表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/117

――第86章・内戦――

シオンのそれとよく似た装甲をまとったハンを、少女たちはただ見つめていた。

 ザリアは牢の鉄格子を握りしめ、きつく睨む。


「どうしてこんなことしたの、ハン? あたしたちがあんたにしてきたこと、全部忘れたわけ?」


「必要なことなんだ」

 ハンは答えた。

「より良い世界のために」


 レイは涙をこぼしながら彼を見た。


「私たち……友達だと思ってたのに……」


 ハンは何も返さない。


「あれだけ一緒にやってきたのに……」

 リカは自分の涙を拭いながら、震える声で言った。

「裏でこんなことしてたなんて……」


 ノノカは冷え切った目でハンを睨む。

 その瞳の奥には、確かな傷つきがあった。


「私の愚痴、ずっと聞いてたよね。ああやって距離詰めさせて……全部利用するためだったわけ?」


 シノは立ち上がった。

 目元は泣き腫らして赤い。


「鹿児島であんたを置いてくればよかった。なんであの時そうしなかったのか、自分でも分かんない」


 ハンは彼女たちの言葉を受け止めながら、胸の奥の痛みを押し隠し、再び仮面を形成した。


「そのうち分かる。状況はもっと複雑なんだ」


「複雑じゃない」

 ザリアが即座に切り捨てる。

「あんたはもうあたしたちの友達じゃない。これから先も、二度とね。このクソ野郎」


 ハンは何か言おうとした。

 だが、ザリアは顔を背ける。

 他の少女たちもそれに続いた。


「みんな、ごめん……」

 ハンは心の中で呟く。

「でも、こうするしかなかった」


 第七が立ち上がり、ハンの肩に手を置く。


「時間だ。ナースがお前を待っている」


「これから、俺たちは何をするんだ?」


「大半の弟子が消えたことで、マスターは確実に動揺する」

 第七は口元を歪めた。

「熱いうちに叩くぞ」


 二人は去っていき、少女たちは檻の中に取り残されたまま、沈んだ空気の中でうずくまるしかなかった。


 その頃――


 ユカ、コウイチ、ミズキは、エージェントたちに連行されながらカイタンシャ本部の通路を歩いていた。

 後ろからハヤテがついてくる。


「まったく信じられん」

 ハヤテは呆れを隠さず言った。

「お前たちの小さな反乱ごっこで、守りたいはずの人間がまた死にかけたんだぞ」


「申し訳ありません、局長」

 ユカが答える。

「でも、それで分かったでしょう。私たちは前線に立つべきじゃない。オマリロこそが希望なんです。私たちをどれだけ容易く拘束したか、見たはずです」


「いや、あの人マジですごいって」

 コウイチも頷く。

「止められるのは分かってたから、せめて少しは手間かけさせたかったけどな」


「私たちにできる支援はあります」

 ミズキが続ける。

「必要な資源、世論操作、装備の提供――何であれ。ですが、彼と並んで戦うことはできません」


 ハヤテは三人をそのまま独房区画まで連れていく。


「ふざけた話だ。まずユカとオマリロの生徒たちがあのファイルを盗み、その次はカイダンチョウまで人を危険に晒す。実に素晴らしい流れだな」


 ユカが足を止めた。


「どういう意味ですか?」


