――第53章・スコアボード――
ザリアとノノカが一斉にオマリロへ駆け寄り、両腕に縋りついて喚いた。
「サー! お願い、もう一回だけ! 外さないで! 私、必要なんです!」
「すみませんでした!」ノノカも頭を下げる。「私のせいです! 次は絶対ミスしません! 約束します!」
オマリロは杖を床へ軽く打つ。
「座れ」
二人は肩を落として、渋々ベンチへ座った。オマリロは杖先で三人を指す。
「子ども、入れ」
レイ、ハン、リカが頷く。
「はい、サー!」
ソレンはリングへ入る三人を眺め、ふっと笑った。リカが前へ出る。
「私、耐えられる! あと一回分、残ってる!」
「なら、外せないな」ハンが言う。「今、フィールドに主火力がいない。ミスター・ニュガワも、あの二人もいないなら――」
「私がやる!」レイがけらけら笑う。
「じゃあ、私はスタンだ」
シズルの合図と同時に、ソレンのタレットが巻物の雨を撃ち出した。レイが盾を張る――が、巻物が触れた瞬間、盾はぶつりと途切れて消えた。
「え……?」レイが目を丸くする。「私の盾……消された!?」
「そうだ」ソレンが淡々と頷く。「封印巻物。ジュゲンを乱し、封じる。捕縛に最適だ。拘束なら尚更」
ソレンがソラとセリカへ目配せ。
「今だ」
二人が“音”と“石”を重ねて放つ。
〈反応発動:地響きの唄〉
音が石に伝播して増幅され、衝撃波がハンへ向かう。リカが迷わず前に出て受けた。
「がっ……!」
身体が震え、ハンが抱え支える。
「大丈夫か?」
「だ……だいじょうぶ」
だが反動の衝撃がさらに跳ね返り、二人まとめて場外へ吹き飛んだ。
「ナイス、リカ!」レイが拍手する。「二人まとめて取れた!」
「今の何……?」リカが震え声。「なんか、力が“混ざった”みたい……」
「反応攻撃!」レイが説明する。「魔法士は、元素反応で威力が跳ね上がるの!」
「なんで私、そんなの聞いてないの!」
「私も知らない!」
「7-3!」シズルが叫ぶ。「交代!」
「すごいよビッグシス・リカ!」ソウシンが声援を飛ばす。「その調子!」
ザリアは歯を噛んだ。
(ポイント全部リカ……なんで私が落ちてる? 私の方が強いのに……リカが、背負ってる?)
次の交代で、セイヤ、ソウジ、コマチがリングへ跳び込む。
「ソウシン、冗談じゃなかったんだな!」ソウジが目を輝かせる。「本当にミスター・ニュガワに繋がったのか!」
「うん!」ソウシンが嬉しそうに頷く。
「まあいい」ソウジが舌打ちする。「現役の弟子どもを恥かかせて、俺らの方が相応しいって証明するだけだ!」
「させるか」ハンが低く返す。「俺たちが――」
「開始!」シズルが叫ぶ。
ソウジの水流がハンを叩き飛ばし、リカへぶつける。さらにソウジの水弾がリカへ――レイが月光弾で相殺した。
〈反応発動:蒼白の水光〉
水と月光が融合し、眩い爆光がリングを白く染める。視界が奪われる中、ハンは反射でキューブを展開した。
「キューブ――解決策をスキャン!」
[解決策:3件]
「一番マシなのを!」
[電撃ネット:射出]
ネットが飛ぶが、セイヤが棘付きの鉄球鎖で叩き落とす。
「遅いな、坊主」
レイが鉄球へ月光を当てる。反射した光がコマチに当たり、コマチがよろめいて場外へ。
「アウト!」シズルが指す。「7-4!」
「すごいよ、レイさん!」サリナが拍手する。
レイが手を振った瞬間、コマチが重力キックで突っ込み、レイを壁へ叩きつけた。
「8-4!」シズルが叫ぶ。
オマリロがぽつり。
「女、集中欠ける」
「ごめんなさい、オマリロ様!」レイがすぐに頭を下げる。「次はちゃんとする!」
ベンチのノノカは腕を組み、頬を膨らませた。
(戻りたい……。私は足手まといじゃない。ここで二番目に強いのは私だ。見せる。褒めさせる。父より強い人の前で、失敗できるわけ――)
レイが月光弾を二発。コマチが小惑星で受ける。
ドンッ――小惑星が爆ぜた瞬間、ハンが煙幕を投げた。
「えっ、いつ覚えたのそれ!?」リカが驚く。
「最近だ! レイ、撃て!」
煙の中へ月光が突き刺さる。晴れた時、セイヤは片足が場外に出ていた。武器を振り上げた姿勢のまま。
