――第74章・黄金の光―
フロア10000――
神代コウイチ、月島カオル、西園寺ミズキは、カゲトウ率いるハンターたちを相手に応戦を続けていた。
茂みを突き破って獣たちが次々と飛び出してくるが、コウイチは網状の罠を展開し、それらを押し返していく。
「さっさと終わらせるぞ」
コウイチが二人に言う。
「こんなの、一日中やってる気はねえ」
「賛成!」
カオルはうなずいた。
二人のハンターを飛び越えると、その顔に手を触れる。
次の瞬間、二人はその場に崩れ落ちた。
ミズキは群がってくるハンターたちを手際よく片づけると、再びカゲトウへと視線を向けた。
「次はあなたです」
目で追えぬほどの速さでミズキの拳が連打され、カゲトウの背中が木に叩きつけられる。
だが彼はすぐさま笛を吹き、茂みの中から蛇たちを呼び出した。
蛇たちはミズキへ食らいつこうと牙を剥く。
「このジャングルが貴様らの墓場だ」
カゲトウが宣言する。
「そしてここから、新たな時代が生まれる!」
他のハンターを片づけたコウイチとカオルは、その光景を見た。
蛇たちはどんどん巨大化し、人ひとり丸呑みにできそうな口を開いていく。
「行け、蛇ども! あいつらの肉を喰ら――」
そこへ、氷の鷲が空から急降下した。
蛇たちに激突し、そのまま一瞬で凍りつかせる。
カゲトウが驚いて目を見開いた直後、無数の氷の脚が彼へ襲いかかり、枝へ叩きつけて気絶させた。
他のカイダンチョウたちが振り向くと、そこには名取ユカが立っていた。
その手には、スライム状の塊が握られている。
「みんな無事?」
ユカが問いかける。
「名取か」
コウイチが不機嫌そうに言う。
「見せ場でも奪いに来たのか?」
「まさか」
ユカは鼻で笑った。
「オマリロを探していたら、たまたまあなたたちに遭遇しただけよ」
そのとき、深山ガクトと砂原アツシが木々を切り分けて現れた。
「おっ」
ガクトがにっと笑う。
「ユカ、無事だったか!」
「そっちもね」
ユカは答える。
「その手にあるものは何だ?」
アツシが問う。
「オマリロの新しいペットよ」
ユカが言う。
「しゃべるスライム」
エメルが塊のまま両手を生やした。
「ペットじゃないって言ってるでしょ! そのジジイのところに戻しなさいよ、この失礼なおばさん!」
「黙ってなさい、スライム」
アツシは周囲を見回した。
そこにはルーキーたちの死体が、あちこちに転がっている。
「これほどの死と破壊……」
アツシは低く言う。
「この狂気で命を落とした者たちには、謝罪してもしきれん」
「私はまだ自分のルーキーを見つけていないわ」
ユカが言った。
「まだ生きている可能性はある」
アツシは目を細める。
「ならば、私の弟子も同じかもしれん。娘も含め、必ず見つけ出す」
「はいはい」
コウイチが割って入る。
「運がいいな、お前ら二人とも。さっさと行くぞ。この魔女がこれ以上ガキどもを殺す前にな」
「その通りだ!」
ガクトが力強くうなずく。
一同は屋敷へ向かって駆け出した。
屋敷――
オマリロとコハクは、部屋を次々と突き破りながら激しくぶつかり合っていた。
コハクは執拗にオマリロへ襲いかかる。
だがオマリロはそのすべてをかわし続けていた。
「何をしているの?」
コハクが苛立たしげに吐き捨てる。
「私を攻撃しなさい!」
彼女の爪がオマリロに迫る。
だがオマリロはそれを片手で受け止め、そのまま床へ叩きつけ、壁へ投げ飛ばした。
「はぁ……」
コハクは背中を鳴らす。
「そう、それでいい!」
次の瞬間、彼女の身体からさらに獣が現れる。
三体の巨大なキメラ獣だ。
どれも肉を前にした肉食獣のように、オマリロを睨みつけている。
コハクはその中で最も大きな個体の上へ飛び乗った。
「行きなさい、私の子供たち! かかれ!」
一体目が尾でオマリロを拘束しようとするが、オマリロは手を一度打ち鳴らし、それを消し飛ばす。
二体目は爪でオマリロを持ち上げた。
だがオマリロは両腕で爪を押し広げ、その胸を強く押して吹き飛ばした。
「素晴らしい力」
コハクは恍惚としたように言う。
「その力を私に向けて。私に、あなたの価値を見せて!」
「ふん」
コハクの乗る獣がオマリロへ突進する。
だが彼はその尾を掴み、独楽のように振り回して放り投げた。
コハクはそこから跳び下りる。
着地と同時に地面を叩くと、床が大きく揺れた。
さらに髪から蛇が飛び出し、毒液をオマリロへ放つ。
「ジュゲン操運者――全能反転」
金色の輪が彼の身体を取り囲む。
毒液がその輪に触れた瞬間、黄金の光がそれを倍の速さでコハクへ弾き返した。
「――っ!?」
コハクは辛うじてかわす。
毒は背後の床を溶かした。
「まだ隠してるものがあるのね! 見せなさい! 私の王が何を持っているのか、見せて!」
「王ではない。お前に王はいらん」
さらに獣が湧き出す。
だが黄金の輪が一度だけ輝き、それらをまとめて吹き飛ばした。
コハクは上空から飛びかかる。
オマリロは輪を消し、弓を形成して矢の雨を放つ。
コハクはそれをかわし、数歩先へ着地した。
「ちっ。あなたのその受け身、飽きたわ。まだ分からないの? ここまでして」
「女、話をまとめろ」
コハクは腰に手を当て、オマリロの周りをゆっくり歩き始めた。
「私があのトーナメントであなたを見て、なぜ選んだと思う?
