表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/79

――第78章・カオル捜索――

東京の街路では、市民たちが悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。

 その背後を、大剣を手にした騎士の軍勢が進軍していく。


「ジ・エンドレスのために! ジ・エンドレスこそが支配する!」


 一人の女性が剣の刃に足を取られて転び、騎士がそのまま彼女を突き刺そうとした。

 だが、その寸前――巨大なバンが騎士の周囲に出現し、そのまま彼を閉じ込めた。


「はぁ? なんだこれ!?」


 周囲の騎士たちが困惑して見回す。

 その次の瞬間、彼らの身体が端から少しずつ消え始めた。


「襲撃だ!」と一人が叫ぶ。

「敵を探せ!」


 上空で一瞬、何かが揺らめいた。

 騎士たちが見上げると、黒ずくめの人物が片手を掲げていた。


「ジュゲン滅者:霊脈手榴弾!」


 騎士たちの頭上に大量の爆弾が一斉に出現し、次の瞬間には轟音と共に全員を跡形もなく吹き飛ばした。


 女性が震えながら顔を上げると、そこにはザンとユウトが立っていた。


「あなたたちは……誰……?」


「俺はザンだ」

 彼は名乗る。

「ドッコウ団のカイダンチョウ。そしてこっちは、うちでも特に有能なメンバーの一人、ユウトだ」


 ユウトが軽く手を振る。


「他のカイダンチョウたちはどうしたの……?」

 女性が尋ねた。


「あいつらは君たちを守れなかった」

 ザンは言い放つ。

「ネズミみたいに隠れて逃げたんだ。だが安心しろ。ドッコウ団が来た以上、お前たちは俺たちが守る」


 一体のゴブリンが女性に飛びかかろうとしたが、ザンが爆弾で即座に消し飛ばした。


「さあ、行こうか」

 ザンはそう言って手を差し伸べる。

「君を安全な場所まで連れて行ってやる」


 二人は女性を助け起こし、その場から連れ出していく。

 去り際、ザンはほんの一瞬だけ振り返った。


 その頃――


 カイタンシャ本部では、ハヤテが東京の中継映像を見つめていた。

 その隣にはオマリロとマリンが立っている。


「見たか、この茶番を!」

 ハヤテが声を荒げた。

「あのチンピラども、自分たちが正義の味方面してやがる!」


「非常に厄介な状況です」

 マリンも険しい顔で言う。

「ドッコウ団がカイダンチョウの信用をさらに失墜させているうえ、こちらはすでに一か月以上、消息不明のカイダンチョウが複数名。動ける余地がほとんどありません」


「なら、やるべきことは分かってるだろ?」

 ハヤテが言う。


「ええ」

 マリンは頷く。

「他のカイダンチョウたちを回収しなければなりません。必要なら、多少強引な手段を使ってでも」


「問題は、あいつらがどこに隠れてるかだ……」

 ハヤテは低く呟く。

