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――第51章・分断――

 ハン、レイ、ソウシンの三人は、恐竜が突進してくるのを見て、近くの展示室へ一気に駆け込んだ。恐竜が通り過ぎた瞬間、ハンが素早く扉を閉め、鍵をかける。


「……よし」ハンが低く呟く。「誰も音を立てるな。息も殺せ」


 三人が息を止めた、その時。


 コーヒーをすする音がした。


 全員が一斉に振り向く。展示ケースの上に腰掛け、涼しい顔でコーヒーを飲んでいる男がいた。


「サー!」三人が同時に声を漏らす。


 その直後、恐竜が展示室の壁をぶち破る勢いで突っ込んできて咆哮した。


 オマリロは手を叩く。


「ジュゲン滅者:殲滅」


 圧倒的なエネルギーの波が走り、恐竜は跡形もなく消えた。呆然とする三人の前で、オマリロはケースから降りる。


「……助けに来てくれたんですか、サー?」ハンが恐る恐る問う。


「来た。子ども、最初の試験、失敗」


 三人は気まずそうに視線を逸らした。


「ごめんなさい、サー……」レイがしゅんとする。「もう一回チャンスください」


「うん!」ソウシンも勢いよく頷く。「絶対、友のオマリロを誇らせる! 約束!」


「来い。子ども、価値、証明」


「はい、サー!」


 オマリロに続き、三人は展示室を出た。ハンは周囲を見回しながら呟く。


「……ここ、どういう目的なんですか。もうタイマーも出てません」


「時間、幻。答え、誰も待たない。女たちの運命、お前たちの運命を決める」


 ハンの顔が強張る。


「……つまり、向こうが――」


「試練、チーム用。片側の選択が、もう片側の流れを変える。お前たちの番は、すぐ来る」


「じゃあ俺たちは座って待つだけですか? リカとザリアと……あの女が、俺らを殺しませんか、サー!」


「時が言う」オマリロは淡々と言った。「焦るな。座れ」


 杖を軽く叩くと、三人は頷き、床に座った。


――


 一方――


 ザリアは涙を拭いながら立ち上がり、リカは彼女の背に手を添えた。ノノカは檻の外を眺めている。


「はいはい。高度、数万フィート。こんな所から飛び降りたら、アツシでも相当なバフがなきゃ死ぬ」


 ノノカは振り返り、二人を見下ろす。


「で? 満足? 最低な判断力と、ぬるいメンタルで」


「は?」リカが睨む。「あなたこそ、何か助けたの? 文句だけじゃん」


「ヒーラーよりは役に立ってる」


 ザリアが歯を食いしばる。


「……私の親友に口出すなよ、クソ女」


 ノノカは腰に手を当てた。


「じゃあ何? その小さな槍で私を刺す?」


 ザリアの手に黒い気配が走る。


「刺すよ」


 ノノカの体も淡く光った。


「やってみな」


 リカが慌てて割って入る。


「やめて! これは絶対、オマリロ様が望んでない!」


「あなたに何がわかるの?」ノノカが吐き捨てる。「嫌なのは、先生が一番私を気に入ってるからでしょ。強者は弱者の相手をする暇なんてないの」


「強者じゃない」ザリアが低く唸る。「ただの口悪い、甘やかされて育ったガキだ」


「そう。じゃあいい」


 二人が殺気をぶつけ合った、その瞬間。


 杖が床を叩く音がした。


 三人は凍りつく。檻の中に、オマリロが立っていた。


「サー――!」


「女たち、道を外した子どもの喧嘩。愚か」


 ザリアは勢いよく頭を下げる。


「す、すみませんサー! 私が――」


「違います、サー!」リカが必死に言う。「私たち、ふざけたかったわけじゃ――」


「私?」ノノカは胸に手を当て、涙声っぽく演技する。「サー、お願い。あの子たちの言うこと、聞かないで。私は何でもするのに、あの子たちが勝手に責任転嫁して――」


 オマリロが杖を叩く。空気が静まり返った。


