表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/79

――第49章・ロードアウト――

シコーキ島――


 ソレン、ソラ、そして子どもたちは大きな食卓の奥に座り、夜が落ちていくのを待っていた。


「子どもたちはどこだ?」ソレンが首を傾げる。「あの老人、わざと遅らせてるんじゃないだろうな」


「オマリロ?」ソラが聞き返す。


「ああ。あいつのことだ。気まぐれに出たり入ったり、世界の都合なんて気にしない」


 ソラは小さく笑う。


「懐かしいわね」


 その時、幕が揺れ、オマリロが入ってきた。後ろにリカたちが続く。


「噂話」オマリロが言う。


「ち、違うわ!」ソラが慌てる。「ただあなたの独特な……その、こだわりを話してただけで!」


「そうだ」ソレンも頷く。「我々は興味深いと感じているだけだ」


 オマリロが座り、ソレンが子どもたちへ手を促す。


「さあ座りなさい、子どもたち」


 リカとソウシンがオマリロの両隣へ座り、レイがリカの隣に座る。ノノカは腕を組み、睨んだ。


「そこ、私の席」


 リカが手を振って追い払う。


「レイの隣に座れば?」


「……キモ」


 レイが困った顔で首を傾ける。


「ん? 顔に虫でもついてる?」


「あなたが虫」


 ソラが夫に小声で囁く。


「……あの不機嫌な子、誰?」


「オマリロの新しい生徒だ。砂原カイダンチョウの娘」ソレンも小声で返す。「似ているだろう、色々と」


「ええ。態度がね」


 ノノカは目を回し、オマリロの正面の席に座ると、無遠慮にテーブルへ足を乗せた。


「で? 早くしてくんない?」


「失礼よ、あなた」ソラが眉を吊り上げる。


 ソレンは肩に手を置き、くつくつ笑った。


「面白いじゃないか、ソラ。どう謙虚になるか、訓練で見てみよう」


 ソレンは幕の方を見る。


「残りの二人は?」


 リカは腕を組んだ。


「たぶんバカなことしてる。ほんと、早く大人になってほしい」


 セイヤが欠伸をする。


「さっきから、あの二人……妙な気配だな。情熱と自滅が混ざってる。見たことねぇ」


「だよね」リカがうんざりする。


「噂をすればだ」


 ザリアとハンが汗だくで幕を押し開けた。オマリロを見た瞬間、二人は背筋を正し、頭を下げる。


「サー!」


「子ども、顔が不安」オマリロが指摘する。「子ども、何か隠す」


 二人の顔が赤くなった。


「サー」ザリアが口を開く。「夕食の後で……少しだけ聞きたいことが――」


「俺も」ハンも短く言う。


「座れ。質問、時間で答える」


 二人は頷いて席についたが、ザリアはノノカを見て固まった。


「は? ……なんでお前がここに?」


「それ、私も言った」リカがぼそっと呟く。


「リカ、嫌がらせで呼んだの?」ザリアが目を細める。「レースの件、そんな怒ってんのかよ!」


「は!? 私が呼ぶわけないでしょ!」


 ノノカが指を唇に当てた。


「静かにして? うるさい」


「誰に向かって――!」


 ハンが目を細める。


「最悪だな。女がまた増えた。今度は自己中で無礼で傲慢な――」


「口の利き方気をつけな、メガネ。舌引っこ抜くぞ」


 ハンがキューブを形作る。


「やってみろ、魔女」


 ソウシンがきらきらした目で見上げた。


「オマリロ、友だちってこうやって仲良くするの?」


「違う」


 オマリロは杖を地面に打ちつけた。


「子どもたち、座れ」


 全員がぴたりと止まり、ハンとザリアも席に戻る。ノノカも足を下ろし、リカはオマリロを見て小さく頷いた。


「……はい、サー」


 ソレンが咳払いする。


「助かったよ、相棒。さて、厨房係! 料理を!」


 使用人たちが次々に湯気の立つ料理を運んできた。鶏料理、寿司、エビ、ステーキ――そして飲み物も並べられる。


 ソレンは泡立つ液体の入ったグラスをオマリロへ差し出す。


「友よ、乾杯をどうだ?」


