表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/117

――第93章・砕けた封印――

カイタンシャ本部――


 数日後。

 カイタンシャ本部の建物前に設けられたステージで、ハヤテはオマリロを除く全カイダンチョウを背後に従え、群衆へ向けて語りかけていた。


「我々が皆さんを裏切ったこと、その事実は否定できません」

 ハヤテは頭を下げた。

「許しを乞える立場にないのも承知しています。ですが、どうか知ってください。道を違えたカイダンチョウたちはカイタンシャへ戻りました。そして、ドッコウ団の脅威もすでに制圧されています!」


 直後、記者たちが一斉にマイクを突きつける。


「伝令はどうなったんですか!」


「港区の被害は本当に修復されるんですか!」


「こんな状況で、まだカイタンシャを信じろと言うんですか!」


 ユカが一歩前へ出た。


「皆さんを煽り、職務から逃げようとしたこと、本当に申し訳ありませんでした」

 彼女はまっすぐ前を見据える。

「私たち全員の責任です」


 ミズキ、カオル、コウイチも無言で頷いた。


「でも、一つだけ約束します」

 ユカは静かに、けれど力強く言った。

「もう二度と逃げません。痛みや理想を言い訳に隠れたりもしません。皆さんを、自分たちの思想のための道具のようには扱いません」


 彼女は微笑む。


「これからもオマリロは私たちの柱です。ですが、私たちはその後ろに隠れるのではなく、隣に立ちます。皆さんが目の当たりにした、あの街を壊した脅威に対抗するために――あの人を全力で支えます!」