「うちのあらゆる手を使っても、誰一人見つからない」


「なら、まずは最も危険の少ない対象から当たりましょう」

 マリンが提案した。

「月島カオルの所在に関する手掛かりから調べ始めても?」


 ハヤテは頷く。


「それは悪くない。オマリロ、お前なら連中を連れ戻せるか?」


 オマリロは短く唸るような声を漏らすと、そのまま部屋を出て行った。


「……今のは返事としてどうなんだ」

 ハヤテがぼやく。


「おそらく肯定です」

 マリンは淡々と答える。

「でなければ、完全な拒絶でしょう。どちらにせよ、私は私でカオルの線を追います」


 彼女も部屋を後にし、ハヤテは再び映像へ視線を戻した。


「ドッコウ団……なぜ今になって、なぜ東京で動く……?」


 その頃――


 とある小さな家では、年老いた夫婦が穏やかな音楽を流しながら、ステーキとライスを作っていた。

 オーブンの熱い音が静かに響いている。


 居間のソファでは、カオルが太平洋の絵を描いていた。


「カオル、ご飯できたわよ」

 母が声をかける。


「うん、今行く!」


 彼女は絵に最後の仕上げを加えると、それを置いて台所へ向かった。


 テーブルには出来たての料理が並び、両親はカオルを挟むように座っている。

 カオルは席につき、静かに食べ始めた。


「それで、最近はどう?」

 父が尋ねる。

「急にうちへ戻りたいなんて言うから、何かあったのかと思ってな」


「まあ……ちょっとね」

 カオルは曖昧に返した。

「いろいろ……重くて」


「私たちに話してもいいのよ」

 母は優しく言う。

「それで、その部隊はどうなったの? ええと……エイカイダンだっけ?」


「コウカイダンだよ、お母さん」

 カオルが訂正する。

「もう解散したけど」


「まあ……! どうして?」


「失敗したから」

 カオルは箸を止めずに言う。

「私たち、みんな失敗した。ハントレスに新人たちはほとんど殺されたし、そのあとダンジョン側の連中が罠を仕掛けて、モンスターが世界中に溢れ出した。それだけでも最悪なのに、今度はニュガワさんの過去の生徒――ヘラルドとかいう化け物まで現れてる。もう……全部、重すぎるの」


 両親はしばらく黙った。


「分かるよ」

 父が静かに口を開く。

「お前はまだ十九歳だ。そんな年で背負うには、あまりに大きい。特に、お兄ちゃんのこともあったあとでは――」


「お父さん」

 カオルがぴしゃりと遮る。


「あ、ああ……すまん」


「とにかく」

 カオルは言葉を続けた。

「ガクトさんも、アツシさんも、それにニュガワさんもいる。私なんかいなくてもどうにかなる」


 父はステーキをひと口食べてから言う。


「もし本当にそうなら、とっくにお前は追い出されてる。確かにお前は、好きな時にドラゴンになるような伝説じゃない。だが、それでもお前は世界でも指折りのカイタンシャだ」