 オマリロはそのグラスをテーブルから叩き落とした。壁に当たって砕ける。


「乾杯、無意味」


「そうか。ならやめよう」


 ソレンは自分のグラスを一口飲む。


「いずれにせよ、明日が次の訓練だ。心、身体、魂――すべてを鍛える。君の師匠が昔受けたのと同じように」


「ねえ、聞かせて!」レイが身を乗り出す。「その話、聞きたい!」


「私も!」リカも続く。


「私も!」ザリアも勢いよく手を挙げる。


 ソレンが笑う。


「なら、よく聞くことだ。役に立つかもしれない」


 ――それは、ずっと昔の話だ。


――


 若い頃のソレンとソラは島で花の世話をしていた。ソラは緊張しながら一輪を差し出す。


「そ、ソレン……これ、好き?」


 ソレンは目を細め、花を受け取る。


「父上に“求婚しろ”と言われているのは分かってるが、そこまで縮こまらなくていい」


「うん……ごめん」


 ソレンは水をやり終え、肩を落とす。


「しかし父上は島を押し付けて去った。腹立たしい」


「このあと……ご飯、行く?」


「いいな。行こう」


 その時、遠くに金色の光が飛んでいるのが見えた。


「ソレン? あれは何?」


「分からない! 衛兵に――ソラ、ここに――」


 言い終わる前に、その光は島へ到達した。巨大な黄金の龍が降り立ち、ソレンの前に舞い降りる。


「……龍?」


 龍は姿を変え、長いドレッドヘアの若い黒人の男になった。背は高く、鍛えられ、黄金の鎧が全身に生成される。


「まさか……」


 ソラが駆け寄り、その男を見て息を呑む。


「ソレン……あれって……」


「……伝説のカイタンシャ。オマリロ・ニュガワだ!」


 オマリロは黄金の翼を広げ、二人へ問う。


「シコーキの長、どっち」


 ソレンは慌てて手を挙げた。


「ぼ、僕だ! ただし跡取りで、父が――」


「お前でいい。ロードアウト欲しい」


「ロードアウト?」ソレンが目を見開く。「あなたほど強い人が、まだ力を?」


 オマリロは拳を握る。


「力、限界ない。強さは他者のため。弱者の声、誰も聞かない」


「しかしロードアウトは闘士か変性者の……」


「全部、持つ」


「……全部?」


「七、全部」


「あり得ない――!」


 ソラがソレンに囁く。


「でもソレン、彼のレベル、何十万でもおかしくない。ひとつのクラスだけで到達できると思う?」


「……いや、だが――」


 ソレンは気を取り直した。


「分かった。案内する、ニュガワさん。島で最も強度の高い訓練施設――第三の柱へ」


「良い」


――


 島の中心にある屋敷へ案内し、ソレンは説明する。


「ここがシコーキ一族の屋敷だ。何か軽食でも――」


「不要」


「……そうか。第三の柱はこちらだ」


 白い部屋に入ると、上品な女性が瞑想していた。三人が入った瞬間、彼女は目を開ける。


「兄上。なぜ私を――」


「客だ」ソレンが言う。「伝説本人」


 彼女はオマリロを見て目を輝かせ、勢いよく手を取った。


「まあ! ご挨拶を! 私はセシナ。シコーキ史上最強の者として、あなたの望みを叶えましょう。何をご所望です?」


「ロードアウト」


「まあ……それは簡単ではありませんわ」セシナは即座にソレンへ振り返る。「兄上、レベルを。正確に」


 ソレンは手を掲げた。


「ジュゲン後備者:標的操作」


 オマリロの頭上にUIが浮かぶ。


〈オマリロ・ニュガワ レベル:250,000〉


 二人は息を呑む。だがオマリロは待つだけだった。


「……信じられない」セシナが呟く。「そんな領域、カイダンチョウですら――」


 彼女は気を引き締める。


「なら、ロードアウトの習得は早いでしょう。説明します」


 セシナは指を立てる。


「ロードアウトは“現在の技能体系の上位互換”。発動中はレベルと能力が大幅に伸びる代わりに、消耗と集中が跳ね上がる。そして発動中は“元の技能”は使えません。切り替えが必要。……ジュゲンを最大効率で組み直す、そういうものです」


