第44話 感染症
感染症は怖いです。
特に新型の感染症は怖いですね。
最初に感染者が確認されたのは、2020年の1月。
中国の武漢から帰国してきた方でした。
それ以前からインターネットの上で、質の悪い感染症がはやり始めているという噂がある、と順子から聞いていましたが。
流行り始めるときには止めようもなく一気に広がっていきます。
正体のわからない病を完全に防ぐことなど不可能。
ましてや感染症ともなれば、無理です。
ダイヤモンド・プリンセス号という大型クルーズ船で感染が確認され、大騒ぎになりました。
正体不明の病に立ち向かうのは難しい。
それは分かりますが、感染された方への対応にしても、感染が広がらないための対策にしても、もう少しやりようがあったのではないでしょうか。
緊急事態宣言が出され、日常はガラリと変わってしまいました。
わたしたちは高齢者ですから、順子たちにも心配されましたけれど。
わたしたちは、順子や哲也さん、玲子や健太のことが心配でした。
わたしたちは高齢者ですからね。
万が一、何かあっても諦めがつきます。
ですが、玲子に万が一のことがあったらと思うと、気が気ではありません。
終わっていく人間と未来を作る人間では立場が違います。
玲子を犠牲にしてまで生き延びたいとは思いません。
とはいえ、ご近所で死者も出ましたので複雑な気持ちです。
せっかく戦争を生き抜いて、死ぬときが新型の感染症なんて。
普通の葬儀ならまだましですが、感染症の死者を弔うのはやり方が違います。
死に目にもあえず、亡骸との対面すらなく、骨になって帰ってくるなんて。
なんて残酷な死に方だろうと思いました。
せっかく戦争を生き抜いたのに。
とはいえ、未来もしっかり守らなくてはいけません。
感染症は若い人の命も平気で奪っていきますから油断は禁物です。
健太や順子、哲也さんはリモートワーク。
玲子はリモートによる授業と対策がとられました。
実家に戻るほうが安心ですが、それでは不便ということで、それぞれの家で過ごします。
電話はこまめにできましたが、やはり不安はついてきます。
この機会に思い切って我が家もインターネットを導入しました。
仕組みはよくわかりませんが、テレビ電話のように顔を見ながら話せるので少しは安心です。
コンピューターなどの操作はわかりませんから、健太郎さんにやってもらいます。
今さら難しいことを覚える気は、わたしにはありません。
自宅にこもりがちになるのではと心配でしたが、わたしたちは義兄夫婦と共に畑を管理する仕事がありますからね。
室内と違って表なら少しは安全です。
換気を考えなくても畑なら空気は勝手にどんどん入れ替わりますからね。
とはいえ、危ないですから作業中もマスクはしますし、食事中は黙ります。
2020年から現在まで、感染症への警戒は続いています。
ワクチン接種などもありましたから、当初ほどの警戒感はありませんが、他の感染症にもかかりたくありませんからね。
感染症は予防が一番です。
そんななかで玲子は就職活動をしなければいけませんでしたから、それも心配でした。
景気がいいわけでもないし、感染症は怖いし、不安なことだらけです。
健太は結婚すらしていませんし、順子も子どもは1人。
わたしにとって玲子は唯一の孫なのです。
何かあっては困ります。
本人は画面の向こうでケラケラと笑っていますけど、わたしはとても心配です。
ちゃっかりしている正確は順子譲りですけれど、ちゃっかりしているだけでは感染症を防げませんからね。
「心配ばっかりしていると、免疫力がさがっちゃう。バーバに何かあったら、私は嫌」
玲子にそう言われてしまいました。
確かにそうですね。
心配するのはほどほどにして、わたしはなるべくいつもと同じ日常を送るように心がけました。




