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――第44章・レースを探そう――

???――


〈レイスさん、コーヒーをもう少し?〉

〈今日のあなたは本当に素晴らしかった。他の子たちはきっと嫉妬するでしょうね〉

〈さあ行って。ダンジョン生物には気をつけるのよ〉


 レイが目を開けると、ソレンと子どもたちが自分を覗き込んでいた。


「……起きたか」ソレンが言う。


「う、うん……」レイは唸りながら起き上がった。「まだ島にいるの……?」


「いる。試験は合格だ。――よって、これを与える」


 ソレンが差し出したのは一枚のシジル。レイは受け取り、首を傾げる。


「これ、何するやつ?」


「お前にとっては劇的ではないが、千レベル上がる」


「えっ、やば」


 レイはシジルを握りつぶした。


〈レベルアップ! +1,000レベル〉


「ありがとうございます、ソレンさん!」


「来い。第二段階の訓練に入る前に、仲間と合流させよう」


 子どもたちがレイを支え、立たせる。


「手伝ってくれてありがとう、レイさん!」サリナが言った。


「ううん! いつでも!」


 ソレンに連れられ、レイは柱を出て本堂へ戻った。そこにはザリア、リカ、ハンが待っていた。


「レイ! 戻ってきた!」ザリアが声を上げる。


「ただいま!」レイは手を振った。「みんな終わった?」


 ザリアとリカは頷き、ハンはどこか上の空で親指を立てた。レイが友達の隣に腰を下ろしたところで、ソラが幕を引いた。


「少し待って。もう一人、あなたたちに合流するわ」


 次の瞬間、ソウシンが奥から飛び出してきて、危うく子どもたちに突っ込みそうになった。


「やっほー、友だちー!」


 ハン、レイ、ザリアは固まり、リカだけが温かく手を振る。


「やあ、ソウシン!」


「ソウシン?」三人が同時に聞き返す。


 リカがうんうんと頷く。


「そう! ソウシン! 完全に人間になったの。もう電話の中の変なやつじゃない。普通の――えっと、何歳だっけ?」


「十一歳!」


「普通の十一歳の男の子!」


 リカが満足げにまとめる。


「どう? 仲間に入れていいと思う?」


「めっちゃ可愛い!」レイが即答する。


「強いの?」ザリアが眉を上げる。


「どっちでもいい」ハンがぼそっと言う。


 リカが説明する。


「能力は同じだけど、人間になってスキルが二つになったの。ひとつは見たやつ。もうひとつは“何でも動く物にできる”!」


「それ、結構すごいじゃん」ザリアが素直に言った。「なあソウシン。私らに入るの、いいと思う?」


「うん!」


「よし。でも先生に許可もらわなきゃ。オマリロ先生に実演して、乗せてもらえ!」


「わかった!」


「座りなさい、ソウシン」ソラが命じる。


 ソウシンが座ると、ソラは子どもたちの前に座った。


「あなた、レベル確認をお願い」


 ソレンが手を振る。


「ジュゲン後備者:標的操作」


〈竹野ザリア レベル:3,055〉

〈天川リカ レベル:4,051〉

〈ハン・ジス レベル:3,053〉

〈葉山レイ レベル:48,000〉

〈シコーキ・ソウシン レベル:6,512〉


「マジかよ」ザリアがリカを見る。「本当に、私ら全員より上じゃん。レイ以外」


「でしょ? 経験がちょい足りないだけ!」


 ソレンとソラは小声で話し合い、終えるとソレンが告げた。


「今日は自由時間にする。明日、お前たちは“チーム”として動く。そこで学びを見せろ」


「チーム?」ザリアが身を乗り出す。「私がリーダーでいいよね? 先生いないし」


「誰が指揮しても構わん」ソレンが淡々と言う。「どの役でも指揮は取れる。……理想を言えば、後備者は指揮に向くがな」


「は?」ザリアが横目でハンを見る。「ハンが?」


 ハンは一瞬だけ視線を返し、すぐ目を閉じた。


「ないない。無理でしょ」


「私ならいける」リカが手を上げる。


「ダメ! 先生が“私が隊長”って言ったから私!」


 ソレンはソラを奥へ導きながら、ソウシンに振り返る。


「ソウシン。島を案内しろ。夜八時までに戻れ。夕食と部屋割りがある」


「了解!」