「それに」

 母も続ける。

「あなたの仲間たちはどうするの? そんなふうにいきなり捨ててしまっていいわけないでしょう」


「代わりなんていくらでもいるよ、お母さん」

 カオルは目を伏せる。

「その方がいいの」


 その後の食卓は静かだった。

 食べ終えたカオルの腕を、母がそっと掴む。


「カオル。最近、お姉ちゃんには会ってる?」


 カオルは首を振った。


「カズキが死んでから、一度も会ってない」


「あら、そう……。今度夕飯に呼びたいって伝えておいてくれる?」


「うん。伝えとく」


 カオルは家を出た。

 両親の視線が途切れたのを確認すると、近くの物置へ向かい、扉を開ける。


「……すぐ終わらせる」


 中には床板のように隠された扉があり、その横には食べ物の入った袋が置かれていた。


「時間ぴったり」


 彼女は袋を持ち、床下の扉を開いて地下へ降りる。


 地下室は暗く、冷たく、どこかから水滴の垂れる音が響いていた。

 カオルが明かりを点けると、鎖で壁に繋がれた一人の男の姿が浮かび上がる。

 服はぼろぼろで、身体も痛々しいほど傷ついていた。


「姉さん」

 男が皮肉っぽく言う。

「またこの哀れな状況を笑いに来たのか?」


「黙って受け取りな」

 カオルは袋を足元へ投げた。

「今日の分はそれだけ」


 男は足で袋を引き寄せ、中を覗き込む。


「ライス一杯と、水半分か。すげえな。生かさず殺さずってやつだ」


 カオルは睨みつける。


「生きてるだけ感謝しなよ。あんたがやったことを考えれば」


「へえ」

 男は鼻で笑う。

「母さんと父さんが、あんたとカナが俺をこんなとこに隠してるって知ったら、どんな顔するだろうな」


「知らせない。あの人たちは、あんたが死んだと思ってる」


「じゃあ、お前のカイタンシャ仲間は?」

 男は続ける。

「カイダンチョウだの、ニュガワだの、あいつらも?」


「私は辞めた」

 カオルは吐き捨てるように言った。

「それに、ここは絶対見つからない。だからせいぜい諦めな」


 彼女は踵を返す。


「強がりだな」

 男は笑った。

「俺の仲間たちが必ず迎えに来る」


「来たら、あんたと一緒にここで朽ちるだけ」


 カオルはそのまま去り、カズキは地下に一人残された。


 長野・阿智――


 ソウシンがハンを連れて道を駆け抜け、阿智村が見えてきたところで止まった。

 その横にオマリロが現れる。


「先生」

 ハンが尋ねる。

「誰を追ってるんです?」


「少女」


「それじゃ分かりません」


 ソウシンが近くの温泉を指差した。


「わあ! プール!」


 飛び出しかけた彼を、ハンが腕を掴んで止める。


「プールじゃない。先生、どこから探します?」


「地元の者」

 オマリロが答える。

「情報を持つ」


 宿の前では、何人かの村人が集まって音楽を演奏し、菓子をつまんでいた。

 オマリロがいきなりその横へ現れ、彼らは一斉に飛び上がる。


「うわっ!」


「少女はここにいるか」


 そのうちの一人がオマリロを見て、口元を押さえた。


「で、伝説のカイタンシャ……!」


 残りの二人は慌ててスマホを取り出して写真を撮る。

 そこへハンとソウシンも追いついた。


「わあ、お連れもいるんですね!」

 一人が言う。


「よかったら今夜、うちの宿に泊まっていきませんか?」

 もう一人が続ける。

「一番いい部屋をご用意しますよ!」


「泊まりはいらない」

 オマリロは切り捨てる。

「少女を探してる」


「少女?」

 最初の村人が首を傾げる。

「さすがにそれだけじゃ……」


「カオル」

 オマリロが言った。


「ああ、月島カオルカイダンチョウ!」

 村人は頷く。

「最近は見てませんね……たぶん、ご実家を当たってみれば?」


「場所を言え」


 彼女は村の外れ、もっとも人里離れた家を指差した。


「あそこです」


 次の瞬間、オマリロはハンとソウシンを連れて消えた。


 ハンが瞬きをする間もなく、その家の前へ移動している。


「……普通にノックします?」

 ハンが聞く。


 答えもなく、オマリロは杖でドアを叩いた。

 母親が扉を開ける。


「あら……見間違いかしら?」


「女」

 オマリロは言う。

「娘が必要だ」


「まあ、まあ! あなた! あなた早く来てちょうだい!」


 父親も顔を出し、目を見開いた。


「本当にオマリロ・ニュガワさんだ! 先生、うちの娘はあなたの大ファンなんです! 二人とも!」


「娘はどこだ」


「ちょうど出たばかりですが……でもせっかくですし、中へどうぞ! 何か食べていってください、ほんのお礼です!」


 オマリロが拒むより早く、夫妻は彼と弟子たちを家の中へ通した。


