表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/81

――第60章・トライアル・バイ・ファイア――

〈侵入検知――フロアレベル:5,000〉


 リカ、レイ、ガクト、ミズキは、黒曜石の床へと叩きつけられた。そこは試験会場のような広間で、壁沿いに松明がずらりと灯っている。


〈規則:試練を完遂せよ〉

〈残り時間:30:00〉


「試練?」ガクトが眉をひそめる。「どこだよ、ここ」


「大広間に見える」ミズキが淡々と言う。「ただし色彩と素材が通常と違いすぎる」


 リカはレイの腕を引いて起こした。


「レイ、大丈夫?」


「だいじょうぶ……引きずり込まれちゃって、ごめんね……」


「いいの! 気にしない! どんな罰だろうと――」


 その言葉を遮るように、床から火柱が噴き上がった。四人は反射的に跳び退く。


「動け!」ガクトが叫ぶ。「前へ! 行くぞ!」


 走り出した瞬間、壁のあちこちから火が噴いた。炎を縫って突き進み、やがて彼らは巨大な悪魔像の前で足を止める。


「うわ」ガクトが顔をしかめる。「キモいな、こいつ」


「……もう一度言ってみろ?」


 像が動いた。石がほどけ、四枚の翼を持つ小柄な悪魔へと変わる。


「ふむ。人間か」悪魔は淡々と告げる。「ここで人間を見るのは……何十年ぶりだろうな」


「あなた……善い悪魔?」リカが恐る恐る尋ねる。


「“善い”の定義次第だ。私は公平だ。だが優しいとは言っていない。特に――この階に来たお前たちにはな」


 リカの背筋が粟立つ。


 その時、遠くから足音がして、あの猫が駆け込んできた。


「はぁ……はぁ……!」猫が息を吐く。「お前ら、最悪の同行者だ!」


 ガクトが指を差す。


「それはねぇだろ! 罠を踏んだのはお前だろうが!」


「さあさあ、責任の押し付け合いはやめよう」


「――テュポーン?」悪魔が猫を見て目を細める。


「――アスモデウス?」猫が返す。


「わぁ」レイが目を輝かせる。「再会だぁ」


 アスモデウスは猫へ近づく。


「このダンジョンはお前の領域のはずだ。それが……猫の姿で彷徨っているのか」


 テュポーンは毛づくろいして目を逸らした。


「その話はしたくない」


「その猫、ハントレスが猫にしたんだって」リカが説明する。


 アスモデウスは鼻で笑った。


「ムジンシャが警戒している人間か。そいつが、お前を?」


「“人間”じゃない」テュポーンが吐き捨てる。「俺の階で起きた惨状を見れば分かる……」


「どうやって猫に?」


「獣じみた魔術だ。ジュゲンじゃない」テュポーンは低く言う。「……俺たちの同類の可能性もある。“ジ・エンドレス”の生物だとな」


「あり得ない」アスモデウスが即答する。「我々が知らぬはずがない」


「今はどうでもいい」テュポーンが苛立ったように言う。「お前がこいつらを助けて、俺が底へ行ければそれでいい。あの“野生の非人間”を早く排除したい」


 アスモデウスは翼を広げ、宙へ浮いた。


「なら来い。――炎の試練を耐え抜け」


 翼を一振り。壁という壁から炎が噴き上がり、アスモデウスの背後の扉が開いた。そこには冥府のような荒野が広がっている。


「地獄になるぞ」


 アスモデウスは飛び込んだ。四人も追う。ミズキが天井の岩肌を見上げる。


「妙な地形だ」


「気をつけろ」テュポーンが警告する。「こいつの試練は“剣の稽古”なんかじゃない。……俺は元々、このダンジョンの主だったからな」


「でも……無理ゲーじゃない、よね?」リカが小さく尋ねる。


 テュポーンが笑う。


「無理の一歩手前だ。上で失敗しなければ、そもそもここに落ちてない」


「私は友達を置いていけない!」


「はい、おめでとう」テュポーンが冷たく言う。「そのせいで“全員”が試練に参加だ」


 四人が固まる。


「待て」ガクトが割り込む。「“全員”ってどういう――」


「俺が聞かされてたのは“オマリロ・ニュガワとハントレス”だ」テュポーンが言う。「このダンジョンは、その二人と――連れてくる味方ごと叩き潰すための罠として組まれてる」


