表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/117

――第49章・ロードアウト――

シコーキ島――


 ソレン、ソラ、そして子どもたちは大きな食卓の奥に座り、夜が落ちていくのを待っていた。


「子どもたちはどこだ?」ソレンが首を傾げる。「あの老人、わざと遅らせてるんじゃないだろうな」


「オマリロ?」ソラが聞き返す。


「ああ。あいつのことだ。気まぐれに出たり入ったり、世界の都合なんて気にしない」


 ソラは小さく笑う。


「懐かしいわね」


 その時、幕が揺れ、オマリロが入ってきた。後ろにリカたちが続く。


「噂話」オマリロが言う。


「ち、違うわ!」ソラが慌てる。「ただあなたの独特な……その、こだわりを話してただけで!」


「そうだ」ソレンも頷く。「我々は興味深いと感じているだけだ」


 オマリロが座り、ソレンが子どもたちへ手を促す。


「さあ座りなさい、子どもたち」


 リカとソウシンがオマリロの両隣へ座り、レイがリカの隣に座る。ノノカは腕を組み、睨んだ。


「そこ、私の席」


 リカが手を振って追い払う。


「レイの隣に座れば?」


「……キモ」


 レイが困った顔で首を傾ける。


「ん? 顔に虫でもついてる?」


「あなたが虫」


 ソラが夫に小声で囁く。


「……あの不機嫌な子、誰?」


「オマリロの新しい生徒だ。砂原カイダンチョウの娘」ソレンも小声で返す。「似ているだろう、色々と」


「ええ。態度がね」


 ノノカは目を回し、オマリロの正面の席に座ると、無遠慮にテーブルへ足を乗せた。


「で? 早くしてくんない?」


「失礼よ、あなた」ソラが眉を吊り上げる。


 ソレンは肩に手を置き、くつくつ笑った。


「面白いじゃないか、ソラ。どう謙虚になるか、訓練で見てみよう」


 ソレンは幕の方を見る。


「残りの二人は?」


 リカは腕を組んだ。


「たぶんバカなことしてる。ほんと、早く大人になってほしい」


 セイヤが欠伸をする。


「さっきから、あの二人……妙な気配だな。情熱と自滅が混ざってる。見たことねぇ」


「だよね」リカがうんざりする。


「噂をすればだ」


 ザリアとハンが汗だくで幕を押し開けた。オマリロを見た瞬間、二人は背筋を正し、頭を下げる。


「サー!」


「子ども、顔が不安」オマリロが指摘する。「子ども、何か隠す」


 二人の顔が赤くなった。


「サー」ザリアが口を開く。「夕食の後で……少しだけ聞きたいことが――」


「俺も」ハンも短く言う。


「座れ。質問、時間で答える」


 二人は頷いて席についたが、ザリアはノノカを見て固まった。


「は? ……なんでお前がここに?」


「それ、私も言った」リカがぼそっと呟く。


「リカ、嫌がらせで呼んだの?」ザリアが目を細める。「レースの件、そんな怒ってんのかよ!」


「は!? 私が呼ぶわけないでしょ!」


 ノノカが指を唇に当てた。


「静かにして? うるさい」


「誰に向かって――!」


 ハンが目を細める。


「最悪だな。女がまた増えた。今度は自己中で無礼で傲慢な――」


「口の利き方気をつけな、メガネ。舌引っこ抜くぞ」


 ハンがキューブを形作る。


「やってみろ、魔女」


 ソウシンがきらきらした目で見上げた。


「オマリロ、友だちってこうやって仲良くするの?」


「違う」


 オマリロは杖を地面に打ちつけた。


「子どもたち、座れ」


 全員がぴたりと止まり、ハンとザリアも席に戻る。ノノカも足を下ろし、リカはオマリロを見て小さく頷いた。


「……はい、サー」


 ソレンが咳払いする。


「助かったよ、相棒。さて、厨房係! 料理を!」


 使用人たちが次々に湯気の立つ料理を運んできた。鶏料理、寿司、エビ、ステーキ――そして飲み物も並べられる。


 ソレンは泡立つ液体の入ったグラスをオマリロへ差し出す。


「友よ、乾杯をどうだ?」