私はこれまで、何百、何千という強者を殺してきた。カイダンチョウも、エンドレスも、その中間も」
彼女の瞳が強く光る。
「でも、私が欲しいのは“強い相手”じゃない。対等な相手でもない。
もっと上よ。もっと強くて、もっと苛烈で、私を跪かせられる存在!
組織の頂点に一人で立つ苦しさが、あなたに分かる? 敵に対して唯一の脅威が自分だけというあの感覚が!」
彼女はオマリロを指差した。
「でも、あなたは違う。あなたなら私を屈服させられる。
フロア狩人団を率いることもできる。そして私は、その隣に立つ完璧な女王になれる」
全身の光がさらに増す。
「でも、私は何も差し出さない。欲しければ奪いなさい!
本気でね! だって弟子を取り戻したいんでしょう?」
コハクが再び飛びかかろうとした、その瞬間だった。
ドォン、と爆音が響く。
壁が吹き飛び、何かが部屋へ突っ込んでくる。
それは、全身を黒い装甲で覆ったハンだった。
ワイヤーで他のルーキーたちもまとめて引きずっている。
「ハントレス……」
ハンがつぶやく。
「まあ! ちょうどいいところに!」
コハクは嬉しそうに笑う。
「闇もずいぶん育ったじゃない。いい子ね、本当に」
ザリアはオマリロの姿を見て、息を詰まらせた。
「先生……ごめん……あたしたち、止められなくて……」
オマリロの視線がハンへ向く。
ほんの一瞬だけ、彼は静止した。
「ハン」
コハクはハンへ手を差し出す。
「さて、ハン。少し力を借りるわ。あなたの師匠、どうにも手加減が過ぎるみたいだから。ここで一気に加速しましょうか」
「はい……ハントレス……私は……あなたのヘラルド……」
「いい子。さあ、来なさい」
コハクがハンの腕を取ると、二人の身体がそれぞれ緑と紫に発光し始めた。
「ジュゲン変性者――究極獣融合!」
オマリロも、ルーキーたちも、その変化を見つめることしかできなかった。
緑と紫の光が溶け合い、融合する。
そして現れたのは、巨大な恐竜のような怪物だった。
六本の腕。鋭い爪。尾。
牙を剥いた頭部に、闇の翼。
そして巨大なダートガンまでも備えている。
その竜が口を開くと、聞こえてきたのはコハクの、より魔的になった声だった。
「これでもう逃げ道はないわ!
本気で戦うしかないの! でなければ、あなたも、あなたの生徒たちも、全員死ぬ!」
竜は突進し、オマリロを屋敷の外へ叩き飛ばした。
「先生!」
生徒たちが叫ぶ。
オマリロは外の木の上へ着地する。
だがコハクの竜形態はその木を難なく踏み砕き、そのまま彼を掴みにかかった。
「ジュゲン闘士――無限眼の黄金刃!」
オマリロは円環の刃を形成する。
彼と竜は森を駆けながら激突を繰り返し、互いに目で追えない速度で斬り結んだ。
コハクは口から紫の毒液を吐く。
オマリロは刃を高速で回転させ、それを四方へ弾き飛ばした。
その後方では、ソーシンが巨大な丸太を車両のように動かし、その上にルーキーたちが乗っていた。
「つまりさ」
シノが驚いたように言う。
「何でも乗り物にできるってこと?」
ソーシンはうなずいた。
「うん!」
「マジで羨ましい……」
ソーシンはオマリロの方を指差す。
「フレンド・オマリロが大変!」
「……ハン、吸収された」
リカが呆然と漏らす。
「まだ……中にいるのかな……」
「分からない」
ノノカが言う。
「アビスとあの女の干渉を受けてる以上、望みはかなり薄いと思う」
「それでもやるしかない」
ザリアが言い切る。
「あいつはあたしたちの友達だ」
「うん!」
レイも力強くうなずく。
「諦めない!」
オマリロは円刃をコハクの頭部装甲へ投げつけ、よろめかせる。
その隙に自ら刃を掴み直し、足払いをかけた。
竜体が大きく傾く。
「女は十分やった」
オマリロが告げる。
「少年は戻す。女は後悔する」
「へえ? なら言葉じゃなくて見せなさいよ!」
コハクは木を一本引き抜き、オマリロへ投げつける。
オマリロは片手でそれを両断した。
「女が話にならん」
オマリロは言う。
「少年は連れ帰る。お前は負ける」
オマリロが空中へ浮く。
全身から黄金の輝きがあふれ出し、その背後に三重の輪が形成された。
「今こそ、ハンが価値を示す時だ」
その光に、コハクは目を見開く。
「ジュゲン魔法士――聖光爆破!」
三つの光弾がコハクへ直撃する。
眩い黄金の爆発が広がり、森を白く染め上げた。
その光の中で、かすかな声が響く。
〈ハン……ハン……戻ってきて……〉
そして――
すべてが、暗転した。
——




