元素11 前向きって眩しいっスよね!?
「いらっしゃいませぇぇぇぇぇぇ!」
お好み焼き屋に入店した直後、何ともエコーの響く店員がお出迎え。
「お客様は3名様ですかぁぁぁぁぁぁ?」
「あ……は、はい」
超エコー。
ちなみに店員はヒゲのおっさんだよ。
「では3名様、ご案内ぃぃぃぃぃぃ!!」
何だこの店?
「テツは何食べんの?」
「とりあえずは英世守護のため何もいらない」
「琴浦さんは?」
「とりあえず……この魚介焼きを……」
魚介焼き?
……レトロな雰囲気が漂う店内。
照明がまさかの裸電球。
壁には昭和の感じがプンプンするアイドルのポスター。
つまり、古い。
「ご注文は決まりましたかぁぁぁぁぁぁ?」
店内に響くおっさんのエコー。
実は美声。
「えーっと、魚介焼きを1つと、普通のヤツを特盛で!」
特盛ッ!?
「かしこまりましたぁぁぁぁぁぁ」
店員、スキップしながら厨房へ。
「なんか……この店怖い」
スキップするおっさん怖い。
「え? 何が怖いの?」
アキコには恐怖心がないのか?
「全体的に怖いんだよ。なんだよあのエコーは?」
「そう? エコーが怖い?」
「エコーじゃなくて、あのおっさん自体が」
「おっさんが怖い? なんか凶悪そうな顔してた?」
「そういう意味じゃなくてだな……」
「ん?」
「だからその……とにかく怖い」
うん怖い。
「お待たせしましたぁぁぁぁぁぁ!」
それから約5分、怪人エコーがお好み焼きの具材を運んできた。
「うお……」
アキコの前に運ばれてきたのは、何か……こう、山盛りの具材。
キャベツインマウンテン!!
「お嬢さん、確か山盛りで良かったんだよねぇぇぇぇぇぇ!?」
ヒゲ顔怪人エコーの息は臭かった。
「はい、大丈夫です!!」
アキコさんは笑顔で対抗。
「で、こっちのお嬢さんは魚介だっけぇぇぇぇぇぇ!」
ヒゲ顔怪人エコーの鼻息は荒かった。
「あ……だ、大丈夫です……」
琴浦さんモジモジ。
「注文は以上ですね、ごゆっくりどうぞぉぉぉぉぉぉ!」
特盛のお好み焼き
800円
魚介焼き
525円
怪人エコーの笑顔
プライスレス
「あっつあっつ………うまっ!!」
人間の顔の何倍かのお好み焼きをペロリするアキコさんは、なんか凄い。
「美味しい!」
琴浦さんの笑顔は怪人エコーのよりプライスレス。
2人の美味しそうな顔を俺は見ているだけ。
財布のチャックは厳重に閉会中。
逃げないでお金。
……。
……ああ。
暇だ。
2人の顔見ててもお腹いっぱいにはならない。
「……なぁ」
暇だから声を掛ける。
「ん?」
お口にソースべったりのアキコ。
「……はい?」
イカを噛み噛み中の琴浦さん。
なんとまぁ……
「2人とも、お好み焼きうまい?」
「うまいよ!」
「美味しいです!」
満面の笑みで返事してきやがった。
「そうか……」
俺も頼めば良かったかな?
……そうだ。
「……なあ?」
俺はまた質問。
「ん?」
「はい?」
2人は反応。
「その……2人はさ、何かこう……半ば強制的に化学部に入った訳だけどさ」
ヒーローショーと賄賂。
半ば強制的。
「今更だけど……本当に化学部で良かっのか?」
アキコと琴浦さん。
ぶっちゃけ、2人は化学が苦手らしい。
本当だったら、違う部活に入りたかったんじゃ……。
「うーん……」
「…………」
食べながらも黙り込む2人。
「もしかして……迷惑だったか?」
琴浦さんなんかは美術なんかが似合いそうだし。
アキコだって、運動部とかが似合いそう。
もしかして……マジで迷惑だったか?
「アタシは……別に迷惑とかじゃないよ」
ポロっとアキコの口からこぼれた言葉。
俺はそれに反応が遅れた。
「だってテツが誘ってくれたんだし……まぁ、暇つぶしにもなるしね」
「ひ、暇つぶしっスか……」
コイツにとっての部活って何だ?
アキコは相変わらずお好み焼きをむしゃむしゃ。
「私も……別に迷惑とかじゃ……」
琴浦さん、エビを食べながらニッコリ。
「化学部って何か楽しいし、別に迷惑なんてしてません!」
「マジか……」
2人共、何か前向きだな……。
もしかして、化学部嫌ぁ〜とか言ってんの、俺だけなのかな?
「まぁ、どっちにしても、化学部に入った事は後悔してない!」
「……私も!」
……何だこれ。
眩しすぎるぜ、2人の笑顔ッ!!
くあっ!!
「……さて、そろそろ帰りますか!」
特盛お好み焼きを平らげたアキコが椅子から立ち上がる。
「……うん!」
それにつられ、琴浦さんも起立。
俺も起立。
よっこらしょ……
「じゃあテツ、お会計よろしくね!!」
……ん?
今、何か不吉な呪文めいた言葉が……。
「……アキコさん、あんた今何て言った?」
「…………」
「……明子さん?」
「テツ、よろしくね!!」
超笑顔。
……え?