「アウト!」シズルが即断。「8-5!」
「……迂闊だった」セイヤが舌打ち。
ソウジが掌に渦を作る。
「ジュゲン魔法士:波の激流!」
大波のような水流が三人をまとめてリング外へ叩き出した。
「うわ、きついの来た!」シズルが言う。「11-5! 交代!」
「次、がんばってね、レイさん!」サリナが声を掛ける。
三人は肩を落として戻る。オマリロは子どもたちを順に見て、静かに決めた。
「男」――杖先がソウシンを指す。
次にザリアとノノカを見る。
「相性悪い女、ずらす。来い、女」
ザリアだ。
「っ……!」ザリアが跳ねるように立ち上がる。「ありがとうございますサー! 絶対、裏切りません!」
ノノカの顔が一瞬だけ赤くなるが、すぐに隠した。
オマリロが無造作にリングへ入る。背後にソウシンとザリア。対面の三人が、息を飲む。
「分かってるよな?」ソウジが小声で確認する。
「伝説を抑えて」コマチが冷たく言う。「ついでに“重り”から点を取る」
「そうそう」
「面倒だ」セイヤが肩を回す。「老いぼれはお前ら二人に任せる。俺は弟とザリアを潰す」
「開始!」シズルが叫ぶ。
ソウジの水弾、コマチの小惑星――同時にオマリロへ。オマリロは手を叩いた。
攻撃が“消えた”。
「は? ありえ――!」
二人が言い終える前に、オマリロは背後にいた。杖の一撃で二人を同時に場外へ弾き飛ばす。
「11-7! 交代!」
ソウジとコマチは頭を押さえてうめく。
「今の……どこから来た……」
「私たち、準備が……」
「準備はできる」ハクリュウが淡々と前へ出る。「私が入る」
「え、こいつ戦えるの?」ザリアが目を剥く。「口だけの減点マンじゃ――」
「愚かな想像だ」ハクリュウが鼻で笑う。「昔は、貴様の師のスパー相手だった」
「……は?」
オマリロが頷く。
「男、殴る。錆びてるか見よう」
ハクリュウが両手を合わせ、槍を具現化する。
「ジュゲン闘士:公正裁判の槍!」
迷いなく突く。オマリロは片手で受け、全ての連撃をいなす。押し返された隙に、ソウジとコマチが子どもへ向かう。
「行け!」ソウジが叫ぶ。「ハクリュウが足止めしてる間に、残りを落とせ!」
ソウシンが手を振る。
「やあ、みんな!」
「やあじゃねえ!」ソウジが水流を撃つ。「負けろ!」
ソウシンは体に触れて高速で退避。ザリアが前へ出て止める。
「ソウシン、お前速いんだよな?」
「うん!」
ザリアはコマチの小惑星へ槍を投げて割り、振り返る。
「私を高速で回してくれ。こいつら吹き飛ばすくらい」
「いいよ、友ザリア!」
「よし、頼む――」
ソウシンが腕を掴み、ザリアをコマのように回す。
「待っ、速い! 速いって!」
そのまま投げ飛ばし、ザリアはソウジへ突っ込んだ。二人まとめて場外へ転がる。
「ダブルアウト!」シズルが叫ぶ。「12-8! ニュガワ側、交代!」
オマリロが小さく鼻を鳴らす。
「……ふむ」
「複数アウト許したらダメだ!」リカが焦る。「毎ラウンド頭が伸びる!」
「まあな」ハンが吐き捨てる。「向こうの全員が俺らより強いんだ。ミスター・ニュガワ以外は」
オマリロは杖先で指名した。
「男。女」
ハンとノノカ。
「ふぅ……」ノノカは安堵を隠さず言う。「賭けてくれてありがとうございます、サー」
「はあ……」ハンは嫌そうに息を吐く。「最悪だ。こいつが足引っ張る」
ソウジが目を細める。
「……あれ? あいつ、残るのか?」
「集中しろ」ハクリュウが低く言う。「奴を交代させろ」
「開始!」
オマリロが杖で軽く突いた。ハクリュウが一撃で場外へ飛ぶ。
「アウト! 12-9!」
コマチが地面を踏み、重力が落ちる。ノノカとハンが床へ叩きつけられた。
「何これ!?」ノノカが歯を剥く。
「重力魔法士だ!」ハンが叫ぶ。「手首ひとつで吹き飛ばされる!」
「はっ。あんたはね!」
ノノカは首に触れる。
「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」
〈強化付与:パーティ全員に200%〉