 群衆から歓声が上がる。

 アツシがユカの肩に手を置いた。


「よく言った、ナトリ」


 彼は周囲を見回す。


「しかし、ニュガワのじいさんは姿を見せんのか。あの老人、昔からこういう責任は平気で放り出す」


「もっと重要なことをしているのでしょう」

 ミズキが淡々と口を挟む。

「今はそっとしておくべきです」


監房――


 オマリロは杖を鳴らしながら廊下を進み、監房区画へ入っていった。

 その先には予想通り、シオン、ミレイ、そしてハンがそれぞれ別の檻に収監されていた。

 いちばん奥の檻では、コハクがオマリロへ向かって手を振っている。


「あら、あなた。ようやく来たのね、我が愛しの人。迎えに来てくれたの?」


「違う」


「ふふ。なら、もっと待つだけよ。気が済むまでゆっくりしていって。弱くなるのだけは許さないけど」


 オマリロはミレイの檻の前で立ち止まった。

 彼女は壁に向かって立っていたが、気配に気づくと振り返る。


「ふん、マスター。私を出しに来たの?」


「違う」


 ミレイは真っ直ぐに彼を見つめた。


「愛してるのよ、マスター。なのに、どうして私をこんなところへ閉じ込めておけるの? どうして私も、シオンも、他のみんなも置き去りにできるの?」


「子供たち、何千も殺した」

 オマリロは低く告げる。

「子供たち、償い拒んだ」


 ミレイは壁へ拳を叩きつけた。


「全部あなたのためだった! 全部よ!」

 声が震える。

「分からないの? 私たちは、あなたの弟子であり続けたかったから、全部やったの! 何にでもなった! 何だって耐えた!」


「女、道を外れた」

 オマリロは言う。

「女、檻で自分の行いを考えろ」


 シオンが顔を上げた。


「それで、俺たちはいつまでこの牢に入れられてるんだ、マスター?」

 彼は皮肉げに笑う。

「満足か? きっと今ごろ愉快だろうな」


 オマリロは視線を向ける。


「少年、自信過剰。それが破滅呼んだ。理は下に置けぬ。学ぶべきだ」


「俺たちの愛は変わらないよ、マスター」

 シオンは断言した。

「あなたに拒まれても、俺たちは揺らがない。他の伝令たちが、必ずあなたをまた受け入れさせる。特に、あの摂政ならな」


 彼は檻越しに笑う。


「あの方も、我らが王も、あなたに会いたくて仕方ないんだよ、マスター」


「ふん」


 ミレイはオマリロがハンの檻へ向かうのを見て、目を細めた。


「あなたは私のものよ、マスター。全部、全部」


 ハンは檻の中で動かずに座っていた。

 オマリロが呼ぶ。


「少年」


「……全部、申し訳ありませんでした、先生」

 ハンは静かに頭を下げた。

「明らかにやりすぎました。それに、結局何も得られなかった。港区は壊れたままです」


「少年の選択、過ちだった」

 オマリロは告げる。

「選ぶこと許したのは私。罪、少年だけでない。だが少年、償う必要ある」


「無理です、先生」

 ハンは力なく答えた。

「もうあのグループには戻れません。みんな、俺を嫌ってる。だから……このままここに置いてください」


 オマリロは杖を軽く鳴らす。


「少年、真の伝令になってはならぬ。真の伝令、救えぬ。だが少年は違う」


 ハンはわずかに顔を上げた。


「……本当に?」


「そうだ」


 そこへザリアが入ってくる。


「あ、ここにいたんですね、先生。こっちはもう出発できるって伝えに来ただけです」


 彼女はハンを見た瞬間、冷たい視線を向けた。

 だが何も言わず、そのままオマリロに抱きついてから出ていった。


「おやおや」

 コハクが楽しそうに呟く。

「何やら空気が険しいわねぇ」


 そのあと、マリンとハヤテが監房へ入ってきた。

 ハヤテはハンの檻に手を当て、意識を集中させる。


「……なるほど。この子に入ったあの力、恒久的なものじゃない」

 彼は言った。

「私のヴォイドカプセルなら、堕落の力だけを引き剥がせる」


「始めろ」

 オマリロが命じる。

「力、少年には危険すぎる」


 ハヤテはハンの周囲へヴォイドカプセルを展開した。

 すると少しずつ、ダラクの気配が抜き取られていく。


 だが誰もが驚いたのは、その力がオマリロの元へ戻っていったことだった。


「オマリロ?」

 マリンが訝しげに問いかける。

「あなた……まさか」


「力は私のもの」

 オマリロが答える。

「子供たち、盗んだだけ」


「盗んだんじゃない!」

 ミレイが檻の奥から叫ぶ。

「私たちはあなたの呪いを軽くしてあげたのよ!」


「黙れ、女」


 ハヤテがヴォイドカプセルを解く。

 そこには、すでに装甲を失ったハンが立っていた。


「ハン」

 ハヤテは正面から見据える。

「最終的にユウトたちを引き入れ、伝令の一人を止めた功績は大きい。だが、お前が敵に与えた支援と背信は見過ごせん。直接誰かを傷つけていなかったとしても、敵の襲撃を助けたことに変わりはない」


