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――第55章・鹿児島――

――カイタンシャ本部――


 会議室。ユカ、アツシ、カオル、ミズキ、コウイチ、ガクトがテーブルを囲み、席の頭にはハヤテが座っていた。


「全員知っての通り、ハントレス案件はかなり厄介だ」ハヤテが切り出す。


「厄介?」ガクトが眉を吊り上げる。「失礼しますよ、サー。でも――俺のルーキー、三人も“持ってかれた”んすけど!」


「私も一人取られた」ユカが淡々と言う。


「俺もだ」アツシも続ける。


「つまり全員から一人ずつ攫ったってわけか」コウイチが肩をすくめる。「あのクソ野郎ども、本気だな」


「狙いは明確」ミズキが言う。「ミスター・ニュガワを罠に誘い込む。――鹿児島ダンジョンへ」


 空気が重く沈黙する。


「誰も入ったことがない」ユカが言った。「危険度が測れない」


「それは全ダンジョン同じだろ」アツシが返す。「俺たちはカイタンシャだ。リスクを負う仕事だ」


「つまり、全員行きたいってことか?」ハヤテが遮った。


 全員が頷いた。


「子どもが取られたなら助けるのが筋だ!」ガクトが拳を握る。


「脳筋の言う通りだな」コウイチが適当に同意する。「俺らが上だ」


 そこへマリンが大きなファイルを抱えて入室した。


「入手に苦労しましたが、ハントレスの情報です。集められる限りを」


 ファイルがテーブルへ置かれる。


[黒月コハク。年齢:28。身長:193cm。体重:136kg。]


 コウイチが手を挙げた。


「いやいや、あの体重は盛りすぎだろ。見た目スリム寄りの――」


「見た目は当てにならない」ミズキが即答。


「あの制圧の仕方だ。筋肉は相当ある」ガクトが唸る。


[出生地:不明。記録では、12歳で父を殺害し“フローア狩人団”を創設。]