 テュポーンは猫の目を細めた。


「エンドレスが用意した試練は三系統。ギリシャ、北欧、エジプト――その土地の“災厄”から作られてる」


「つまり……」ミズキが呟く。


「ここから先、お前らは“全体”を巻き込んでる」テュポーンが言い切る。「お前らの仲間も、な」


 重い沈黙の中、彼らは黒曜石の門へ辿り着いた。アスモデウスが待っている。


「最初の試練は簡単だ」


〈規則:ペットを手懐けろ〉


「ペット?」リカが首を傾げる。「どんなペット……?」


「私の番犬だ」アスモデウスが淡々と言う。「急げ。機嫌が最悪だ。――時計、開始」


〈残り時間:29:58〉


 アスモデウスは飛び去った。残された一行を、テュポーンが小さく嗤う。


「……来るぞ」


 炎で照らされた道が、黒曜石の城へ続いていた。彼らは進む。遠くから呻き声と悲鳴が聞こえる。


「やだ……」レイが震える。


「私も……」リカも唇を噛む。


「甘えるな」テュポーンが吐き捨てる。「ここは“ダンジョンで死んだ奴”が落ちる場所だ。嫌なら死ぬな」


 城門の前でテュポーンが止まる。


「着いた。人間が先に行け」


 ガクトが一歩前に出て、ノックした。


「どーも! ご訪問でーす! 深山ガクト、参上!」


 テュポーンが顔を覆う。


 だが――扉の向こうで低い唸りが響いた後、門がぎぃ、と開いた。


「……開くのかよ」ガクトが目を丸くする。


 暗い回廊。奥から不気味な唸り声。リカとレイは足早になる。


(犬の声じゃない……)ガクトが嫌な予感を覚える。


 やがて錠前のかかった扉と、その横のレバーへ。テュポーンが前足で示す。


「それが入口だ」


 ガクトは一瞬迷ってから、レバーを引いた。


〈区画:解錠〉


 錠が引っ込み、扉がせり上がる。中は円形の広間で、三つの巨大な金属扉が壁に並んでいた。


 だがガクトが二人を止める。


「……誰も、音を立てるな」


 中央には、三つの頭を持つ巨大な犬。黒と赤の目で、床の骨を噛み砕いている。


「……出たな」テュポーンが低く言う。「ケルベロス」


 骨がバキン、と砕けた。テュポーンは反射でリカの背に隠れる。


「俺を盾にするな!」リカが小声で怒る。


 ケルベロスがゆっくり首を上げ、侵入者を見た。レイがにこにこ手を振る。


「こんにちは! いい子?」


 犬は骨を吐き捨て、立ち上がる。レイが近づく。


「レイ?」リカの声が裏返る。「何して――」


「仲良くする!」レイが即答する。「だって規則、手懐けろ、でしょ?」


「そうだけど危な――」


「だいじょうぶ!」


 レイは一つの頭を撫でた。


「いい子いい子~」


 ケルベロスが匂いを嗅ぐ。低い唸り。次の瞬間――


「ガァァァッ!」


「危ない!」


 ガクトがレイを引き倒し、牙がすれすれで空を裂いた。


「最悪……」リカが頭を抱える。「最悪が更新した……!」


「気難しいんだ」テュポーンがボソリ。


 ケルベロスはミズキ、リカ、テュポーンへ目を向け、唸り声を強める。


「状況は不利」ミズキが即断する。「まず動線確保。前へ」


 ケルベロスが突っ込んできた。ミズキは二人の肩に手を置く。


「ジュゲン操運者:呪いの伝送」


 一瞬で、三人はケルベロスの背後へ。突進したケルベロスは空振りする。ミズキは二人を下ろした。


「理想は、あなた達が下がること」


「うん!」リカが即答する。


 ガクトがミズキに頷く。


「やれ!」


 ケルベロスが噛みつき連打。ミズキの身体は反射のようにすり抜けるが、呼吸が荒くなる。


「……援護が要る」


「任せろ!」ガクトが叫ぶ。「ジュゲン闘士:灼熱疾走!」


 灼熱の兜を纏い、丸まって弾丸のように突進――犬へぶつかり、壁へ激突。


 ドン!!


