――第47章・一位――
シコーキ島――
ソウシンは操縦を続け、船は他のレーサー数隻に追いついていた。ザリアとハンがブリッジへ戻ってくる。
「ふぅ!」ザリアが汗を拭う。「どう? 今どんな感じ?」
「良くなってる!」リカが拳を握る。「二人ともナイス!」
さらに何隻もの船が横をすり抜け、ぶつかりながら通過していく。ソウシンは前方の船にソウジとコマチの姿を見つけた。コマチが冷たい目でこちらを見ている。
「あっ、喜んでる!」ソウシンが満面の笑みで手を振る。「コマチ、やっほー!」
コマチが足を踏み鳴らすと、こちらの船がほぼ横転しかけた。
「ソウシン、お願い! 敵にフレンドリーになるのやめて!」ザリアが悲鳴を上げる。「あのサイコ女、全然嬉しくない!」
「もちろん嬉しいよ!」
背後でハクリュウが淡々とメモを取る。
「連携が崩れている。直せ。でないと減点だ」
「やだやだやだ!」リカが慌てて両手を合わせる。「ちゃんとやる! お願い、減点しないで!」
リカがザリアの肩を揺さぶる。
「ザリア、どうするの!?」
「もう一回、あの技いけるかも!」ザリアが言った。「ハン、やる?」
その瞬間、コマチが空を横蹴りしただけで衝撃が飛び、船体が傾いた。
「無理だな」ハンが冷静に言う。「あの重力小僧が許さない。別案」
ハンは少し考え、腕の装置を呼び出した。
「近づければ――スタンで隙を作れる」
「私できる!」レイが手を上げる。
「最高!」ザリアが頷く。「じゃあ私が船をブーストして――」
船が大きく揺れた。
「ねえ!」リカが割り込む。「急いだ方がいいと思う!」
隕石が真正面から飛んできて、ソウシンが急旋回で避ける。
ザリア、ハン、レイは甲板へ駆け上がった。次の隕石が来た瞬間、ザリアが槍で真っ二つに叩き割る。
「ドッコウ団思い出すわ……」ザリアが顔をしかめる。「同じ“嫌なノリ”」
「思い出させるな」ハンが短く返す。
レイは両手を上げ、月光を踊らせた。
「任せて! 時間稼ぐね!」
「頼んだ!」
レイが月光弾を二発、兄妹の船の後部へ叩き込む。穴が空いて速度が落ち、ソウジが外へ飛び出した。
「くそ、エンジン吹っ飛んだ!」
「減速してる」コマチが告げる。「このままだとソウシンの組に抜かれる」
「じゃあ、こうする」ソウジが歯を見せる。「力技で走らせる」
「了解」
二人が左右に散り、ソウジが水流を噴射して船を押し、同時にコマチが腕を上げると、船が波を“跳ねる”ように進み始めた。
「はぁ!?」ザリアが目を剥く。「水面をジャンプしてんだけど!」
「なら、こっちも跳ぶ」ハンが吐き捨てる。「運転と攻撃の同時は無理だ。馬鹿ども」
船尾へ回り、ハンがワイヤーを船体に固定する。ザリアはそれを掴んだ。
「よし、第二ラウンド!」ザリアがニヤッとする。「これ、頑丈だよね?」
「当然」
ザリアが跳び、ワイヤーで前へ振られる。勢いが乗った瞬間、船尾へ蹴りを叩き込む。
――ドンッ!
船が爆発的に前へ飛び、他の船をまとめて抜き去った。落ちかけたザリアをハンが掴み、甲板へ引き戻す。
「ふぅ、助かった! 足、滑るとこだった」
「……はいはい」
前方にはゴールの発光旗。
「あと少し! このまま維持――」
その時、頭上に虚無みたいな穴が開いた。
「やば――」
――ドスンッ!