「どのクラスが基盤?」セシナが問う。


「変性者」オマリロが答える。


「でしょうね」セシナが微笑む。


「見た」ソレンも頷く。「龍に変身した」


「素敵!」セシナは手を叩く。「ならそれを核にします。私と瞑想を」


――


 場面は静かな山頂へと変わった。二人は向かい合って座る。


「集中しなさい。あなたの内部の力を引き出すのは私が補助できる。だが“形”にするのはあなた自身よ」


「なら、やる」


 セシナの手から白いエネルギーが流れる。


「ジュゲン魔法士:魂の拡大」


 霞のような力がオマリロへ入り込み、彼の意識はダンジョン階層――レイドボスとの戦場へ飛んだ。


「……何をした」


「私はソウル系。あなたの内側を“前に出した”。あとは戦い方を選びなさい。変性者の技を使って」


 オマリロは息を整え、空気を掴む。


「ジュゲン変性者:黄金竜の起脚」


 黄金の気が爆発し、空間が軋んだ。ソレンとソラは思わず後退する。


「次は」


「敵が出る」セシナが告げる。「ロードアウトを得るには、普段の動きを“避けつつ”“取り込む”必要がある」


「説明」


「戦い方を基盤にする。でも、同じじゃない。似ていて、違う。そこが鍵」


「理解」


 山肌が盛り上がり、巨大なトロルが棍棒を持って現れる。


〈敵:シコーキトロル レベル:56,000〉


「さあ、見せて!」


 トロルが突進する。オマリロは目を閉じた。


「天翼の黄金龍――」


 棍棒が振り下ろされる。オマリロが腕を払って受け流そうとした瞬間、黄金の斬撃が手元から走り、トロルの腕を切り落とした。


〈ロードアウト技能1:黄金竜斬〉


「素晴らしい!」セシナが声を弾ませる。「あと二つ!」


 トロルがもう片腕で掴みに来る。オマリロは淡々と斬り刻む。別のトロルが拳で握り潰そうとした。


「……ふむ」


 オマリロの体内から膨大なエネルギーが噴き上がる。


「去れ」


 腕から黄金の盾が生成され、圧でトロルを弾き飛ばした。


〈ロードアウト技能2:黄金竜の盾〉


 ソラは呆然と見つめた。


(人間……なの? 近くにいるだけで、現実感が薄れる)


 オマリロは盾と斬撃でトロルを紙のように切り裂いていく。セシナがソレンへ合図した。


「兄上、レベルを!」


 ソレンが標的操作を使うと、新たなUIが浮かぶ。


〈オマリロ・ニュガワ レベル:300,000〉


「上がってる……!」ソラが息を呑む。


「当然よ」セシナは落ち着いて言う。「ロードアウトは上位構成。装備に近い形で“段階”が上がる。だが、その代償もある」


 最後の一体――他より大きなトロルが現れた。


〈ドメインボス:トロルの狂戦士――スカルクラッシャー レベル:69,800〉


 狂戦士が跳び、棍棒を叩きつけ、山頂が揺れる。


「姉上、これは……!」ソレンが焦る。


「大丈夫。彼なら」セシナは微笑んだ。「見ていなさい」


 オマリロが前腕で受け止め、反発で弾く。


「敵、強い。技、もっと強い必要」


 内部でさらに何かが膨れ上がる。セシナの声が耳元で囁いた。


「全部解放しなさい。抑え込まないで!」


 次の瞬間、爆発的な光が迸り、観客の三人は壁へ叩きつけられた。オマリロの前に巨大な“何か”が具現化し、一撃で部屋――いや、空間ごとトロルを消し飛ばした。


〈ロードアウト技能3:黄金竜の怪獣〉


 セシナは言葉を失った。


「……こんな……力……!」


 黄金の光が揺らぎ、空間が不安定になる。


――


 現在――


「えっ、最後の技は!?」レイが身を乗り出す。「そこで止めるの!?」


「それは君の師匠が話すといい」ソレンが笑う。「あの力は桁違いだ。彼は“破片”を封じるしかなかった」


「うわぁ……」子どもたちが息を呑む。


 ザリアは床を見つめたまま、拳を握る。


(ロードアウトって……そうやって正面から得るものなんだ)


(私、間違えた……シオンの取引なんて受けずに、オマリロ様に頼めばよかった)


 ザリアは自分の手を見た。


(何をした……シオン。私に何を――)


―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