 だがケルベロスは首を振り、ガクトを放り投げた。さらに一つの口を開く。


「まずい……!」


 火炎が放たれる。ミズキの術が発動し、少し後方へ転移――直後、巨体の前脚が叩きつけられるが、間一髪で避ける。ミズキは蹴りを顔面へ入れた。


「グルル……」


 ケルベロスが再び火炎を溜める。ミズキが回避――その隙にガクトが突っ込む。


「落ち着けって、相棒!」


 押し合いになるが、ケルベロスは尻尾でガクトを弾き飛ばし、今度はリカとレイへ向かった。


「やばっ」リカが凍る。


 レイが即座に手を上げる。


「ジュゲン魔法士:月の明現化!」


 月光のビームが走る。だがケルベロスの火炎と正面衝突し――ビームが赤く染まり、真紅のプラズマとなって暴発した。


〈反応発生:クリムゾン・フレイム〉


 プラズマが二人を弾き飛ばす。リカがレイを抱え止めた瞬間、テュポーンがリカの肩へ飛び乗る。


「おい! 何して――」


「扉だ!」テュポーンが叫ぶ。「扉を開けろ! それで獣を“飼い慣らす”!」


「どうやって!?」


「飢えの扉、怒りの扉、沈黙の扉!」テュポーンが早口で言う。「それぞれの課題をクリアして開けろ! 開くたびに“鎮めるための三つの道具”が手に入る!」


「説明が雑すぎる!」


 ケルベロスが突進。ガクトが頭突きで逸らした。


「ゆっくりでいい! 俺らが抑える!」


「ありがとう!」リカは叫び返し、テュポーンを睨む。「猫! 扉の開け方!」


「それぞれの扉のボタンを押して、出る課題をこなせ!」テュポーンが言い切る。「終われば“道具”が一つ出る! 三つ揃えば犬が鎮まる!」


 リカは最寄りの扉へ駆け寄る。黒曜石のボタンがある。


「これ?」


「それだ! 押せ!」


 リカが掌でボタンを叩いた。


〈挑戦開始:怒りの扉〉



フロア10,000――


 ルーキーたちが逃げ惑う。ジャングルには重い足音が鳴り響き、コハクの獣じみた笑いが響いた。


「出ておいで、子どもたち。遊ぼう?」


 ルーキーが石に躓いた瞬間、蛇の尾が身体を巻き取った。


「やだ、やだ、お願い――!」


 草むらへ引きずり込まれる。別の場所では、猟師たちが二人のルーキー――少年と少女――を囲み、狼のように笑う。


「やれやれやれ! 殺れ!」


 少年は震えながら砂を槍に変え、少女へ撃つ。少女は身を翻す。


「アハハハ!」


 少女は手をかざし、少年の頭に泡を被せた。少年は喉を掻きむしる。


「や、やめ――!」


「ごめんなさい……」


 酸素が尽き、少年は崩れ落ちた。猟師たちは拍手する。


「その女、ハントレスに連れてけ」


 少女が連行されていく。その影から、ハンとシノが草むらを割って出た。


「……今の、何だ」ハンが声を殺す。


「殺さないなら、殺し合わせる」シノが歯を食いしばる。「そういう狩り」


「どうして……こんな」


「今は考えない」シノが即答する。「あのハントレス女、倒す案は?」


「倒すのは無理」ハンは認める。「でも、俺のキューブと、お前のメツシャで“拘束”なら――」


「聞かせて」


「お前、メツシャだよな」


「うん」


「スキル数は?」


「一つだけ。兄みたいな天才じゃない」


「十分だ」ハンが言う。「四肢を消せるなら、俺の檻で固定できる。再生しても、動けなければ終わりだ」


「いい案。じゃあ、奇襲で――」


「誰に? 私に?」


 二人が跳ねる。そこに立っていたのはコハク。もう“人間”ではない。


 ハンは息を呑む。


「……なんだよ、あれ……」


 獅子の身体、虎の顔、蛇の尾。コハクは愉快そうに首を傾けた。


「もう一回言って? “計画”って?」


「今だ、シノ!」ハンが叫ぶ。


「ジュゲン滅者:指先滅鍵――!」


 ベクトルが走り、コハクの右腕が消える。シノは二撃目を構えた。


「ジュゲン滅者――」


 だがコハクの尾がシノを樹へ叩きつけた。


「シノ!」


 腕が再生する。コハクはハンを一撃で薙ぎ払い、草むらの向こうへ転がした。次の瞬間、背後へ回り込む。


「哀れ」


 足が踏み込まれ、ハンの腕が折れる。


「ぐっ……くそ――!」


 ハンは残った腕で装置を起動する。


「ジュゲン後備者:手首装着キューブ――電撃ゲート!」


 帯電したゲートが形成され、コハクを挟み込む。強烈な電撃――だがコハクは、ゲートを両手で引き裂いた。


「……は?」


 コハクは躊躇なくハンの頭を掴み、顔を近づける。


「失敗作、ハン。あなたの過去も、動機も、全部調べた。もっと“獣”になれるのに……」


「違う!」ハンが叫ぶ。「俺は師匠を裏切らない!」


 コハクが笑う。


「すぐ“師匠”じゃなくなる。――私が、なる」


 そして頭を地面へ叩きつけた。ハンの意識が暗転する。


―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