながら下車
いい加減寝てないで、自分の足で歩けアキコ。
そして、ゆっくりと走り出す電車。
電車の窓からは、杵島先輩の慌て顔が見れた。
琴浦さんは眠そうな顔で手をふっている。
俺も手をふった。
また明日! ……って。
空は薄暗いながらも、まだオレンジ色が残っている。
「……さてと」
俺はアキコを背中の方に回し、おんぶ。
そして、駅の改札へと向かい、歩き出した。
こんにちは!
作者の五円玉です!
さてさて、今話にてプールのお話が終了しました。
主人公に補正なんかいらねぇだろ。
他力本願禁止だ!
そして、次回からはこの元素彼女にとって1つの節目となる、ちょっと長いお話を書こうかと思います。
多分、一部コメディー路線からは外れてしまう……かもです。
本当、真面目なお話なんで。
しかし、やはり元素彼女は基本コメディーなんで、そういったコメディーシーンは今まで通りに入れていきたいとは思っています。
そもそも作者が暗い話自体、苦手なんで。
では、そういう事で。
次回をお楽しみに!