「今さら全員?」ハンが突っ込む。
「特別扱いしない!」ノノカが言い返す。「ミスター・ニュガワがいるからやってるだけ! あんたのためじゃない!」
「いいから役立て!」
強化された速度でノノカが突進し、コマチの顔面へ拳。怯んだ瞬間、そのまま場外へ押し出す。
「アウト! 12-10! 交代!」
ソレンとソラが戻り、ハクリュウも頷いて入る。
「二人がいれば楽だ」ハクリュウが言う。
「調子に乗るな」ソレンが釘を刺す。「まだ“問題”がいる」
視線の先で、オマリロが円形の刃を形成していた。
「……何を?」ソレンが眉をひそめる。
「壁!」ソラが叫ぶ。
「ジュゲン闘士:無限眼の黄金刃!」
オマリロが刃を投げる。ソレンが壁を出す――が、刃はタレットだけを削ぎ落として戻り、オマリロの手に収まった。
子どもたちが唖然。
「……あんなの、知ってた?」ノノカが訊く。
「知らねえ!」ハンが即答。「お前と同じで、俺も学んでる最中だ!」
ハクリュウが槍を投げるが、オマリロが受け止めた。
「子ども、集中」
二人は反射で頷く。
「はい、サー!」
ハクリュウは槍を呼び戻し、回転突きを繰り出す。オマリロは躱し――すり抜けて、子どもへ滑り込んだ。
「……小エビ共!」
ハクリュウの突きがノノカを掠める。次がこめかみへ――ハンがワイヤーでノノカを引き抜いた。
「触るな!」ノノカが怒鳴る。
「助けたんだろ!」ハンもキレる。「感謝しろ!」
「助けてない!」
オマリロが杖を鳴らす。二人は即座に黙る。
ハクリュウは槍を地面へ突き刺し、光が迸って二人の視界を奪った。
「裁きの盲槍だ」ハクリュウが言う。「利己と傲慢の愚者には耐えられん」
引き抜く衝撃で、二人はよろめく。ハンはワイヤーを壁へ刺し、ノノカの腕を掴んで引っ張った。
「離せ!」
「分かった。じゃあ――」
ハンはノノカをハクリュウへ投げつけた。ハクリュウがよろめき、槍が宙を舞う。ノノカはその隙に押し込む。
「12-11!」
リカが拍手する。
「やった! いい連携!」
「連携じゃない!」二人が同時に叫ぶ。
「連携だって!」リカが指を立てる。
――
中央では、オマリロが円刃を回転させ、ソレンの封印巻物を弾き返していた。
「あなた、私にブーストを!」ソラが叫ぶ。
ソラが口を開き、音波を放つ。オマリロは耐え――刃を壁に当てて跳ね返し、刃の“鈍い側”でソレンを叩き落とした。
「12-12! 同点!」
「大丈夫?」ソラが声をかける。
「大丈夫だ!」ソレンが起き上がる。「続けろ! 奴を下げろ!」
ソラは気を逸らしたノノカとハンへ音波を連続で叩き込み、二人を壁へぶつける。
「二人アウト! 14-12!」
「頭、使え!」ザリアがベンチから叫ぶ。
ノノカは跳ね起き、ハクリュウの足を払おうとするが、あっさり躱された。
「見えてきた」ハクリュウが言う。「才能はある。だが、化学反応がない」
「嘘つけ!」ノノカが噛みつく。「私はマスターと最高の相性だ!」
「チームは一人か? それとも集合体か?」
「うるさい」ノノカが唸る。「黙らせる」
ノノカがタックルし、殴り合いになる。数合の後、ハクリュウは槍の柄でノノカを場外へ叩き出す――が、ノノカは腕を掴んで引きずり込んだ。
「ダブルアウト! ミスター・ニュガワ、交代を!」
――
その頃、島の入り口――
小さなスピードボートが接岸し、警備兵が一斉に武器を構えた。
「止まれ! 何者だ!」
コートを着た女が、背後に少数を従えて歩み寄る。
「ここがシコウキ島?」
「そうだ。招待がないなら引け!」
兵が腕を掴む――次の瞬間、女は二人の喉元を片手で持ち上げた。目が、獲物を見る肉食の光を宿す。
「いい度胸ね、子猫ちゃん」
風でフードが落ち、見覚えのある顔が露わになる。
「お、お前……!」兵が凍る。「ハントレス……!」
「賢い獲物。じゃあ答えなさい。間違えたら舌を抉る」
女はもう一人の首を、躊躇なく折った。
「オマリロ・ニュガワは――この島にいる?」
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