「十二歳……?」カオルが顔色を変える。「あの子、悪そのものじゃん!」


 アツシが顎に手を当てる。


「能力は? ジュゲンは何を?」


「有効な情報は掴めませんでした」マリンが首を振る。


「危険なのは確定ね」ユカが言い切る。「これは私たちで処理するべき」


「同意だ!」ガクトが吠える。「他の隊員を巻き込むな!」


「準備してくれ。こちらは全域監視に回る」ハヤテが言う。「ニュガワはもう向かってるはずだ」


「……だろうな」アツシが鼻で笑った。


――


――鹿児島――


 フェリーターミナル付近。オマリロは桜島の噴煙を見上げていた。背後からザリア、リカ、ソウシン、レイが息を切らして追いつく。


「はぁ……サー……」ザリアが膝に手をつく。「ここですか?」


 オマリロは杖で火口の方向を指した。


「門」


「火口の中……?」リカが青ざめる。「危なくないの?」


「旅は危険。弱者は生きない」


 そこへノノカが、印章鎧をフル装備して駆け込んできた。


「遅れてすみません、サー!」


 ザリアが睨む。


「わざわざ寄り道して、そのゴミ着たの?」


「当然」


 ノノカは火山を見上げる。


「で? これ何」


「桜島、だと思う」リカが答える。「ハンなら、また嫌味言いそうだね……」


 ザリアがリカの肩に手を置く。


「心配すんな。取り返す。約束」


「フレンド・ハン、待ってる!」ソウシンが拳を握る。「助けに行こう!」


 レイが空を指した。火口の上空に、巨大な飛行船が浮いている。


「ミスター・オマリロ、あれ何?」


 オマリロの目が細くなる。


「荷物」


 杖を鳴らす。


「ジュゲン操運者:呪いの移動」


 オマリロと子どもたちは消え――次の瞬間、火口縁へ現れた。煙が吹き上がる。


 そこには、飛行船から降り立つ六人のカイダンチョウと――最後にハヤテ。


 彼らはオマリロを見て足を止めた。


「オマリロ!」ハヤテが手を振る。「いいタイミングだ!」


 オマリロは無言。


「他の連中も合流だ。共同任務ってことでどうだ?」


「ハヤテの言う通り」ユカが言う。「連携が必要。あなたの力が鍵よ」


「そうそう! お前がいればマジで勝てる!」ガクトが叫ぶ。


「私、隣キープしたい!」カオルが手を挙げる。


「私も同じく」ミズキも言った。


「……弱い発想だが」アツシがボソリ。「正しい」


 アツシはノノカを見る。


「娘、ちゃんと面倒見てもらってるか?」


 オマリロは火口へ視線を戻すだけで答えない。ノノカは親指を立てた。


「ばっちり!」


「全員同時に飛び込むのがいい」ハヤテが言う。「はい、ボディカメラ。各自装備」


 全員に渡し、最後にオマリロへ向ける。


「オマリロ、これも――」


 次の瞬間。


 オマリロは何の前触れもなく、火口へ飛び込んだ。


「サー!?」ザリアが叫ぶ。


 ザリアが続き、子どもたちも飛び込む。ノノカは走りながら父へ振り返る。


「急いで、父さん! 新しいマスター、待ってくれないから!」


 そのままダイブ。


 カイダンチョウたちは顔を見合わせ――全員が火口へ飛び込んだ。


「幸運を、カイダンチョウ」ハヤテが小さく呟く。「死ぬなよ」


――


――???――


〈侵入検知――フロアレベル:1〉


 全員が地面へ着地する。足元は黄金の台座。周囲には浮遊する足場が点在し、遠方には巨大な時計。針が、わずかに動いている。


〈規則:時計の“ペース”に合わせろ〉


「時計のペースに合わせろ、ね」ユカが呟く。


「手がかりは?」カオルが周囲を見る。


 チク……タク……チク……タク……


 ――DING。


 衝撃波が走る。だが、今は誰も吹き飛ばされない。


「理解した」ユカが言う。「動くタイミングを間違えると、吹き飛ばされる」


 オマリロが落下距離を一瞥し、杖を鳴らした。


 瞬きの間に、オマリロと子どもたちは次の足場へ。


 ――DING。


 衝撃波が通り過ぎる。


「おい!」コウイチが叫ぶ。「乗せてけよ!」


「必要ない」アツシが言い、吊っていた腕を外す。


「治ってんのかよ」ガクトが驚く。


「いい」アツシは腕を石化させ、跳躍して着地。ユカは氷の鷲で滑空し、ミズキは助走で跳ぶ。


「移動系、ずるいな」コウイチが舌打ちし、


「ジュゲン後備者:罠糸の銃支!」


 ワイヤーガンで壁に引っ掛けてスイング。ガクトはカオルを抱えて突っ切った。


「助かった、ガクト!」カオルが言う。


 ――DING。


 全員が静止。鐘が終わると、次の足場へ移る。足場はゆっくり時計へ近づき始めた。


「この足場、フロアの仕様ですか?」ザリアが聞く。


「女、油断するな」


 足場が時計の前へ到達する。そこにはトーテム。


「簡単すぎる」ユカが警戒する。「……ありえない」


 リカがオマリロを見る。オマリロが頷く。


 リカがトーテムに触れようとした瞬間――冷たい声が空間に響いた。


〈これは……? コハクとニュガワだけを望んだが、随分と賑やかだ〉


 全員が戦闘姿勢に入る。


〈まあいい。運命の針は公平には動かない。切り捨ててやろう〉