「……申し訳ありません、局長」


「よって、お前はしばらく自宅謹慎だ」

 ハヤテは淡々と告げる。

「この監房は怪物のための場所だ。判断を誤っただけの十代を閉じ込めておく場所ではない」


 エージェントがキーカードで檻を開け、ハンの足首には監視用アンクルモニターが装着された。


「機会をいただき、ありがとうございます」


 エージェントたちはハンを外へ連れ出す。

 オマリロも踵を返した。


 ミレイは腕を組み、怒りを滲ませる。


「本気? 私たちはここに残して、あの子は出すの?」

 彼女は唇を噛む。

「私たちは十年以上あなたの下にいたのよ! あの子なんて、まだ数か月でしょう!」


「女もそのうち分かる」

 オマリロは振り返らずに言った。

「分からねば、腐るだけだ」


「――ッ!」


 彼はそのまま去っていく。

 檻の中でミレイは、ひとり笑い始めた。


「構わないわ。私は今でも誰よりもあなたを愛してる……四十年が何? また見つける。絶対に」


 ハンとオマリロは本部の外へ出た。

 ハヤテは壊れた建物を眺めながら舌打ちする。


「ちっ。これ、完全修復には一週間はかかるな。石系とコンクリート系の魔法士を回すか……操運者も必要だな」


「家も直せ」

 オマリロが言う。

「家、優先」


「ああ、港区の復旧も進める」

 ハヤテは頷く。

「全部戻すには半年はかかるかもしれんが、最高のカイタンシャを動員する」


「家戻せ」

 オマリロは淡々と告げる。

「でなければ、杖で顔打つ」


「やる! ちゃんとやる!」

 ハヤテは慌てて言う。

「ところで、その間の住まいはどうする? 必要ならこちらで用意するが」


「一つ残ってる」

 オマリロが答える。

「軽井沢」


「そういえば、あったな」

 ハヤテは思い出したように言う。

「だが、お前はなぜ今まであそこへ行かなかった?」


「港区の家、封印を保ってた」

 オマリロが目を細める。

「港区の家、もうない。なら封印もない」


「封印? まさか、それって――」


 オマリロは無言で頷く。


「来い、少年」


 そのまま二人は歩き去っていった。

 ハヤテが振り返ると、そこにはユウト、アイリ、リオが立っていた。


「お前らか。何の用だ?」


 ユウトが頭をかく。


「えっと、その……俺たち、手伝っただろ?」


「要するに報酬が欲しいんです」

 アイリがはっきりと言う。

「ちゃんとした家。今度こそ、本物の」


「命の心配のないやつね」

 リオも続けた。


「……お前たちか」

 ハヤテは腕を組む。

「能力はある。立派にカイタンシャになれるだろう。あとは、どのカイダンチョウが引き取るかだが――」


「なら俺だ」


 コウイチが現れた。


「反抗的で礼儀もないガキ三人? いいじゃねぇか。ちょうどいい」


「コウイチ! 完璧だ!」

 ハヤテが指を鳴らす。

「お前たち、紹介しよう! エイカイダンのリーダー、カイダンチョウ・カミシロだ!」


 三人は微妙な顔をした。


「……ニュガワさんじゃ駄目なんですか?」

 ユウトが聞く。


「私はあの人がいい」

 アイリが言う。


「同感」

 リオも頷く。


 コウイチは蜘蛛の巣を形成し、三人まとめて拘束した。


「第一にだ、ガキども」

 彼は冷たく笑う。

「リーダーに口答えすんじゃねぇ」


「わ、分かった! 悪かった!」

 三人は揃って叫ぶ。


「よし」

 コウイチは満足そうに頷く。

「じゃあ局長、こいつらは風呂入る前に徹底的にしごいてくる」


「頼んだぞ」


 コウイチは元ドッコウ団の三人を引きずって去っていく。

 ハヤテは本部を見上げ、ため息をついた。


「次は何が来るやら……また別の伝令か、第二のハントレスか……想像するだけで胃が痛い」


 そう呟き、建物の中へ戻っていった。

 夜は静かに、更けていく。


軽井沢――


 子供たちはそれぞれスーツケースを持ち、大きく静かな屋敷へ入っていった。

 内装を見て、目を輝かせる。


「先生、ここマジでヤバいっす!」

 ザリアが感嘆する。

「先生って、持ってる物まで全部すごいんすか?」


「きっとそうだよ!」

 リカが手を叩く。

「連れてきてくれてありがとう、先生! これ配信してもいい?」


