元素12 雨が強くなる前に早く帰りたい男の物語
「ブワッハッハ! チミは黒鉄徹哉君だねッ!?」
金髪リーゼントの鼻でか野郎が聞いてきた。
「…………」
俺はスルーを試みた。
「まぁ、わたくし達を無視するなんて、凄くお下品なッ!?」
金髪クルクルパーマの女が非難してきた。
「…………」
俺はスルーを試みた。
「ブワッハッハ! 黒鉄徹哉君はとてもシャイなんだねッ! なんともエクセレントだッ!」
どこがエクセレントだ。
皆さまこんにちは。
毎度お馴染み、みんなのヒーロー黒鉄君です。
ども。
前回、俺の財布から英世が消えました。
結構大変でした。
あれから1ヶ月。
季節は梅雨間近。
6月の最初。
「何で雨、降るのかなぁ〜」
その日、いつも通りに授業を受け、嫌々部活やって、今から下校。
そう、嫌々部活。
で今朝、雨が降ってなかったから傘持ってきてなかったけど……
ザアアァァァ!!
現在どしゃ降り中。
時刻は午後5時半。
「うわ……すげぇ降ってるな……」
凄いよ。
雨が凄すぎて前がぼやけてる。
霧みたいになってる。
「参ったなぁ……」
どうしよう?
走るか?
走って近くのコンビニまで行って、傘を買う。
……仕方ない、この作戦でいくか。
「傘代もったいないけど、風邪を引くよりかはマシか」
俺はカバンを頭の上に乗っけて……
「よし!!」
覚悟を決めて、走り出そうとした
その時!
「ちょっと、そこのチミ!!」
「……あ?」
突然後ろから声が。
「ん?」
俺は振り返った。
そこには……
以下、冒頭の通り。
「僕の名前はガーネット和島。2年だ」
「わたくしの名はレンドル倉坂。同じく2年」
……?
話をまとめようか。
俺は、今日普通の学校生活を送った。
で、下校時にまさかの雨。
俺、傘忘れたからコンビニへダッシュを試みる。
しかし、昇降口にて謎の金髪2人組に拉致られた。
……そして今、俺は何故か学校内の物理室にいる。
なんで?
「ブワッハッハ! まさかこんな簡単に黒鉄君を拉致出来るとはな!」
金髪リーゼント―――もといガーネット和島はニマニマな笑顔。
キモい。
ってか、ガーネット和島ってどんな名前だ。
「あ、あの……」
俺、ちょっと意見してみる。
「なにかしら? 黒鉄君?」
金髪クルクルパーマ―――もといレンドル倉坂もニマニマな笑顔。
キモい。
「……俺、なんでここに連れてこられたんスか?」
「それは杵島はがねに一泡吹かせるためだ!」
ガーネット和島即答。
「ひ、一泡?」
何ゆえ!?
「そうだ一泡吹かせるためだ! あの憎き杵島はがねに復讐をッ!」
ガーネット和島の形相が怖い。
すげぇ顔。
「わたくし達物理部はかつて、杵島はがねに迫害されたのですわ!」
「は、迫害?」
レンドル倉坂は目に涙を浮かべていた。
ってかあんたら、物理部だったんだ。
絶叫の火曜日事件。
この事件は昨年の秋頃、この石鉄高校内で起きた。
「当時の化学部はちょっとした有名部活でね、文化部の中でも人気があったんだ」
と、ガーネット和島は語る。
1年前の化学部には、当時まだ1年生だった杵島先輩の他にも、多数の3年生が所属していた。
その中の1人、当時の化学部の部長。
「そいつの名前は、柚葉彩音。わたくし達物理部の敵……」
と、レンドル倉坂は涙ながらに語った。
柚葉……彩音……さん?
「彼女は昨年の秋のとある火曜日、当時まだ1年だった杵島を連れ、僕達物理部に奇襲を仕掛けてきた……」
「き、奇襲?」
話の意図が掴めない。
しかし、ガーネットとレンドルは真面目な雰囲気。
「そう奇襲さ。柚葉と杵島は突然物理室に入ってきて……」
「は、入ってきて?」
「……当時の物理部部長にへんなあだ名をつけたんだッ!」
「……は?」
意味分からない。
「杵島の野郎、当時の部長にClなんて言う意味不明なあだ名をつけたんだっ!」
俺はあんたの方が意味不明。
「そうよ、そのせいで部長はノイローゼになり……」
「……え、それだけでノイローゼになったの?」
メンタルが弱い部長さんだな。
「そのせいで、物理部はしばらく休部になってしまったのよ!」
「いや知らねぇよ」
なんなんだコイツら。
「……とにかく、僕達物理部は杵島はがねに復讐するため、君を拉致した」
「は、はぁ……」
「そして君をエサに杵島はがねを呼び出し、今度は逆にこっちからへんなあだ名をつけるんだッ!!」
「……そ、そんな事のためだけに俺は拉致られたのか」
俺の価値観って……
一方の2人は超ニマニマ笑顔のドヤ顔。
「とにかく、今から杵島に呼び出しをする。レンドル、杵島の携帯番号は入手したか?」
「はい、昨日秘密経路を使って入手したわガーネット」
2人はニマニマ。
ってか、くだらねぇ。
くだらな過ぎる。
泣きたくなるほどくだらねぇ。
「……あのー」
俺は挙手。
「なにかしら、黒鉄君?」
レンドルさん、パッと見は美人。
ただ名前が……
「その……それ、今からじゃないと駄目ですか?」
「……はい?」
はてなマークなレンドルさん。
「俺、今日傘持ってきてないんで、雨がもっと強まる前に帰りたいんスけど……」
庶民的な意見。
とにかくメンドイから帰りたい。
「そうなの? 傘忘れたの?」
「はい、そうなんです。風邪引きたくないから、早く帰りたいんです」
これ嘘。
本音は……
『メンドイよこの展開。なんか適当な理由つければ帰してくんないかな?』
……きゃっ!
読者に俺の本音見られちゃった!!
……こらそこ、キメェとか言うな。
「……まぁ、風邪を引くと辛いですからね……ガーネット、どうします?」
なんか本音通りの展開キタ!!
「そうか……風邪を引かせては悪いからな……」
コイツらバカだ。
じゃあ何のために俺を拉致したんだ。
「……よし、じゃあ黒鉄君、今日はもう帰っていいぞ」
バカだやっぱり。
コイツらマジバカ。
「早く帰って、温かくしてろよ? 風邪引くなよ?」
「は、はぁ……」
いや、コイツらバカじゃない。
いい人だ!
コイツらいい人だ!!
なんかいい人だ!!
結局その後、俺は走って家に帰りました。
で、
……風邪引きました。