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――第54章・狩りの始まり――

試合が進むにつれ、スコアはついに――27-27の同点へ並んだ。


「ハーフタイム! 十分休憩!」シズルが宣言する。


 オマリロは自分の組を檻の片側へ集め、ソレンも同じように相手側へまとめた。


「子ども」


「はい、サー?」全員が返す。


「時は近い。子どもは一つになれ。男は弱者の言葉を聞かない。強くなれ」


「はい、サー!」と揃って返事が返った。


 ほどなくして、シズルが声を張る。


「ハーフ終了! 後半、スターター入れて!」


 コマチ、セリカ、ソウジが入る。オマリロはリカ、ノノカ、ソウシンを指した。


「子ども、行け」


 リカとノノカは互いに睨み合ったが、すぐにオマリロへ頷き、位置につく。


「ソウシン、このラウンドは手伝って。いい?」リカが言う。


「任せて、ビッグシス・リカ!」


 ノノカは目を丸めるだけだった。


「開始!」


 合図と同時に、セリカは土、ソウジは水、コマチは小惑星――三種の攻撃を一斉に放つ。


「ジュゲン操運者:転送――第二ギア!」


 閃光のように、ソウシンがリカとノノカを掴んで射線外へ引きずり出す。間髪入れずコマチが次の小惑星を飛ばすが、ノノカは自身を強化し、蹴りで軌道を逸らした。


「はぁ……最悪」ノノカが唸る。「でもマスターが“仲良くしろ”って言うなら、仕方ない。手が縛られてる」


「何それ?」リカが眉をひそめる。


「要するに、あんたらを手伝うってこと。――“彼”が望むからね」


 ノノカの身体が淡く発光する。


「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」


〈強化付与:パーティ全員に200%〉


 リカとソウシンの体内に、どっと力が流れ込む。ノノカは腕を鳴らした。


「今フィールドで一番のDPSは私。仕事の大半は私がやる。あんたらは支援」


「う、うん……」リカが戸惑う。「で、何するの――」


「ジュゲン操運者:人間性投棄!」


 一瞬で黒灰の装甲が全身を覆い、戦闘姿勢に入る。観客席の子どもたちが息をのむ。


〈人間性:破棄。強化時間:1:30〉


(いつからあんなの……)ザリアが目を見開く。


 オマリロが短く認めた。


「女、強い」


 そして続ける。


「女の弱さは才能ではない。心だ」


(やっぱり……)ザリアは喉を鳴らす。(カイダンチョウ砂原の娘だもんな……)


 ソウジが即座に水流を叩きつける。


「波に飲まれろ、化け物!」


 ノノカは横へ滑るように回避し、そのまま押し込みでソウジを場外へ弾いた。だがセリカが石板で横薙ぎに叩き飛ばす。


「27-28!」


「ちょっと!」ノノカが怒鳴る。「援護は!?」


「あっ……!」リカが思い出す。「ソウシン、私を背負える? バフ、試したい!」


「もちろん、ビッグシス・リカ!」


 リカがソウシンの背に乗り、手を組む。


「お願い……今、必要!」


 全神経を掌へ集める。


「ジュゲン回生者:治癒の印!」


〈印章生成:反動耐性。パーティ全員のノックバック耐性上昇。チャージ:3〉


「よし!」リカが叫ぶ。「ノノカ、取って!」


 投げ渡す。ノノカが掴み、眉をしかめる。


「……何これ」


「吹き飛ばし耐性の印章! 使って、攻め続けて!」


「ふん」


 ノノカは握り潰す。


〈印章:発動〉


 直後、セリカの杭がノノカの胸元へ刺さり――ノノカは数歩下がっただけで踏ん張った。


「……ほぉ」ノノカが小さく唸る。「これは……悪くない」


 燃える速度でセリカへ突進。セリカは石板を作って足場に跳ぶ。コマチが重力で押し戻そうとするが、ノノカは耐えてコマチへ体当たりし、床へ押し倒した。


「どけ!」コマチが歯を剥く。


「出すわ。場外までな!」


 ソウジが水で援護しようとするが、強化されたソウシンが先に押し返す。


「いい動き、リトルブロ!」リカが拍手する。


 ソウジは体勢を立て直し、拳に水球を作って叩きつけた。ソウシンとリカが地面へ叩き落ちる。同時にコマチがノノカを蹴り飛ばすが、ノノカは即座に起き上がる。


「……子ども」ノノカが命令する。「あの槍女にやったの。私にもやれ」


「コマみたいに回すやつ?」ソウシンが聞く。


「そう」


「任せて、フレ――」


「……呼ぶな」


 ノノカが腕を差し出す。掴んだ瞬間、ソウシンが超高速で回転させる。ソウジの目が見開かれた。


「やべ――!」


 ソウシンが投げる。ノノカはセリカの石板ごと蹴り飛ばし、壁へ叩き込み、宙返りで着地した。


「アウト!」シズルが叫ぶ。「27-29!」


 苛立ったセリカが杭をノノカの胸へ打ち込み、強引に押し出そうとする。だがノノカはギリギリで逃れた。


(危ね……でも、あの回復女のやつ、結構使える……)ノノカは内心で舌打ちする。(マスター以外、何もできないチームかと思ったけど――)