 オマリロはそのグラスをテーブルから叩き落とした。壁に当たって砕ける。


「乾杯、無意味」


「そうか。ならやめよう」


 ソレンは自分のグラスを一口飲む。


「いずれにせよ、明日が次の訓練だ。心、身体、魂――すべてを鍛える。君の師匠が昔受けたのと同じように」


「ねえ、聞かせて!」レイが身を乗り出す。「その話、聞きたい!」


「私も!」リカも続く。


「私も!」ザリアも勢いよく手を挙げる。


 ソレンが笑う。


「なら、よく聞くことだ。役に立つかもしれない」


 ――それは、ずっと昔の話だ。


――


 若い頃のソレンとソラは島で花の世話をしていた。ソラは緊張しながら一輪を差し出す。


「そ、ソレン……これ、好き?」


 ソレンは目を細め、花を受け取る。


「父上に“求婚しろ”と言われているのは分かってるが、そこまで縮こまらなくていい」


「うん……ごめん」


 ソレンは水をやり終え、肩を落とす。


「しかし父上は島を押し付けて去った。腹立たしい」


「このあと……ご飯、行く?」


「いいな。行こう」


 その時、遠くに金色の光が飛んでいるのが見えた。


「ソレン? あれは何?」


「分からない! 衛兵に――ソラ、ここに――」


 言い終わる前に、その光は島へ到達した。巨大な黄金の龍が降り立ち、ソレンの前に舞い降りる。


「……龍?」


 龍は姿を変え、長いドレッドヘアの若い黒人の男になった。背は高く、鍛えられ、黄金の鎧が全身に生成される。


「まさか……」


 ソラが駆け寄り、その男を見て息を呑む。


「ソレン……あれって……」


「……伝説のカイタンシャ。オマリロ・ニュガワだ!」


 オマリロは黄金の翼を広げ、二人へ問う。


「シコーキの長、どっち」


 ソレンは慌てて手を挙げた。


「ぼ、僕だ! ただし跡取りで、父が――」


「お前でいい。ロードアウト欲しい」


「ロードアウト?」ソレンが目を見開く。「あなたほど強い人が、まだ力を?」


 オマリロは拳を握る。


「力、限界ない。強さは他者のため。弱者の声、誰も聞かない」


「しかしロードアウトは闘士か変性者の……」


「全部、持つ」


「……全部?」


「七、全部」


「あり得ない――!」


 ソラがソレンに囁く。


「でもソレン、彼のレベル、何十万でもおかしくない。ひとつのクラスだけで到達できると思う?」


「……いや、だが――」


 ソレンは気を取り直した。


「分かった。案内する、ニュガワさん。島で最も強度の高い訓練施設――第三の柱へ」


「良い」


――


 島の中心にある屋敷へ案内し、ソレンは説明する。


「ここがシコーキ一族の屋敷だ。何か軽食でも――」


「不要」


「……そうか。第三の柱はこちらだ」


 白い部屋に入ると、上品な女性が瞑想していた。三人が入った瞬間、彼女は目を開ける。


「兄上。なぜ私を――」


「客だ」ソレンが言う。「伝説本人」


 彼女はオマリロを見て目を輝かせ、勢いよく手を取った。


「まあ! ご挨拶を! 私はセシナ。シコーキ史上最強の者として、あなたの望みを叶えましょう。何をご所望です?」


「ロードアウト」


「まあ……それは簡単ではありませんわ」セシナは即座にソレンへ振り返る。「兄上、レベルを。正確に」


 ソレンは手を掲げた。


「ジュゲン後備者:標的操作」


 オマリロの頭上にUIが浮かぶ。


〈オマリロ・ニュガワ レベル:250,000〉


 二人は息を呑む。だがオマリロは待つだけだった。


「……信じられない」セシナが呟く。「そんな領域、カイダンチョウですら――」


 彼女は気を引き締める。


「なら、ロードアウトの習得は早いでしょう。説明します」


 セシナは指を立てる。


「ロードアウトは“現在の技能体系の上位互換”。発動中はレベルと能力が大幅に伸びる代わりに、消耗と集中が跳ね上がる。そして発動中は“元の技能”は使えません。切り替えが必要。……ジュゲンを最大効率で組み直す、そういうものです」