 食卓へ座らされると、すぐにライスとラーメンの入った器が並べられる。


「余り物ですけど、どうぞ」

 母親――カリンが言った。

「私はカリン、こっちは夫のカノンです」


「どうでもいい」

 オマリロは一蹴する。


「えっと、俺はハンです」

 ハンが代わりに自己紹介した。

「こっちはソウシン。うちで一番年下です」


 ソウシンはすでに料理を食べ始めている。


「……よくこんなのを無警戒に食えるな」

 ハンは内心で呟いた。


「ところで」

 カノンが口を開く。

「どうしてうちの娘をお探しで?」


「少女を呼び戻す」

 オマリロは答える。

「日本で厄介事」


「ああ、なるほど」

 カノンは納得したように頷く。

「あの騒ぎか。やはり、もっと悪化したんですね」


「うん!」

 ソウシンが元気よく答えた。

「今は外出制限まで出てる!」


「幸いうちの村はまだ無事だけど……」

 カリンは胸を撫で下ろした。

「それでも、あの子が心配です。あんな出来事のあとじゃ、あの子が参ってしまうのも無理ないですもの」


「え?」

 ハンが顔を上げる。

「あの、いつも明るい月島さんが?」


 カリンは静かに頷いた。


「あの子たち兄妹は、長いあいだ兄から虐待を受けていたの。最後は正当防衛であの子たちが兄を殺した。そこからずっと、完全には立ち直れていないのよ」


「そんな……」

 ハンは息を呑んだ。

「でも、それなら何でここに戻ってきたんです? 余計に辛いんじゃ……」


「ここしか帰る場所がないから」

 カノンが答える。

「人目も少ないし、簡単には見つからないと思っていた。けれど、どうやってあの子を探し当てたんです?」


「女は隠れるのが下手」


「先生のジュゲンだよ!」

 ソウシンが得意げに言う。

「生命反応を追って見つけたんだ!」


「すごい……」

 カノンは目を丸くした。

「年を取っても、まだ全然衰えてないんですね」


 ソウシンは食事を食べ終える。


「じゃあ僕、カオルを探してくる!」


「俺も行きます」

 ハンも立ち上がった。

「先生は来ますか?」


「行け」

 オマリロは言う。

「私が動くと、注目が集まる」


「分かりました」


 二人は家を出た。

 カリンはハンのほとんど手つかずの食事を見て首を傾げる。


「あの子、ほとんど食べなかったわね……」


 外――


 ハンはキューブを出した。


「久々にこれ使うな……。キューブ、解決策を走査!」


【走査中……】


 やがて、音が鳴る。


【解決策を1件発見しました】


「表示しろ」


 キューブから淡い青色の光が伸び、遠くの物置へと続く薄い足跡を浮かび上がらせた。


「足跡……?」

 ハンは目を細める。

「ソウシン、来い」


 ソウシンは素直についていく。

 二人が物置に着くと、ハンは扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。


「……下がってろ、ソウシン」


 ハンは腕時計を形成し、ワイヤーを物置へ撃ち込む。

 強引に引き戻すと、扉が軋みながらこじ開けられた。

 中には、床下への隠し扉があった。


「やっぱりな」

 ハンは呟く。

「ソウシン、こっちは任せた」


 ソウシンが木へ手を触れる。


「ジュゲン操運者:伝送・第二ギア!」


 木材が高速で振動し始め、留め具が砕けてロックが外れた。


「できた!」


 二人は地下へ降りていく。

 音を立てないよう慎重に進んでいたが、ソウシンがハンにぶつかり、二人そろって階段を転げ落ちた。


「いってぇ!」


「ごめん、ハン!」


 暗闇の中から、聞き慣れない声が響く。


「……誰か来たのか?」


 ハンはキューブを再展開し、ライトを照らした。

 そこにいたのは、壁に鎖で繋がれたカズキだった。


「へえ」

 男は何度かまばたきをする。

「お前ら、俺が待ってた連中じゃないな……」


「お前、誰だ?」

 ハンが問いかける。


「今はいい」

 カズキは低く返した。

「それより隠れろ。あいつらが戻ってきたら――」


 ドン、と鈍い衝撃が走った。


 ハンとソウシンは背後から何かで殴られ、そのまま床へ倒れ込む。


「っ……!」


「ハン……」


 意識を失う寸前、ハンの視界に映ったのは、自分たちを見下ろす二人の女の姿だった。


「どうするの、お姉ちゃん?」


「放ってはおけない」

 もう一人の声が冷たく答える。

「カオル。目撃者は残せない」


「……分かった」


 そこで、すべてが闇に沈んだ。


 ―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