 UIが三つ浮かぶ。


〈パスA:闇の道〉

〈パスB:光の道〉

〈パスC:迷いの道〉


「何だこれは」アツシが低く言う。「お前、知ってたのか? ニュガワ」


 オマリロは無言。


〈全パス選択〉


「選んでない!」カオルが叫ぶ。


「最初から罠だ!」ガクトが吠える。「足場が――!」


 足場が砕け、全員が落下する。


〈足で着地してみろ……ははは……〉


〈侵入検知――フロアレベル:1,200〉


――


 ソウシンが目を覚まし、頭をさする。


「みんな? フレンド・レイ? フレンド・ザリア? ビッグシス・リカ?」


 近くに立つオマリロを見つける。


「ボーイ」


「フレンド・オマリロ!」


 ソウシンが飛びつく。オマリロは微動だにしない。


「他の痕跡なし。ここにいるのはボーイだけ」


 そこへ氷のラインが近づく。ユカが歩いてきた。


「……え、私のこと忘れた?」ユカが睨む。


「ナトリ」オマリロが認識する。


 ユカは暗い空間を見回し、口角を上げた。


「あなたと一緒か。最悪よりはマシね」


「フレンド・オマリロ、この人だれ?」


 ユカがソウシンを指す。


「その子は? あなたの?」


 オマリロが頷く。


「ただの子どもじゃない」


「ボーイ、できる」


「でしょうね」ユカが言う。「あなたが弱いのを傍に置くとは思えない」


 ソウシンが首を傾げる。


「フレンド・ニュガワ、この新しいフレンド、知ってるの?」


「当然」ユカが答える。「アツシは認めないけど、私とあいつも昔はこの人に教わった。――何かがあって、あなたが私たちと切れた日まで」


 オマリロは答えない。ユカは腕を組む。


「説明、ずっと無しよね」


「女、質問が違う」


「……逃げた。いいわ。後で。今は状況確認」


 その瞬間、部屋が明るくなり、店のような空間へ変わる。コインが無数に回転しながら浮遊していた。


〈規則:コインを回し続けろ〉


「変な規則ね」ユカが眉を寄せる。「見たことない」


 ユカがオマリロを見る。


「ボス。どうする?」


 コインの一枚が止まりかける。オマリロが杖で叩くと、再び回り出した。


「回せ。止めるな」


 ユカは氷の鷲を腕に乗せる。


「了解」


 奥の棚の上にトーテムが見える。オマリロが歩き出し、二人も続く。


「フレンド・オマリロ、ビッグシス・リカたちは?」ソウシンが聞く。


「子ども、分断。他のカイダンチョウの手にある」


「安全?」ソウシンが不安げに言う。


「安全だ。……もし違うなら、杖がカイダンチョウの顔を叩く」


「大丈夫よ」ユカがさらっと言う。「あいつら、口では強がるけど、あなたを本気で怒らせる気はない。会議で、たまに噂してるくらい」


「噂、不要」


「はいはい」


 ユカが鷲を飛ばし、落ちかけたコインを回転させて整列させる。


「さっきの“声”は、別の敵?」ソウシンが聞く。


「声、敵」


 ユカがオマリロへ視線を鋭くする。


「心当たりは? ハントレス以外にもいるなら、準備したい」


「すぐ分かる」


 前方に、回転するコインの壁。隙間はない。


〈壁を越える方法を探せ〉


 オマリロが転移で越える。


「……俺だけ通る」


 戻ってくる。


「不利ね」ユカが分析する。「壊せば規則違反の可能性。飛び越える余地もない……」


 ソウシンが手を挙げた。


「僕なら動かせる!」


 ユカが眉を上げる。


「どうやって?」


「僕のジュゲン。何でも“動く乗り物”にできる!」


「……本当?」


「見せろ、ボーイ」オマリロが命じる。


「うん!」


 ソウシンが両手をコイン壁へ当てる。


「ジュゲン操運者:転送――第二ギア!」


 コインがさらに高速回転し、壁そのものが車輪のように前進し始める。


「……凄い」ユカが素直に言う。「その年齢でこれは、強い」


「ボーイ、弱くない」オマリロが言い切る。「弱者は俺と並ばない」


「じゃ、追いかける?」ユカが言った。


 オマリロが転移で二人を壁の背後へ連れていく。壁は棚に衝突し、散らばったコインが床へ落ちかける。


「止まる!」ユカが叫ぶ。


「回せる!」ソウシンが即答。


「急げ、ボーイ!」


「ジュゲン操運者:転送――第二ギア!」


 コインが再び回転するが、わずかに鈍い。ユカは棚の上のトーテムを見て判断した。


 氷の鷲を置く。


「乗って!」


 ソウシンとオマリロが鷲に乗り、棚へ着地する。コインは今にも止まりそうだった。


 オマリロがトーテムを掴む。


〈トーテム封印獲得。レベル1,201の突破許可〉


「即席チームにしては上出来」ユカが言う。「昔を思い出す」


「女、忘れろ」


「どうして? あなた、まだここにいるじゃない」


「次の部屋だ」


「また逃げた」


 ゲートへ進む二人と子ども。その頭上で――


 薄暗い影のポータルが静かに見下ろし、黒い雫のような気配を垂らしていた。


「……」


 そして、痕跡も残さず消えた。


――

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