 ソウシンは別の出口へ走った。


「こっち! 友だち! 見せたいものいっぱい!」


「まあ暇だし」ザリアが肩をすくめる。


 女子二人が立ち上がり、ハンも溜息をついてついていく。表通りへ出ると――建物の位置が、さっきと変わっていた。


「……え? 今、建物動いた?」リカが目を丸くする。


「動くよ!」ソウシンが元気に答える。「三時間ごとにリセットして、入れ替わる!」


「じゃあ家も動くの?」ザリアが聞く。


「さっき出たのがうち! あれは動かない!」


「楽しい所ある?」レイが前のめりになる。「遊びたい!」


「お店あるよ!」


「お店!?」リカが急に元気になる。「買い物したい!」


「今、完全に言語が通じたな」ザリアが額を叩く。


「連れてって! 弟くん!」


「いいよ!」


 ソウシンがリカの腕を掴んで引っ張り始める。ザリアとレイは目を瞬かせ、ハンはぼそぼそ独り言を言いながら周囲を警戒した。


「……あれ、関係あるの?」レイが小声で聞く。


「ない」ザリアが即答する。「何があったか知らないし、知りたくもない。追うぞ」


「うん!」


 二人が追いかける間に、ハンだけ取り残された。


「……は?」ハンが眉を寄せる。「置いてくなよ」


 ハンは歩道を拭いていた清掃の女性にぶつかりそうになり、声をかけた。


「すみません。女三人と子ども一人、見ました?」


 女性は立ち上がる。


「ああ、新しい旅人さんね。ソウシン様について行って、左へ曲がったわ」


「助かります」


 ハンが歩き出した、その時――頭の奥に声が滑り込む。


〈ハン……助けて……ハン……〉


 ハンは頭を押さえた。


「違う……! 俺はお前の仲間じゃない! 俺は神カイダンだ。お前がどこの組織だろうと関係ない!」


〈あら……可愛い。命を救ってあげたのに、お願いひとつも聞けないの?〉


「頼みは聞かない。俺は師匠と仲間のためだけに動く」


〈そう。なら後悔するわ。いずれ、あなたは私のところへ戻ってくる。……迷子の坊や〉


 声が消え、ハンは背筋に寒気を感じた。


「……何が目的だ。何者なんだ。あの像を盗んだ女みたいな……?」


 首を振り、無理に切り替える。


「考えるな。実体化できないなら問題ない。……消す方法だけ探せばいい」


 その時、左手に大きな店舗が見え、先へ進むと――ソウシンに引きずられる三人に追いついた。


「ハン! こっち!」リカが手を振る。「見て! シジル売ってる!」


 そこには、ミニサイズの女性ゴブリンが店番をしている“シジル屋”があった。


「いらっしゃい、人間ども!」ゴブリンがにやりと笑う。「ワタシの戦利品、買うかい?」


「買う買う!」リカが即答しかける。「……え、でも訓練なのに必要?」


「もちろん!」ゴブリンが胸を張る。「シジル屋がシジルを売らずに何を売る! しかもティア1のシジルアーマーもあるぞ!」


「ティア3じゃないけどな」ザリアが腕を組む。「……で、いくら?」


「700シジル!」


「は!? 1セットで!?」


「当然。シジルアーマーは安くない」


「チッ……全員、寄れ! 作戦会議!」


 ザリアが四人とソウシンを引っ張って小さく円になる。


「訓練中でも装備は必要だ。でもこの店、価格が強気すぎる!」


「オマリロ先生に連絡する?」レイが提案する。「好きだし、助けてくれそう!」


「ダメ」ザリアが即切る。「もう十分してもらってる。てか私らも自力で強くならないと」


「じゃあどうすんの?」リカが聞く。


 そこへソウシンが挙手した。


「この店、コミッションあるよ! 最初に僕と会った時みたいに!」


「天才!」ザリアが頷く。「連れてきて正解!」


 リカがソウシンの頭をくしゃっと撫でる。ザリアはゴブリンへ戻った。


「なあ、仕事ある? シジル稼げるやつ」


「もちろん!」ゴブリンが指を立てる。「レベル85,000のクラーケン討伐で2,000!」


「却下」リカが即答する。


「は!? 2,000だぞ!」ザリアが抗議する。


「私らレベル6万すらいない。先生なしで85,000は無理」リカが真顔で言う。


「……ぐっ。正論やめろ」


 ザリアはため息をついた。


「他。もっと現実的なの」


