第5話 恋の予感
健太郎さんが高校卒業後、地元の銀行へ就職したという話は聞いていましたが、窓口にいるとは思いませんでした。
「ちょうど今日は、新人研修で窓口業務をしていて……えーと、阿部さんは通帳を作りに来たんだよね?」
「はい。給料を貯金しようと思って」
「そう。それなら普通預金の……」
この再会の翌月には、なぜかドライブデートに出かけていました。
「マイカーなんて凄いわね」
「父の車を譲ってもらったんだ」
健太郎さんが照れくさそうに言いながら運転していたのは、青とも緑ともいえる曖昧な色のスバル360。
まだまだマイカーが一般的ではない時代でしたから、若くしてマイカーを持っている健太郎さんは頼り甲斐があるようにみえました。
実際、頼り甲斐のある人ですけどね。
整った男らしい顔をしていたとか、背が高かったとか、他にも色々理由があるような、ないような感じでしたけれど。
助手席に座るわたしは、スカート丈の短いワンピースを着ていました。
時代ですね。
わたしも若かったですし、スカート丈が短いといっても今ほどではありません。
そんなこんなで、わたしは20歳になるのを待って、健太郎さんと結婚することになりました。
結婚を急いだのは、銀行の仕事が忙しくて健太郎さんが倒れたというのも一因です。
当時は高度成長期で、とても忙しかったのです。
「無理して結婚する必要はないのよ?」
母は何度もわたしに言いましたけれど、なんだか止まらなかったですね。
平均寿命が男性は70歳に届かないような時代でしたから、健太郎さんの健康状態をとても心配したことを覚えています。
「まだ若すぎる。まだ早い」
父は何度も繰り返し言っていましたけど、相手については特に反対もされませんでした。
健太郎さんは次男でしたし、大学進学はしなかったものの地元銀行に就職していて将来有望。
経済的にも問題はありません。
義祖父から土地を譲ってもらって家を建てるという話でしたから、住む場所も確保されています。
しかも高校の同級生ということもあり、実家からさして離れていない場所に居を構えることになりました。
あとから考えたら、健太郎さんはとても好条件のお相手だったのです。
もっとも決まってしまったものは、あとから反対したって仕方ないですからね。
あれよあれよという間に、わたしは厳かな神前式を終えて、健太郎さんの妻になっていました。
恋の予感から結婚までのスピード感は、現在の比ではないかもしれませんね。
結婚相手を親が決めることも少なくない時代ですから、相性がいいなら、今のようにグズグズしている必要がなかったのです。
家が建つまでの短い間、健太郎さんの実家の離れを借りて住んで。
新居に移り住んだ頃には、私のお腹には新しい命が宿っていました。