虚無からソウジとコマチの船が落下し、こちらの進路を弾き飛ばした。
「ナイス、姉貴!」ソウジが笑う。「あいつら見えてすらなかった!」
ブリッジでソウシンが必死に姿勢を立て直す。船がくるくる回転する。
「私を酔わせた。−2点」ハクリュウが言う。「70/100。これ以上落としたら失格だ」
「今それ!?」ザリアが叫ぶ。
ソウシンがなんとか立て直した瞬間、リカが前方を見て叫んだ。
「向こうが先に入る! みんな、みんな!」
ハンが片膝をつく。
「勝たせない」
ワイヤーを相手船へ撃ち込む。
「ザリア。脚で引け」
「どうやって!?」
「引け、全力で!」
ザリアが駆け寄り、ロープを脚に巻き付けて引き倒す。ソウジとコマチの船が急停止する。
「何だ!?」ソウジが振り向く。「あの女――!」
ソウジが水流を撃つが、レイが月光の盾で受け止めた。
「いける! 続けて!」
リカが上へ向かって叫ぶ。
「無理しないで! 船が壊れる! 二位でも――」
「ダメ!」ハンとザリアが同時に怒鳴る。
レイが月光弾を撃つが、コマチは隕石で弾く。
「ねえ、どうするの!?」
「もっと引け!」ハンが命令する。
「引いてる!」ザリアが歯を食いしばる。
リカはソウシンへ振り返る。
「ソウシン、線を外して! このままじゃ勝てない!」
「外せないよ!」ソウシンが困る。「相手が手放すしかない!」
「お願い、手放して! 私たち沈――」
ソウジとコマチが同時に力を使った。ソウジがワイヤーを断ち切り、同時にコマチが隕石を投げ込む。
――ドゴン!
船が沈んだ。
「……勝利だ」コマチが淡々と言う。
二人はそのままゴールへ。ほかの船も次々と通過し、ホーンと歓声が響く。
ソウシンが力で船を水面へ持ち上げる。UIが浮かんだ。
〈レース終了:順位 11/11〉
「わあ! でも、がんばった!」ソウシンが笑う。
リカは髪の水を絞りながら、勝者の兄妹を見た。
「聞かない……あの二人、いつも聞かない!」
「リカお姉ちゃん、大丈夫?」ソウシンが不安そうに覗き込む。
「大丈夫」リカは低く答えた。「……港に戻して」
ソウシンが船を港へ戻すと、上位三人へメダルが渡された。ソウジとコマチが一位のメダルを掴み、ソウシンは拍手した。
「すごい! おめでとう!」
ソウジがソウシンの頭をわしゃわしゃ撫でる。
「久しぶり、坊主。昔みたいにボコったけどな」
コマチが視線を細める。
「あなたの新しい仲間は欠陥が多い。負けた原因」
「別にいいよ」ソウシンが肩をすくめる。「僕、気にしてない!」
「……でも、彼女はそうじゃない」
コマチが指差す。リカが腕を組み、ザリアが必死に話しかけている。
「リカ、頼むって! 勝ちたかっただけ――!」
「勝てない時もあるの!」リカが爆発した。「今、シジルもない! 千もない! ハンとザリア、何考えてたの!?」
ハンが冷たく言う。
「オマリロ様は二位を望まない。最高になれないなら価値はない。価値を示すには“あの人”みたいにならないと」
「私たちはオマリロ様じゃない!」リカが叫ぶ。「最初から違うし、これからも違う! それに――聞き合えないなら、隊として終わり! 特にあんたら二人! 思い込みで突っ走る知ったかぶり! リーダーはあんたらじゃない! あの人なの!」
リカは背を向けて歩き去る。レイが手を振った。
「リカ、落ち着いたら戻ってきてね!」
「女ってやつは」ハンが吐き捨てる。「いつもの気分屋だ。すぐ冷める」
ソウジが失笑した。
「ハ。どんなチームだよ」
「オマリロのお友達のチーム!」ソウシンが胸を張る。「僕も入りたい!」
「オマリロ・ニュガワ?」ソウジが眉を上げる。「……あの伝説の? お前ら、誰一人近くもねえよ」
ソウシンを観察してから、レイも見る。
「まあ、お前は伸びしろある。月の子もな。でも残り三人は……無理だろ」
ソウジとコマチは背を向けた。
「じゃあな、坊主」
二人が去ると、レイはソウシンの肩に手を置いた。
「ソウシン、これからどこ行く?」
「まだ時間あるよ! 友達は好きにしていい!」
「私は訓練する」ザリアが言う。
「俺も」ハンが続く。「……誰とも組まずに」
二人は別方向へ歩き出す。レイとソウシンだけが残った。