「シノだ。レイと一緒に、ハン・ジスと組んでドッコウ団の任務に潜っていた」

 ハヤテは眉をひそめる。

「警報が鳴った瞬間、ハンは二人を置き去りにしたらしい」


「シノが!? 今どこにいるの!?」


「この中だ――」


 ハヤテが独房の前へ来た、その時だった。


 扉が砕け散っている。

 彼は足を止め、目を見開いた。


「……脱走した? だがこの房はジュゲン耐性つきだ。中から壊せるはずがない!」


 エージェントの一人が、床に落ちたガラス片を拾う。


「外側から破られています、局長。中の二人が脱獄したのではなく、誰かが迎えに来たようです」


「誰がだ?」


「ドッコウ団の人間かもしれません」


 ハヤテはコハクへ振り向いた。

 コハクはちょうど爪の手入れをしていたところで、隅ではカズキが彼女から身を隠すように縮こまっている。


「ハントレス。あの二人を連れ出したのが誰か、見たか?」


 コハクは欠伸をしながら答えた。


「ヘラルドの片割れよ。もしかすると、私よりあいつらの方が厄介かもしれないわね。どこから湧いてきたのかしら……」


「オマリロに知らせないと――」


「ほら見ろよ」

 コウイチが肩をすくめた。

「やばい時に呼ぶの、結局ニュガワなんだよ」


「今は黙れ! こっちは本気で大事な話をしている!」

 ハヤテは声を荒げる。

「エージェント、この反抗的な“子供たち”を独房に入れておけ」


 エージェントたちが三人の元カイダンチョウを連れていく。

 その時、ハヤテの携帯にニュース速報が飛び込んだ。


『速報です! ドッコウ団が広島市内のモンスターを一掃! 彼らこそが新たな基準となるべきなのか? そしてオマリロ・ニュガワもまた、彼らに加わるべきなのか?』


 画面にはザンが映っていた。

 穏やかな笑みを浮かべ、マイクへ向かっている。


「ぜひともニュガワにはうちへ来てほしい。あの人の力と、我々の部隊の戦力が合わされば、誰にも止められない。すべてのモンスターが我々の名を恐れることになる。民のために!」


 周囲の群衆が腕を上げる。


「民のために!」


「この配信、十八億再生だと……?」

 ハヤテは顔を強張らせた。

「何か手を打たなければ、あいつらに広報をすべて奪われる……!」


 ハヤテは慌ててその場を飛び出し、電話をかけ始めた。


 ドッコウ団ホテル――


 ミレイは部屋の中で、点滴を繋がれたまま椅子に座っていた。

 そこへシオンがハンを連れてくる。


「連れてきたぞ、ミレイ」


 ハンは部屋へ入り、片膝をついた。

 ミレイは両腕を広げて彼を迎える。


「ハン。今回はあなたに特別な任務があるの」


「何をすればいいんですか、ナースさん」


「あなたとユウト、アイリ、リオで、オマリロを私のところまで連れてくるのよ」


「どうやって? ナースさん」


「追い込むの」

 ミレイは静かに笑った。

「弟子を奪われれば、あの人は必ず来る」


「あなたは何をするつもりなんですか?」


 ミレイの笑みが深くなる。


「私も私なりの武器を使うわ。マスターは散々つれない態度を取ってきたでしょう? なら、私がどこまでできるか見せてあげる。全部終わった時には、かつて私が向けていた愛を、あの人の方から乞うようになるわ」