「どのクラスが基盤?」セシナが問う。


「変性者」オマリロが答える。


「でしょうね」セシナが微笑む。


「見た」ソレンも頷く。「龍に変身した」


「素敵!」セシナは手を叩く。「ならそれを核にします。私と瞑想を」


――


 場面は静かな山頂へと変わった。二人は向かい合って座る。


「集中しなさい。あなたの内部の力を引き出すのは私が補助できる。だが“形”にするのはあなた自身よ」


「なら、やる」


 セシナの手から白いエネルギーが流れる。


「ジュゲン魔法士:魂の拡大」


 霞のような力がオマリロへ入り込み、彼の意識はダンジョン階層――レイドボスとの戦場へ飛んだ。


「……何をした」


「私はソウル系。あなたの内側を“前に出した”。あとは戦い方を選びなさい。変性者の技を使って」


 オマリロは息を整え、空気を掴む。


「ジュゲン変性者:黄金竜の起脚」


 黄金の気が爆発し、空間が軋んだ。ソレンとソラは思わず後退する。


「次は」


「敵が出る」セシナが告げる。「ロードアウトを得るには、普段の動きを“避けつつ”“取り込む”必要がある」


「説明」


「戦い方を基盤にする。でも、同じじゃない。似ていて、違う。そこが鍵」


「理解」


 山肌が盛り上がり、巨大なトロルが棍棒を持って現れる。


〈敵:シコーキトロル レベル:56,000〉


「さあ、見せて!」


 トロルが突進する。オマリロは目を閉じた。


「天翼の黄金龍――」


 棍棒が振り下ろされる。オマリロが腕を払って受け流そうとした瞬間、黄金の斬撃が手元から走り、トロルの腕を切り落とした。


〈ロードアウト技能1:黄金竜斬〉


「素晴らしい!」セシナが声を弾ませる。「あと二つ!」


 トロルがもう片腕で掴みに来る。オマリロは淡々と斬り刻む。別のトロルが拳で握り潰そうとした。


「……ふむ」


 オマリロの体内から膨大なエネルギーが噴き上がる。


「去れ」


 腕から黄金の盾が生成され、圧でトロルを弾き飛ばした。


〈ロードアウト技能2:黄金竜の盾〉


 ソラは呆然と見つめた。


(人間……なの? 近くにいるだけで、現実感が薄れる)


 オマリロは盾と斬撃でトロルを紙のように切り裂いていく。セシナがソレンへ合図した。


「兄上、レベルを!」


 ソレンが標的操作を使うと、新たなUIが浮かぶ。


〈オマリロ・ニュガワ レベル:300,000〉


「上がってる……!」ソラが息を呑む。


「当然よ」セシナは落ち着いて言う。「ロードアウトは上位構成。装備に近い形で“段階”が上がる。だが、その代償もある」


 最後の一体――他より大きなトロルが現れた。


〈ドメインボス:トロルの狂戦士――スカルクラッシャー レベル:69,800〉


 狂戦士が跳び、棍棒を叩きつけ、山頂が揺れる。


「姉上、これは……!」ソレンが焦る。


「大丈夫。彼なら」セシナは微笑んだ。「見ていなさい」


 オマリロが前腕で受け止め、反発で弾く。


「敵、強い。技、もっと強い必要」


 内部でさらに何かが膨れ上がる。セシナの声が耳元で囁いた。


「全部解放しなさい。抑え込まないで!」


 次の瞬間、爆発的な光が迸り、観客の三人は壁へ叩きつけられた。オマリロの前に巨大な“何か”が具現化し、一撃で部屋――いや、空間ごとトロルを消し飛ばした。


〈ロードアウト技能3:黄金竜の怪獣〉


 セシナは言葉を失った。


「……こんな……力……!」


 黄金の光が揺らぎ、空間が不安定になる。


――


 現在――


「えっ、最後の技は!?」レイが身を乗り出す。「そこで止めるの!?」


「それは君の師匠が話すといい」ソレンが笑う。「あの力は桁違いだ。彼は“破片”を封じるしかなかった」


「うわぁ……」子どもたちが息を呑む。


 ザリアは床を見つめたまま、拳を握る。


(ロードアウトって……そうやって正面から得るものなんだ)


(私、間違えた……シオンの取引なんて受けずに、オマリロ様に頼めばよかった)


 ザリアは自分の手を見た。


(何をした……シオン。私に何を――)


―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