「女たち、協力しろ。子どもたちの運命、女たち次第」


「ハンたち!?」リカが息を呑む。


「そう。チームの試練。チームで終える」


 ザリアは周囲を見回す。


「……で、何が課題なんですか、サー。まさかこの檻から下に――」


 オマリロが杖先を天井へ向ける。そこにUIが浮かんだ。


〈パスA:力〉

〈パスB:技巧〉


 三人の顔が赤くなる。


「……本当にごめんなさい、サー」リカが俯く。「私たち、言い合いばかりで……上のUI、見落としてました」


「答えは、よく目の前にある」オマリロは淡々と言う。「女たち、自分で自分を傷つける。ひとつになれ。さもなくば、誰も成功しない」


 三人は視線を交わし、黙って頷いた。


「サー、どっちを選べば?」ザリアが聞く。


「女たちで決めろ。私は見るだけ」


 ザリアはリカとノノカを小さく手招きして輪を作る。


「よし。オマリロ様の前だ。くだらないの終わり。……どっち?」


「知らないけど、失敗するなよ」ノノカが冷たく言う。「一瞬でもがっかりさせたら許さない」


「脅すな!」リカが噛みつく。「集中! ハンも、オマリロ様も、みんな私たちにかかってる!」


「じゃ、Bにすれば?」ノノカが肩をすくめる。「Aが罠っぽい」


「決めつけは危険」リカが首を振る。「考えよう」


「檻を調べよう」ザリアが言う。「UI見落としてたなら、他も見落としてるかも」


「やっと頭使い始めた」リカがため息をつく。


「私はバカじゃねえ!」


「行動がバカ」ノノカが小声で言う。


「なんか言った?」


「何も。行くよ」


 オマリロは檻の柵にもたれ、目を閉じた。三人は必死に檻を探り、時々、期待の目でオマリロを見上げる。


 やがて、汗だくで中央に戻った。


「……何もない」ノノカが渋い顔をする。


「私も……」リカが肩を落とす。


「あるはずだろ!」ザリアが歯を食いしばる。「ただの二択当てとか、そんな――」


「それがダンジョン」ノノカが言う。「選ばなきゃ一生ここ」


 ノノカはオマリロへ向き直る。


「サー。選んでいい?」


「選べ」


 ノノカはUIを見上げ、迷いなく言った。


「パスA」


「待って! それが違ったら――」リカが止めようとする。


「見てな」


〈パスA 選択〉


 檻の柵が弱くなった。ノノカは即座に自分へバフをかけ、柵を蹴る。鉄がへこみ、裂ける。


「ほら。壊せる」


「壊してどうすんの」ザリアが呆れる。「下は岩みたいに固い“地面”だろ。天才かよ」


「じゃあ、あんたが案を出しなよ、“二番手”」


 ザリアは檻を見回し、ふっと気づく。


「……私たち、檻の“屋根”見てない」


 二人は首を振る。


「ならそこだ。上に何かある」


 ザリアは壊れた柵から身を乗り出し、見上げた。


「ちょい高い……持ち上げてくれる?」


「うん!」リカが頷く。


「……オマリロ様が見てなきゃ手伝わない」ノノカがぼやく。


 ザリアは二人の手を踏み、同時に持ち上げられて檻の屋根へ掴まった。よじ登ると、中央に奇妙な物体がある。


「……これ、何だ?」


 それはトーテムのようなものだった。触れた瞬間、シジルへ変形する。


〈シジル能力:固定

説明:シジルが有効な間、物体を一か所に固定する。

回数:1〉


「見つけた!」ザリアが叫ぶ。「鍵だ! シジル!」


「よし!」リカが下から叫ぶ。「それ、下に持ってきて!」


 ザリアは引っ張る――動かない。


〈パスA選択中:シジルは移動不可〉


「……動かねえ」ザリアが唸る。「壊せってことか」


「え、それ安全なの?」リカが青ざめる。


「わかんない!」ザリアは雲を見下ろし、唾を飲む。「これ壊したら、檻ごと落下――」


「やるしかない」ノノカが言い切った。「ここで詰むよりマシ」


 ザリアは息を吸う。


(オマリロ様がいる。大丈夫だ)