 次の瞬間、セリカが杭でソウシンとリカを跳ね上げ、空中の二人へソウジが水弾を連射。壁へ叩きつけられる。


「29-29!」


「……前言撤回」ノノカが呻く。


 ソウジとセリカが目配せし、同時に元素を撃ち込む。水と土が絡み、泥の竜巻となって立ち上がった。


〈反応発動:泥岩〉


「……冗談でしょ」ノノカが呆れる。


 泥が鞭のように伸び、ノノカを叩き飛ばして壁へ。


「アウト!」シズルが宣言。「30-29! ミスター・ニュガワ、交代は?」


 オマリロはザリア、レイ、ハンへ頷く。三人がリングへ入った。


「落とすなよ」ノノカがぼそりと吐く。


「開始!」


 セリカが踏み込み、土の棘がザリアへ雪崩れる。


「ふん、私もできる!」ザリアが鼻で笑う。


 ザリアも踏み込み、地面を揺らして棘を止めた。レイが月光弾を連射するが、コマチが小惑星で受ける。


「相手、全員魔法士クラスだ」ハンが分析する。「耐久があって、反応も強い。こっちは不利」


「なら有利にする!」ザリアが言い切る。「あいつら近接、嫌いだろ! レイ、ハン、近距離いける?」


「腕時計で引ける」ハンが提案する。「釣り糸みたいにな」


「じゃあ私が叩き込む! 完璧!」


「私、反応攻撃もやってみる!」レイが元気よく言う。


「よし、行くぞ!」


 ソレンが薄く笑う。


「いいね。学んでる」


 ソラが腕を掴む。


「心配しなくていいの?」


「両方できるさ。これは訓練だからね」


 ハンが腕時計を形成し、コマチとソウジへ巻き付ける。引き寄せる――ザリアが跳ぶ。


「テンカイ蹴り!」


 ソウジの頭へ踵を叩き込み、反動で跳ねてコマチの顔面へも一撃。二人が倒れ、ザリアが壁へ蹴り飛ばす。


「甘い」


 セリカが石板を出して場外ラインを塞いだ。


 レイは掌に月の紋を作る。


「ジュゲン魔法士:無人の夜の三日月!」


 三日月の紋が石板を薙ぎ、石板は真っ二つ。淡い光を帯び――爆ぜた。


〈反応発動:地の月光〉


 爆風が三人をまとめて後方へ吹き飛ばす。ハンとザリアが目を丸くしてレイを見る。


「それ、教えろ!」ザリアが食いつく。


「無理!」レイが笑う。「ザリアは魔法士じゃないもん!」


「30-32!」シズルが叫ぶ。「相手側、交代!」


 ソレン、ソラ、ハクリュウが入ろうとした瞬間――ハクリュウが立ち止まった。


「待て」ハクリュウが言う。「ゲームを止めろ」


「どうした?」ソレンが警戒する。


 観衆が静まり返る。ハクリュウは場全体を見回し、眉をひそめた。


「何かがおかしい。異質な気配が混じっている」


 子どもたちが息を呑む。ハクリュウが視線を巡らせ――オマリロの組へ振り向いた。


「オマリロ、上だ!」


 その瞬間、頭上から獣のような声が落ちてくる。


「見つけた」


 ライオンの毛皮を纏った女が降下し、刃をオマリロの首へ――。


「マスター!」ザリアが叫ぶ。「上!」


 オマリロは刃の下へ潜り、侵入者を弾き、武器を外す。女は笑い、強烈なバックキック。オマリロは前腕で受け、床を滑った。


 リカが侵入者の顔を見て凍る。


「ハントレス……! 彼女だ!」


 コハクは首を鳴らし、天井から猟師たちが次々と降りてくる。武器の先は、オマリロの組へ。


 コハクは包囲を確認し、手の中の印章を見せつけた。


〈印章能力:転移。使用者を任意の場所へ転移させる。チャージ:3〉


「本物の狩人は、獲物を選ぶ」コハクが言う。「オマリロ。ここであなたを仕留めるのは無理。なら別の手段よ」


 印章を握り潰し、姿が消える。誰もが目で追うが、もういない。


「後ろ!」ソレンが叫ぶ。


 振り向いたオマリロの喉元へ――コハクの爪が迫る。


 だが、その前へ――


 ハンが飛び込んだ。


「やめろ!」


「男、ダメだ!」


 コハクはハンを掴み、印章を発動。次の瞬間、入口付近へ再出現する。ハンは腕の中だ。