「みんな、大丈夫かな?」ソウシンが小さく聞く。
「大丈夫だよ」レイが優しく頷く。「チームってね、たまにケンカする。でもだいたい仲直りするの」
「どれくらいで?」
「分かんない。でも、きっと短いよ。ねえ、島をもっと案内してくれる?」
「もちろん!」
二人は並んで歩き出した。
――
東京・屋上――
マリンとノノカは高層ビルの屋上に陣取り、周囲を隊員が囲んでいた。
「高さは足りる?」マリンが聞く。
「うん。これなら追えるはず」ノノカが頷く。「……あれ? オマリロさんいないの?」
「変ね」マリンが眉をひそめる。「来るって言ってたのに。あの人、いつも自分のペース」
顔が一瞬だけ赤くなる。
「……昔から、そう」
「じゃあ先に見つけて、見せます」ノノカは膝をつく。
「ジュゲン操運者:追跡強化上昇」
〈追跡バフ:起動〉
目を閉じ、コハクの顔を思い浮かべる。
(狩猟姫、狩猟姫……見せて……)
遠方で赤い反応が一瞬だけ灯り――すぐ消えた。
「……くそ、見失った」
「“周辺にいれば追える”って言ったわよね。東京全部含めて」
「いると思う。でも、たぶんダンジョンの中。外から中は追えない」
「厄介ね」マリンが顎に手を当てる。「未攻略ダンジョンがまだ多い。どこに潜ってるか……」
その時、オマリロが杖を手に現れ、二人の前へ歩いてきた。
「遅いじゃない」マリンが言う。「おしゃれ遅刻魔」
「獅子女、見つかったか」
ノノカが首を振る。
「追えませんでした。ダンジョン内っぽいです」
「ダンジョンは獅子女の家。隠れ家は中」
「じゃあ探しに――」ノノカが言いかける。
「ダメ!」マリンが即座に遮る。「罠かもしれない。能力も不明。……オマリロ、まさか行く気?」
「今じゃない」オマリロが言う。「女、助け必要」
「女? 誰?」
「……リカ」
ノノカが立ち上がる。
「え、私置いてくの?」
「女、来てもいい。だが――歓迎されない」
「どういう意味ですか?」
「島は外部に敏感。捕獲の危険、高い」
ノノカは息を吐き、決める。
「リスク取ります。ここで待つよりマシ。……父も今、強くなるだの何だの、勝手に動いてるし」
マリンが腕を組む。
「で? どれくらいかかるの、“あなたの小旅行”は」
「移動分」オマリロが言う。「来い」
ノノカがオマリロの背に手を添える。杖が床を叩いた瞬間、二人は消えた。
「……はい、消えた」マリンが呟く。
隊員が近寄る。
「副局長、昔オマリロと付き合ってたって本当ですか?」
「本当よ」マリンは遠くを見る。「……幸運だった。あの人は謎だらけ。今でも、何も分からない」
――
隠れ家――
コハクが玉座に座っていると、カゲトウが駆け込んできた。
「狩猟姫! カイタンシャが、あなたの追跡を始めたとの情報です!」
コハクは片手で追い払う。
「くだらない。あの弱い男どもに、この隠れ家は見つけられない」
「それは……ですが、もっと悪い知らせが。ダンジョンの住人どもが、あなたを罠に誘い出そうとしています」
「私を? 身の程知らずめ」
カゲトウが一枚のシジルを差し出した。
〈シジル能力:伝送――保持者に“生中継”を映す〉
コハクが握り潰すと、空中に映像が浮かぶ。中心にルイ。周囲に影のような集団。
『やあ、狩猟姫!』ルイが手を振る。『お前はずいぶん厄介だ。仲間を虐殺し、ダンジョンを乗っ取り、今度は“宿敵”と結婚だって?』
「用件を言え、虫」コハクが低く命じる。「さもなくば斬る」
『大口だな。伝令は殺すなよ』ルイが笑う。『仲間が“鹿児島”に集まってる。殺したいなら来い。来ないなら、お前の隠れ家を引き裂いて――それから、お前が狙ってる老いぼれの方もな』
ルイはひらひら手を振った。
『じゃあね、狩猟姫』
映像が消える。コハクは唸り、双剣を掴んだ。
「ボス?」カゲトウが恐る恐る聞く。
「狩人を集めろ」コハクは立ち上がる。「無尽者エリートを皆殺しにする。それから――私の未来の夫に“最前列の招待状”を送る」
コハクは歩き出し、瞳が獅子のそれに変わる。
「私は世界最強の狩人。……誰も私を脅せない」
指先から一瞬だけ爪が伸びた。
「……誰一人として」
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