 槍を出し、シジルを叩く。光が弱まった。


〈シジル:停止〉


 直後、檻が急降下を始める。三人の悲鳴が重なる。


「ぎゃああああ!」


 オマリロは静かに立ち上がり、落下する檻を見ていた。雲を突き抜け、眼下に広い海が見える。


「水だ!」ザリアが叫ぶ。


「この高さじゃ水でも死ぬ!」リカが叫び返す。


「……だよな!」


 檻はさらに加速し、ザリアは屋根から落ちかける。片手で必死にしがみついた。


「ザリア! もう一回叩いて!」リカが叫ぶ。


「足場がない! 速すぎて――!」


「何でもいいからやって!」


 海面が迫る。ザリアは歯を食いしばり、槍を握り直した。


「頼む……!」


 槍を思い切り投げつける。シジルが一瞬だけ強く光った。


〈シジル:起動〉


 次の瞬間、シジルが爆ぜ、檻は海面へ叩きつけられた。檻の一部が水上に浮き、三人は必死にしがみついて息をする。オマリロはすでに横へ転移していた。


「……漂流です、サー」ザリアが喘ぐ。「次は?」


「反対側が課題を終える必要」オマリロは言う。「女たち、ここで待て」


「泳いで戻れないんですか?」ノノカが言う。「私、速いけど」


 オマリロが海面を指す。無数の背びれが円を描いていた。


「女が出れば、鮫が食う。待て」


「……了解」


 オマリロは消えた。


 ノノカが水を吐きながらぼそりと言う。


「ほんと、どこでも行くね、あの人」


「当たり前」ザリアが言った。「オマリロ様は全部できる」


――


 別の場所――


 ハン、レイ、ソウシンは座って待っていた。レイはソウシンへ月の紋を見せている。


「どう? ソウシン。もっと大きくもできるよ」


「すごい! めっちゃいい!」


 ハンはため息をつく。


「……あいつら、遅い」


 その時、UIが現れた。


〈パスA:出し抜く〉

〈パスB:考え抜く〉


 ハンが立ち上がる。


「来た。二択だ」


 レイが首を傾げる。


「出し抜くと、考え抜く……似てない?」


「似てない」


 オマリロが現れ、二人の横に立つ。


「心の使い方、違う。近いが同じではない」


「じゃあどっちです?」ハンが問う。「手がかりが少なすぎる」


「男、頭を使え」


「……わかった」


 ハンはレイとソウシンを見る。二人はにこっと笑った。


「ハンとオマリロ様が選ぶなら、私は何でもいいよ!」レイが言う。


「ぼくも!」ソウシンが頷く。


「……役に立たねえ」ハンは小さく呟き、UIを見上げた。「Bで。俺は“考え抜く”方が得意だ」


〈パスB 選択〉


 地面が震え、巨大なスフィンクスが現れた。輝く瞳がハンを射抜く。


「賢い選択だ、少年。パスAなら私を“出し抜く”決闘だった。お前はまだ早い」


「……で、こっちは?」


「三つの謎を解け」


「謎?」


「そうだ。各問題、制限三分。チャンスは二回。ひとつでも失敗すれば――全員ミイラだ」


 スフィンクスの視線がオマリロに滑る。


「まあ、お前はもう半分ミイラみたいなものだが。話は別だ。少年、準備はいいか?」


 ハンは頷いた。


「謎解きは得意だ」


「よろしい。なら問おう」


 UIが浮かぶ。


〈私は“自分を破る法則”。

真実だけを語り、次の言葉は嘘になる。

信じても間違い。疑っても間違い。

私は何だ〉


 ハンは少し考えて答える。


「パラドックス」


「正解。ひとつ目、突破」


 レイがぱちぱちと手を叩く。


「すごい、ハン!」


「次だ」スフィンクスが言う。


〈一語で答えよ。

正しく答えれば、お前は罰を受ける。

間違えれば、お前は報われる。

何と言う?〉


 ハンはUIを見つめ、眉間に皺を寄せる。


(質問が……ない?)


 言葉の仕掛けに気づき、息を吐く。


「……不正解」


 スフィンクスが満足げに頷く。


「正解。二つ目、突破。では最後だ」


 スフィンクスがさらに大きくなり、ハンの心臓が冷えた。新しいUIが現れる。


〈お前は一文しか話せない。

その文が“真”なら、お前を石にする。

その文が“偽”なら、お前の心を引き裂く。

生きて出るための一文を言え〉


「……は?」ハンの声が漏れる。


 スフィンクスが顔を近づけ、低く囁く。


「時は刻む、小さき者。さあ……どうする?」


 ハンの足元が石化し始めていた。


(真実か、嘘か――)


 ハンは喉を鳴らし、唇を開く。


——

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