第35話 地震のせいで母の認知症が一気に進む
認知症というとボケるというイメージが強いですが、母のイメージとは程遠い。
母は元気でシャキシャキとした人です。
そして弱みを他人に見せたがりません。
だから気付くのが遅くなりました。
「お母さん、ボケちゃったみたい」
兄から電話で知らされたのは、地震からしばらくたった後です。
玲子のことばかり気にかけていて、母のことまで気が回らなかったのです。
「え? この間会った時には、いつもと同じだったわよ?」
「隠すのが上手な人だから……」
わたしが驚いて言うと、電話口で兄がもごもごといいました。
「でもそんな兆候あったの? わたしが電話したときには、平気そうだったのに」
「ん~……。普段は、そうでもないけど。寝ぼけたときとか、兵隊さんに連れていかれる、とかいいだして」
「まぁ!」
母の世代は戦争を経験しています。
「消防車のサイレンの音がすると異様に怖がったりして、ちょっと様子が変ではあったんだけど。どうも空襲警報と間違えているみたいでね。地震の揺れも怖かったけど、携帯電話の音とかも酷かったから一気にきちゃったみたいで」
「それは心配ね」
「ん。だから一度ちゃんと診てもらったほうがいいと思って……病院で診てもらってくる」
兄からそう告げられた週末、わたしは健太郎さんを伴って実家へと出向いたのでした。




