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昭和25年生まれ 木村悦子75歳  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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29/51

第29話 地震

 玲子の小学校の卒業が間近に迫った2011年、平成23年の3月11日の金曜日、14時46分。

 東北地方太平洋沖地震が起きました。


「地震⁉」


 緊張が走った我が家には、小学校から帰ってきた玲子がいました。

 

「ばーばっ! 怖いっ!」

「大丈夫。大丈夫よ」


 わたしは玲子の体を抱きしめます。

 震源地から離れているとはいえ、不安になるほど揺れました。

 耐震補強工事を済ませておいて、心の底からよかったと思った瞬間です。


 ひっきりなしに鳴る携帯電話の緊急速報メール。

 テレビでは押し寄せる津波の映像が流れ、とても現実のこととは思えません。

 まるで映画のような、フィクションの世界に迷い込んだような感覚です。


 ですが現実ですから、揺れはしっかり感じます。

 ガタガタと音はしますが、物が倒れるほどではありません。

 台所の食器は無事でなかったとしても、孫の玲子には傷ひとつ負わせたくありません。

 

 悲鳴を上げる玲子を抱きしめて、わたしは自分の悲鳴を呑み込みました。

 現実とは思えないのに体は強張るし、勝手に震えるし、人間って不思議ですね。


 それからほどなくして順子が慌てて帰ってきました。

 順子の姿を見た玲子が「お母さぁーん」と甘えるように声を上げて駆け寄り抱きつきました。

 実母のぬくもりに玲子は少し落ち着きを取り戻したようです。


 ですがいくら大きな影響がない地域といっても、大きな地震のあとに慌てて移動するのは危険です。

 わたしは軽く順子をたしなめました。


「心配なのはわかるけれど、あなたに何かあったら悲しむのは玲子なのよ? 安全第一でお願いね」

「わかってるって。キチンと交通ルールは守りましたよ。それにこの辺は、信号機もちゃんと動いているし、道も平気だったわ」


 順子はマイカー通勤です。

 だから動きやすいのですが、災害時には注意しないと危ないですよね。

 まだ緊急地震速報はドンドン入ってきますし、混乱した状態です。

 ですが、この辺の被害はたいしたことがなさそうではあります。

 わたしは地域のハザードマップを思い浮かべながら、ちょっと考えました。


 順子は状況説明をしています。


「今日は哲也さんも早く帰ってくるって言ってるし、玲子は連れて帰ったほうがいいかな」


 我が家は耐震強度を上げる工事をしましたが、順子の家のほうが新しいのです。

 そこを考えたら、順子にとっては自宅のほうが安全に思えるのかもれません。

 ですが我が家はつい最近、耐震補強の工事を済ませたところですからね。

 どちらのほうが安全かは、確認しないとわかりません。


「まずは玲子はここにおいて、自分の家を確認してきたら? 食器棚や箪笥がどうなってるか、わからないわよ」

「あっ!」


 順子はハッとした表情を浮かべました。

 やはり地震対策をキチンとしていなかったようです。


「この家は、このくらいの被害で済んだけど、そちらの家は分からないわよ」

「ん、そっか。ちょっと見てくるから、玲子を預かっておいて」

「わかったわ」


 わたしが玲子の肩をギュッと抱くのを見てから、順子は自宅を確認するために出ていきました。

 順子と入れ違いに、健太郎さんが帰ってきました。


 玲子が「じーじっ」と言いながら健太郎さんへ抱きつきます。

 まだまだ子どもですから、手で触らないと安心できないようです。

 もちろん、玲子がいなかったら、わたしが健太郎さんに抱きついていましたけどね。


 健太郎さんがわたしに聞きます。


「大丈夫か?」

「ええ。リフォームに耐震工事を入れておいてよかったわ。箪笥も片づけてしまったから、そんなに被害は出てないと思うの」

「そうだな、リフォームしておいてよかった」


 健太郎さんはホッとした表情を浮かべると、玲子をギュッと抱きしめました。

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