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昭和25年生まれ 木村悦子75歳  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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第3話 ピカピカの小学生

 昭和30年に幼稚園へ入園したはずだけれど、そのあたりの記憶は曖昧ね。

 あの頃は洗濯機と冷蔵庫、テレビが「三種の神器」なんて呼ばれていた時代よ。

 気付いた時にはスプレー式の殺虫剤が家にあったけど、あれが発売されたのもこの時期かしら。


 記憶がわりとしっかりしてきたのは小学校へ入学した1957年、昭和32年の7歳あたりかしらね。

 入学の時に買ってもらった赤いランドセルが嬉しかったし、真新しいクレヨンや鉛筆もなんとなくだけど覚えているわ。

 兄が買ってもらった自動鉛筆削り器を使わせてもらって、削りすぎないように鉛筆を削ってたのも覚えている。

 しっかり削ると先が尖って綺麗に字が書けるけど、削りすぎるとあっという間に鉛筆が小さくなってしまうの。

 まだまだ貧しい時代だったから、鉛筆も大事に大事につかったわ。

 学校は大変で、お勉強のほうも、運動のほうも、そこそこ。頑張っても普通を超えることはなかった。

 でもお友達と遊ぶのは楽しかったわ。

 あの頃には夫と出会っていたらしいけれど、今よりも男女は別々で動いていたから、特に覚えていることはないの。

 生徒数が多かったせいもあると思うわ。


 鮮明に覚えていることといったら、我が家にテレビが来た日のことね。

 皇太子さまの結婚が決まり、パレードをテレビで中継するからとそれを見るために父が奮発してテレビを買ったの。

 小学校の思い出は、沢山あるけれど意外と今と変わらない。

 運動会に遠足、給食にテスト。夏休み。

 今もあるものが当時もあった。

 プールや体育館は学校に上がってから出来たような気もするけど、どうだったかしら?


 ただただ楽しかった小学生時代はあっという間に終わってしまって、1963年、昭和38年には、ちょっと将来のことを考え始める中学生になってしまった。

 当時は女の子の進路なんて相談するまでもないって感じだったわ。

 結婚するのは当然のことで、高校を卒業後は仕事を持ってもいいし、花嫁修業に入ってもいいという空気があった。

 当の女性たちに勤労意欲があっても、少しでも早く結婚を、という時代。

 就職はしなくてもいいけど結婚は絶対という圧を感じていた。

 

 でも我が家の考え方は違った。


「無理して結婚しなくていい。高校を卒業したら短大へ進学してもいいし、職業訓練のできる学校へ入ってもいい。お前の人生なのだから、後悔のないように生きなさい」


 父の決断は絶対だから、中学を卒業して花嫁修業をして結婚しなさい、と言われればそうするしかなかった。

 でも幸いなことに父の考えは先進的でした。


 母に至っては結婚や出産すら強要する気配すらなかったの。


「子どもを産みたくないなら、それでいいわ。政府なんて産めよ増やせよと言ったって責任とるわけじゃないんだから。まだ移民船で海外へ人を送り込んでいるのよ」


 実際、移民船は1973年、昭和48まで運行されていた。


「やってることは滅茶苦茶よ。政府のやることに振り回される必要なんてないの。貴女の人生なのだから、貴方が決めなさい」


 自主性を重んじて自立を促されたわ。

 かえって厳しいわよね。


 でも後から友人たちに聞いてみたら、こんなアドバイスをする親はわたしの家だけではなかったみたい。

 大っぴらに言うことはなくても、戦争を体験した世代の子どもだから、内緒で先進的な考えの親を持っている人も多かったわ。

 

 家庭のことは分からないものだけれど、厳しい時代を生き抜いた世代の家庭だからこその教育を受けた女性も少なくはなかったのよ。

 闇市が姿を消したのが1951年、昭和26年ころの話。

 わたしが生まれた頃は、まだまだ戦後の混乱が続いていたことになるわ。

 高度成長期が始まったのは、1955年頃から。

 世界は途端に姿を変えたように見えるけれど、裏側では色々な傷や齟齬がそのまま転がっていた。


 わたしは子どもで、子どもの世代は未来しか見ていなかったから、前に進めたの。

 高度背長期は1973年頃まで続いたわ。

 1950年、昭和25年生まれのわたしの記憶へ鮮明に残っているのは、この高度成長期の時代のことです。

 まだまだ貧しいし、変化はめまぐるしくてついてくのが大変だったけれど、今にして思えば恵まれた時代だったのかしら?


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