「ハン!」ザリアが青ざめる。「あいつ、ハンを――!」


「止めろ!」ザリア、レイ、リカ、ソウシンが駆けるが、猟師がネットを撃ち、四人を絡め取った。


 コハクは嘲る。


「あなたたちは、私を“狩りに来る”。鹿児島ダンジョンへね。急ぎなさい。弟子を二度と見たくないなら別だけど」


 オマリロが刃を形成し、投げる。コハクは刃で受け――そして印章を握り潰す。


 猟師とハン、全員が転移で消えた。


「男……」オマリロが低く呟く。


 観衆が固まる中、オマリロはネットを外し、子どもたちを解放した。全員の顔が沈む。


「連れてかれた……」ザリアが呟く。夢みたいな声だった。


「オマリロ様……」リカが泣きそうに震える。「どうするの……?」


「男、追う」オマリロが断言する。「女、遊びたがる。遊ぶ相手、間違えた」


 そこへソレンとソラが近づく。


「そのハントレスは聞いたことがある」ソレンが言う。「カイダンチョウ相手でも危険視されるレベルだ。試練を終える前に追うのか?」


「試練、どうでもいい」オマリロが即答する。「鹿児島が重要」


 ソレンは頷いた。


「なら来い。罠へ行くなら、準備くらいは整えるべきだ」


 ソレンとソラに導かれ、通路と地下の隠し通路を抜ける。辿り着いた部屋は――武具庫のようだった。


「ここが高級金庫」ソラが説明する。「普段は他人を入れない。でも今は必要」


 ソレンが五組の黒金の装甲を指す。


「集めた何千もの印章で作った。純粋な“印章鎧”じゃないが、レベルは上がる」


 オマリロが無言で観察する。


「あなたの姿を真似て作ったの」ソラが言った。


 ザリアは女性用の一式を手に取る。


「これで……友だちを取り返せる?」


「できる」ソレンが頷く。「近づけろ。融合する」


 ザリアが鎧を胸元へ寄せると、服が切り替わり装甲に変わった。


〈鎧能力:レベル上昇↑ 装着中、使用者のレベルを+40,000。リスク:身体への摩耗増大、負傷リスク上昇〉


「……上がった?」ザリアが呆然。


「ただし、レベル一万未満の低レベル向けだ」ソレンが説明する。「ノノカ、レイ、オマリロ。悪いが使えない」


「大丈夫!」レイが笑う。「私は着たいだけ!」


「要らない」ノノカが鼻で笑う。「私には私の鎧がある」


 リカとソウシンも装着する。


「デメリットは?」リカが真剣に問う。


「重い」ソレンが言う。「不自然に底上げされた身体は、逆に脆くなる。無理をすれば骨折、最悪……四肢を失う」


 ザリア、レイ、リカが目を合わせた。


「友だちを助けるためなら、何だってする」ザリアが言い切る。


「なら――健闘を祈る」ソレンが頷いた。


――


 一方、カイタンシャ本部――


 ハヤテはポップコーンを食べながら映画を観ていた。そこへ突然、通信が割り込む。


 画面にはダンジョン階層内のコハク。背後には縛られたハン。


「……ハン?」ハヤテが眉を寄せる。「なんでハントレスと――」


 コハクは画面へ近づき、不気味に笑った。


(あの連中の言う通りだな。都合がいい)


「カイタンシャよ、聞け!」


 カメラが横へ振れ、縛られた子どもたち――怯えて震える複数のルーキーが映る。


「私は“お前たちの仲間”を押さえた。猟師たちは今この瞬間も街を漁り、貴重な新人を狩っている」


 コハクはゆっくり言い放つ。


「オマリロ・ニュガワを、十四時間以内に鹿児島ダンジョンへ連れて来い。さもなくば――ハン・ジス。私の支配下の全員。血塗れで死ぬ」


 そして一歩引き、手を振る。


「じゃあね」


 通信が切れる。ハヤテが固まっていると、マリンが部屋へ駆け込んできた。


「サー!」


「カイダンチョウだ、マリン」ハヤテは低く言う。「今すぐ呼べ。もう猶予期間じゃない――戦争だ」


——

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