「駄目だ」


「うう……」


 ノノカがオマリロへ寄りかかる。


「マスター。家の件、ごめん」


 レイが彼の手をそっと握った。


「私もです……また前みたいに建て直せないんですか?」


「家、消えた。修復、大掛かり」

 オマリロは言った。

「新しい家に集まれ」


 女子たちはさっそく部屋決めに散っていく。

 そこへソウシンがハンの腕を引っ張りながら入ってきた。


「来て、ハン! まだ友達!」


「……ほとんど違うだろ」

 ハンはぼそりと呟く。

「ソウシン、お前は女子たちのとこ行けよ。俺みたいな負け犬じゃなくてさ」


「そんなこと言わないで、友達!」

 ソウシンは真っ直ぐに言う。

「みんなだって失敗する! でも今は戻ってきたし、友達もみんな生きてる!」


「……そう、だけど」


 リカとザリアが、おそろいの可愛い服を掲げながら階段を下りてきた。


「先生、これ着たほうがいいと思う?」

 リカが聞く。

「ザリア説得するの大変だったけど、先生のためなら着るって言ってくれたの!」


「女子、好きな服着ろ」


「ってことはオッケーだね!」


 二人はそのままオマリロの両頬へキスをして、また駆けていく。

 オマリロはその背中を見ながら呟いた。


「女子たち、変わった」


「……俺、完全に切られましたね」

 ハンが苦笑した。

「先生にもっとべったりになったって感じです」


「大丈夫!」

 ソウシンが励ます。

「きっと許してくれる!」


 そこへノノカがハンの横をすり抜け、ソウシンの頭を撫で、さらにオマリロへ抱きついてから自室へ消えていく。

 ハンは俯いた。


「……本当に?」


 エメルがソウシンのシャツの中からぬるっと出て、人型へ変わった。


「私は許してあげる! 食べ物くれるならね! 今すぐ!」


「分かった、エメル」


「よし! 許した!」


 ハンは彼女を連れてキッチンへ向かう。

 途中、階段で談笑する女子たちの方を見た。

 ザリアがその視線に気づき、次にリカたちも気づく。

 すると彼女たちはすぐに目を逸らし、そのまま別の場所へ行ってしまった。

 ハンは、その時向けられた冷たい視線を見逃さなかった。


「……俺、ほんとに最悪だな」


港区――


 巨大な緑色のスライムが、何本もの腕と脚を伸ばしながら港区の瓦礫を踏み荒らしていた。

 生存者の気配を探るように、崩壊した街を這い回る。


「生体反応なし。ニュガワの痕跡もなし」


 それは壊れ果てたシンカイダン邸へたどり着く。

 調査中のエージェントたちが気づいた瞬間、スライムは彼らを呑み込み、その肉を噛み砕いた。


 その正体――エメラルド。

 彼は屋敷の残骸の上に立ち、一枚の写真を拾い上げる。


「ニュガワの家か。臆病者め、逃げたか。しかも、妹を連れてな」


 彼はさらに瓦礫を踏み分けて進む。

 しかし有益なものは何も見つからない。


 立ち去ろうとした時、黄金のシジルが目に入った。

 拾い上げる。


「……何だ、これは」


 シジルが震え出し、そこから黄金の光が漏れた。

 やがて弾けるように爆発し、空中に黄金の球体が現れる。


「お前……誰だ……?」

 球体が喋った。


「俺はエメラルド」

 スライムは答える。

「オマリロ・ニュガワを殺しに来た」


「ニュガワ……」

 球体が低く唸る。

「我を封じた者。そうだ……死ぬべきだ」


「ほう。なら利害は一致しているな」

 エメラルドは笑みを浮かべる。

「名を聞こうか、友よ」


「ベヒーモス……」

 球体は名乗る。

「大地の王。もはやニュガワのペットではない。今も地の底深くに封じられている」


「なら、ベヒーモス」

 エメラルドは球体を握りしめる。

「俺が封印を解く。その代わり、妹を助けるために力を貸せ」


「公平な取引だ」

 ベヒーモスが応じる。

「来い、スライム。大地の王を再び解き放て。そうすれば、オマリロ・ニュガワを共に殺してやろう」


 エメラルドは黄金の球を持ったまま、その場から消えた。

 直後、さらに多くのエージェント車両が現場へ駆けつけてくる。


 だが、すでに遅かった。


——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