 彼女は指を鳴らした。


「ジュゲン回生者――精神歪曲」


「それは……?」

 シオンが首を傾げる。


「勝利の鍵よ。向こうが内戦を望んだのなら――こちらも内戦をくれてやる」


 その瞬間。


 カイタンシャ本部の独房区画では、拘束されていたカイダンチョウたちの目が一斉に光を帯びた。

 コハクは不思議そうにそれを見つめる。


「……何?」


 彼女たちはゆっくりと立ち上がり、まるで糸で操られるように同じ動きで歩き出す。


「オマリロ……」

 三人が同時に呟いた。

「オマリロを見つける……」


「それ、私の旦那のことよね?」

 コハクが割って入る。

「その言い方、あまり好きじゃないんだけど」


 ユカは灰色の闇をまとった氷の鷲を形成し、それを壁へ叩きつけた。

 独房の壁が砕け、カイダンチョウたちはそのまま列を成して歩き去っていく。


「うわ……」

 コハクは目を丸くした。


 ???――


 シノが泣き続けるリカとレイを慰めている横で、ザリアは檻の壁を殴り続けていた。

 ノノカは腕を組んでそれを見ている。


「無駄よ、ザリア」

 ノノカが言う。

「多分これ、対ジュゲン素材でできてる」


「なんでドッコウ団なんかがそんなもん持ってんの?」


「問題なのは連中そのものじゃない。裏についてる奴らの方よ」


「……あのキモい鎧野郎ども」

 ザリアは歯噛みした。

「そのうちの一人が、あたしにあのロードアウトを渡したんだよ。でも変なの。今は全然使えない」


「細工されてる可能性はある」


 シノはなおもリカとレイの背をさすってから、立ち上がった。


「とにかく早くここから出ないと。ハンとあのイカれた連中が何してるか分かったもんじゃない」


「でも、うちらにリーダーはいない」

 ノノカがぼそりと言う。

「こういう時に限って、やっぱ先生がいないの痛い。信用できるのって結局年上だけなんだよね」


「頭使える奴もいないしね」

 ザリアが吐き捨てる。

「今必要なのは新しい頭脳担当。……誰か脱出の案ある? リカ?」


 リカは涙目のまま首を横に振った。


「じゃあノノカ」


「ザリア。私は人を引っ張るタイプじゃない。自分のことしか回せない」

 ノノカは視線を逸らす。

「ここはあんたが決めて」


「分かったよ」

 ザリアは息を吐いた。

「ジュゲンが使えないなら、足でぶち壊す。ユウトの船の時みたいにね」


 彼女は脚を伸ばしてほぐした。


「みんな、下がって」


 少女たちが後ろへ下がる。

 ザリアは一気に踏み込んで鉄格子へ蹴りを叩き込んだ。

 バーは大きくへこむ。


「いける!」

 ノノカが声を上げる。

「もう一発!」


 ザリアは回し蹴りを叩き込み、鉄格子をさらに歪める。


「あと……少し……!」


 三発、四発。

 力任せの蹴りが続き、ついに鉄格子が真っ二つに折れた。

 少女たちはそこから這い出る。


 ザリアは周囲を見回した。


「これ……下水道っぽくない?」


 上から水滴が落ちてくる。


「多分そう」

 シノが肩をすくめる。

「さっさと行こう。あの変態か“ハン”に見つかる前に」


 彼女たちは物音を立てないよう通路を進んだ。

 すると頭上から、誰かの会話が漏れ聞こえてくる。


「ニュガワを連れてこい、だと? ナース様を支持するのはやぶさかじゃねえが、さすがに正気失ってねえか?」


「ナース様に逆らうな、ユウト。きっと考えがある」


「でもよ、あそこに突っ込んだら、あの新入りがいたとしても終わりだろ! なあリオ、お前も何か言えよ」


 沈黙。


「あーもう!」


 ザリアは足を止めた。


「先生を攫う気だ! 急いで知らせなきゃ!」


 リカはスマホを探ろうとする。


「ない……! 全部取られてる!」


「私のも」

 ノノカが言う。


「だったら自分たちで助けるしかない!」

 ザリアは言い切った。

「行くよ!」


 彼女たちは下水道を全力で走り始めた。

 曲がり角をいくつも抜け、やがて出口らしき扉に辿り着く。

 ザリアが引くが、びくともしない。


「下がって」


 彼女が思い切り蹴ると、扉は蝶番ごと吹き飛んだ。

 その先には、ホテルへと続く階段が伸びている。


「地下に閉じ込めてたってわけか」

 シノが言う。


 階段を上がりきると、ちょうどドッコウ団の警備たちが廊下を歩いていた。

 少女たちは慌てて近くの部屋へ身を隠す。


「第六と第七、本当にニュガワを連れ帰れると思うか?」