「レベル76,100のハイドロシャークを封じ込め――報酬1,400!」


「却下却下却下!」


 ザリアがこめかみを押さえる。


「低レベル向け! 低レベル向け!」


「えっ!」レイがむっとする。「私、低レベルじゃない!」


 ゴブリンが肩をすくめた。


「この島には“定期レース”がある。参加するか? 1位が1,000、2位が800、3位が600だ」


「全員分のアーマー買えないじゃん……」ザリアが唸る。


「でも一番現実的!」リカが押し切る。「ね、ハン?」


「……ん? ああ。レース。楽しそう」ハンはぼんやり返す。


「ほら、ハンも賛成!」リカが勝ち誇る。「ソウシンは?」


「レース大好き! 楽しい!」


「二票!」


「レイは?」ザリアが見る。


「やる! 絶対楽しい!」


 ザリアは天を仰いだ。


「……分かったよ。レースでいい。で、どこ行けばいい、ゴブリンさん」


「第三の柱の近く、ドックだ。船が必要になる。――船は支給しない」


「は!? 何それ!」ザリアが思わずツッコむ。「乗り物用意しないレースがあるか!」


「この島のレースはそういうものだ。健闘を祈る」


 屋台の看板にUIが浮かんだ。


〈コミッション受諾:シコーキ・レースで勝利せよ ティア:3〉


「ティア3か……骨あるな」ザリアが唸る。「まあいい。ドック行くぞ」


 リカが指を立てた。


「一秒! オマリロ先生に報告!」


「いいね。もしかしたらコツくれるかも!」


――――


神カイダン邸――


 オマリロは屋敷の上で、コーヒーをすすりながらエビを食べていた。そこへノノカが、着替えたばかりの姿で出てくる。


「ねえ先生。生徒たちは? あのうるさい子もいない」


「子ども、訓練」


「先生とじゃなくて? なんで? 先生が一番の師匠じゃないの?」


「スキル増やす。安全な場所、行かせた」


 ノノカは髪を結び直す。


「なるほど。……今夜もう一回、教えて。見せたいものがある」


 彼女はバッグからシジルアーマーを取り出した。


「父が“飛翔する鷲の鎧”って呼んでたやつ。着てくる!」


 オマリロはエビを食べ続け、目も向けない。数分後、ノノカが戻ってきて腰に手を当てた。


「どう? 似合う?」


「何百も見た」


「……は!? み、見たことあるの!?」


「ある。――で、何がしたい」


「試したい。先生、手伝って」


 オマリロが指を鳴らすと、二人は一瞬で道場に移動していた。オマリロの膝には、エビの皿がそのまま乗っている。


「数分」


「は、はい! じゃあ攻撃していい?」


 オマリロが杖で床を叩くと、訓練用のダミーが現れた。


(まだ“時間の無駄”って思ってる……でも、見せつける)


 ノノカが構えると、ガントレットにUIが表示された。


〈シジルアーマー補正:ATK↑25%/DEF↑25%/SPD↑35%〉

〈シジルアーマー能力:飛翔する鷲の翼〉

〈装備者は45秒ごとに《鷲の清算》を使用可能〉


 ノノカは首を鳴らす。


「よし。で、そのダミー……動くの?」


 オマリロが指を鳴らす。


「ジュゲン魔法士:天井の黄金分身」


 ダミーが黄金の分身へ変わった。ノノカは目を細める。


「またこれ? 慣れてる!」


 ノノカは首元に触れた。


「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」


〈強化付与。現パーティメンバーに200%バフ〉


 ノノカの背に風の翼が出現する。


「試すよ。――《鷲の清算》!」


 突風が道場を駆け、分身を吹き飛ばす。背後から掴まれたが、ノノカは脚で膝を叩き割るように蹴った。


 分身がよろける。ノノカは身をひねって回避し、再び。


〈能力:使用可能〉


「《鷲の清算》!」


 もう一度の突風が分身を壁へ叩きつける。オマリロはそれを見て、ほんの僅かに目を細めた。


「……戦い方。見覚え」


 ノノカが動くたび、オマリロの脳裏に“別の姿”が重なる。


 腰まで届く黒髪の少年――


―――

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