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昭和25年生まれ 木村悦子75歳  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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第49話 突然のおめでたい話

 そして2025年。

 雑多な荷物を減らそうと片づけながら思うのです。

 

 次の冠婚葬祭はいつになるのか?

 それは誰の番なのか?

 もしかして、わたし?


 喪服を眺めてちょっと不穏なことを考えてしまいました。


 わたしは昭和25年生まれの古い人間ですから、花嫁道具として箪笥を持たされたり、着物をした立てもらったりしています。

 

 もう着ないかしら? とは思うものの、なかなか捨てる勇気は持てません。


 着物は高いですし、思い出もあります。


 特に訪問着には思い出があります。

 順子や健太の七五三の時にはわたしが着ましたし、玲子の七五三の時には順子が着ました。


 着用したのは数えるほどですが、着物は大切な場面で着ることが多いですから処分するかどうか悩みますね。

 昨今の気候では保管をするのも大変ですが、手放すとなると二の足を踏んでしまいます。


 着物にしても、洋服にしても、冠婚葬祭もどんどん変わっていますからね。

 保管に疲れてしまうなら、必要なときに新しい物を購入したほうがよいかしら? などと考えつつ片づけを進める日々のなか、玲子のおめでたい話が我が家にもたらされたのです。

 

「おばあちゃん、おじいちゃん。報告があります。私ね、結婚が決まったの」


 とてもおめでたく、嬉しい報告です。

 ですが、ちょっと不安なこともあります。


「おめでたい話だけど……もしかして、おめでた?」


 わたしは玲子のお腹のあたりに視線を向けながら聞きました。


「そんなわけないでしょ! ママとパパとは違うわよ」


 両手を叩いて爆笑する玲子の横で、順子がちょっとバツの悪そうな表情を浮かべています。

 玲子は胸を張って続けます。


「私たちは計画的に2人で暮らすことに決めたの。結婚する前に同棲するから引っ越しするわ」

「まぁ、そうなのね」


 結婚するのが決まっているのなら、同棲する前に結婚してしまえばいいと思うのですが。

 わたしが古いのでしょうか?


「お付き合いは、大学からしていて。卒業したときに同棲する話も出てたんだけど、引っ越しもお金かかるでしょ? お金貯めてからにしようと思ってたら、思ってたほど貯まらなくてね。それで結婚前提の同棲になっちゃった」

「そうなのね」


 わたしは相づちを打っていますが、健太郎さんはわたしの隣で目を丸くして固まっています。


「付き合いは長いから大丈夫だと思うけど、実際に一緒に暮らしてみないと相性が分からないでしょ? 籍入れてから別れるとなると戸籍にバツもついちゃうし、色々と面倒だから。ちょっとだけ同棲して、それから結婚の手続きをするの」


 玲子には玲子なりの手順というものがあるようです。


「同棲から始めるけど、心配はしないで。問題なかったらとっとと手続きもしちゃうから。そのほうが節約になるし」

「そうなのね」


 どうもよくわかりませんが、わたしたちの時とはお金の事情が違うようです。


「お金ないから共働きするし、子どももどうなるか分からないけどね。お財布事情が厳しいから、不妊治療してまで子どもを作る予定はないの。自然にできたら、もちろん生むわよ? でも、本当にお金が厳しくて。まずは貯金したい」


 結婚と貯金の感覚が、わたしたちとは、だいぶ違うみたいですね。


「同じ家に住めば、家賃とか光熱費とか色々と節約できるし。子どもはできなくても、家は買いたい」


 玲子が将来について語っています。


「お相手は? どのあたりにご実家があるのかな?」

「向こうの実家はねぇ……」


 健太郎さんに聞かれて、玲子は嬉しそうに答えています。

 どうやら玲子の結婚相手の実家は、そう遠くない場所にあるようです。


「私たちは職場近くで家を買う予定だけど、実家は近いから便利よぉ」

「もう、玲子ってば。お嫁にいくのに、そんな言い方……」

「あら、古いわよ。バーバ」


 玲子は私に向かって右手の人差し指を立てて見せると左右にぶんぶんと振っています。


「イマドキ『お嫁に行く』なんて感覚ないわよ。私は結婚するけど、お父さんとお母さんを置いていく気はないから。もちろん、バーバとジージもね」

「玲子ぉ~」


 順子が感動の涙を浮かべながら玲子を見ています。

 けれど、そんな感じでよいのでしょうか?


「だってお父さんとお母さんもそうじゃない。お母さんを嫁に出したというよりも、お父さんを婿にもらったくらいの感覚なんじゃないの?」


 玲子に痛いところを突かれてしまいました。

 確かに言われてみれば、そちらの意識のほうが強いですね。

 順子が働いていることもありますし、玲子の面倒を我が家でみていましたから、あまり嫁にやったという感覚はありません。


「私たちは離れて暮らしているから、子どもができたからって、どっちの親にも手伝ってもらうって感じにはならないだろうし。共働きしてても、たいして財産を作れるわけじゃないけど。でも2人でなんとかやってくつもり」

「それでお相手の名前は?」


 健太郎さんが玲子に聞きました。

 そう言えばお相手の名前も聞いていませんでしたね。

 突然のおめでたい話で、わたしも動揺しているようです。


「あのね、彼は木下(きのした)徹太(てった)っていうの」


 玲子の言葉に、健太郎さんが動揺した様子で反応しました。


「それはまた……」


 わたしも動揺しています。


「名前が……」


 わたしと健太郎さんが目を丸くして玲子を凝視しているのを見ているのを見て、順子が苦笑しています。


 我が家の苗字が木村。

 順子の夫が哲也。

 わたしの息子が健太です。


「なんだか私たちの家族を混ぜ合わせちゃったような名前でしょ?」


 玲子はそう言って笑っています。

 なんだかとても混乱しそうですが、玲子が幸せそうなので良しとしましょう。

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