「分かんねえ。表向きは強気だけど、内心じゃあいつらもニュガワを怖がってる感じあるしな」


「怖がってるっていうか……執着しすぎだろ」


 レイが周囲を見回した。


「あ、ここ、この前着替えた部屋だよ!」


「よく気づいた!」

 シノが頷く。

「なら変装できるかも!」


「それしかないね」

 ザリアも同意する。

「時間ないし」


 少女たちはドッコウ団の服とスキーマスクを身につけた。

 そこへ、欠伸をしながらヴィーナスが入ってくる。

 彼女は五人を見るなり立ち止まった。


「……誰、お前ら?」


 全員が固まる。

 そこでノノカが咳払いした。


「新入り。外のPR用に人手がいるって言われたから来ただけ」


「へえ?」

 ヴィーナスは眉をひそめる。

「なんでこんな細っこい女ばっか五人も入れんのよ」


「見た目で判断しないことね、お姉さん」


「ふん。どうでもいい。さっさとどきな。私、着替えんの」


 彼女が通り抜けた瞬間、五人は外へ出て、扉を閉め、外から鍵をかけた。


 中からヴィーナスが扉を叩く。


「ちょっ、開けろ!」


 少女たちはそのままロビーへ向かう。

 だが角を曲がったところでゼクウの姿が見え、慌てて身を隠した。


「兄貴、また派手にやってんな……」

 ゼクウはスマホを見ながらため息をつく。

「ほんと、いつの間にかすっかり有名人だよな」


 彼が通り過ぎるのを待ち、少女たちはつま先で出口まで忍び寄る。

 そして外へ飛び出すと、一斉に走った。


「急げ!」

 ザリアが叫ぶ。

「先生のところへ!」


 シンカイダン屋敷――


 ソウシンは部屋の中を走り回って掃除していた。

 そこへ玄関のノック音。

 開けると、ガクトが立っている。


「よう、チビ助! オマリロはいるか?」


「二階!」


「呼んでくれ。局長が、行方不明の女の子二人を探すのに力を貸してほしいってよ。しかもそのうち一人はお前んとこの子だ」


「レイ友達?」

 ソウシンが目を丸くする。


「そうだ」


 ソウシンは慌てて二階へ駆け上がった。

 ガクトは屋敷の中へ入り、きょろきょろ見回す。


「ったくオマリロのやつ、愛想はねえが暮らしぶりはずいぶん豪勢だな!」


 やがてソウシンが戻ってきて、その隣にバスローブ姿のオマリロがテレポートして現れた。


「男が家の平穏を乱した」


「悪い悪い」

 ガクトが頭を掻く。

「でも本部が大変なんだ! お前の生徒がドッコウ団に潜ってファイルを盗んで、そのまま姿をくらました!」


「ふむ」


 ガクトは玄関へ向き直る。


「急いで追わねえと。あの情報は危険すぎる――」


「これのことか?」


 扉が開き、その向こうにユカが立っていた。

 次の瞬間、氷の鷲がガクトを壁へ叩きつける。


 ユカはそのまま家の中へ足を踏み入れた。

 後ろにはコウイチとミズキもいる。


 オマリロは三人を見つめ、目を細めた。

 ユカは一冊のファイルを掲げる。


「これで全部。あなたの秘密も、技も、全部ドッコウ団のものになる」


 彼女はそのファイルを凍らせ、粉々に砕いた。

 同時にコウイチの網がオマリロを絡め取る。


「もう、あなたを象徴として支えるなんて甘い考えは捨てた」

 コウイチが言う。


 ミズキがオマリロの腕を掴む。


「あなたにはドッコウ団の主になってもらう。そして私たちを、この世界最強の勢力へ導いてもらう」


 オマリロは三人が迫ってくるのを見た。

 ガクトが壁の中から飛び出してくる。


「おいおい、どういうことだ!? 何が起きてる!?」


 彼は三人の目を見て、すぐに異変に気づいた。

 そこには灰色の光がちらついている。


「待て、オマリロ! こいつら様子がおかしい!」


「カイダンチョウは正気ではない」


 オマリロの目に冷たい光が宿る。


「ジュゲン滅者――次元断裂」


 自由な方の腕で一閃。

 オマリロは自分を拘束していた網を消し飛ばし、さらに三人の上の屋根を斬り裂いた。

 瓦礫が彼女たちへ降り注ぐ。


「先生、大丈夫!?」

 ソウシンが叫ぶ。


 ユカはさらに巨大な氷の鷲を形成し、それを三人へぶつけた。

 オマリロ、ソウシン、ガクトはまとめて壁の外へ吹き飛ばされる。


「来ないなら――」

 ユカが低く呟く。


 さらにもう一羽、今度は屋敷そのものの側面ほどもある巨大な氷の鷲が形成されていく。


「引きずってでも連れていく」


――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