第4話 就職
高校卒業後、わたしは働くことにしました。
「進学したかったら、そうしていいんだぞ」
父はそう言いましたが、わたしには進学してまで学びたいことはなかったのです。
男性の定年が55歳、女性の定年が30歳などというふざけた会社があったり、結婚したら退職するのが普通だったりと女性の労働環境は守られているとはいえませんでした。
「わざわざ働きに出なくても」
母はわたしを心配しています。
「本気で働きたかったら大学を出て教師になるという方法もある。教師なら安定して働けるぞ」
父はそんなことも言っていましたが、四年制大学を出て教師になっても、30歳までに結婚や出産で仕事をやめなければいけないのなら、何年も働くことはできません。
「わざわざ進学しなくてもいいわよ、父さん。働いてお金も貯めたいし、自分の好きな物だって買いたいし」
「まぁ、この子ってば」
「ん、親孝行が出てこないあたりが悦子らしい」
わたしは両親の理解を得て、役場で働くことになりました。
「女子のお給料って安いのね」
初めての給料日を迎えたわたしの感想です。
当時は給料といえば現金で支給されました。
給料が銀行振込になったのはずっと後です。
紙ペラ一枚で銀行振込よりも現金支給のほうがいい、と言われた時代を経ての現代ですが、支給額が少なければどちらでもさほど変わりません。
「この程度を稼ぐのに一ヶ月かかるのだもの。そりゃ女子は早く結婚して子どもを産んだほうがいい、って言われるはずよね」
わたしはそう言いながら、両親に給料袋を見せました。
「ご苦労さま、悦子。がんばったね」
「額が少なくても初めて自分で稼いだお金だもの。大事にしなければダメよ?」
両親は薄い給料袋を前に、ニコニコと笑っています。
「家にはいくら入れたらいいかしら?」
わたしが聞くと、両親は顔色を変えました。
「あら、家にお金なんて入れなくていいわよ」
「そうだぞ、悦子。お前のお金を取らなくても、父さんの稼ぎで食っていける」
下手に家へお金を入れると、父の面目に関わるようです。
続けて父は言いました。
「とはいえ無駄遣いはダメだ。結婚した時に金銭感覚が狂ってしまう。お小遣いの金額を決めて、残りは結婚資金として貯めておきなさい」
「はい、分かりました」
自分名義の通帳を作って、しっかり貯めることにしました。
そして通帳を作りに行った銀行で、のちに夫となる健太郎と再会したのでした。




