第14話 生まれました
わたしと健太郎さんは48歳。
若いおじいちゃんとおばあちゃんになりました。
わたしたちの両親のほうが、祖父母らしい風情がありましたね。
両親、義両親にとっては、初のひ孫です。
入れ替わり立ち代わりやってきては、赤ちゃんを眺めて、順子へ労いの言葉をかけて帰っていきました。
2025年現在の産院と比べたら、割と気軽にお見舞いに行ける時代ではありましたが。
お見舞いに来たのは皆、人の親ですからね。
産後は休まなければいけないことは知っていますし、赤ん坊に何かあっても大変です。
わたしの両親も、健太郎さんの両親も、小さな体でフニフニと泣いている赤ん坊をガラス越しに眺めて、ニコニコしながら帰ってきました。
いま小さな病室にいるのは、わたしと哲也さんのお母さまだけです。
ベッドの上には授乳を終えた順子が赤ん坊を胸元に抱いてニコニコしています。
「あぁ、可愛い。どちらに似たのかしら?」
「ふふ、もう少し経たないと分かりませんね。あぁ、この真っ赤で小さな体。哲也が生まれた時を思い出すわ」
「わたしもですよ。順子を生んだ時のことを思い出しました」
順子が選手宣誓でもするように、赤ん坊の体に回した右腕を先のほうだけ器用に上げて言うる
「この可愛い子は、私が生みました。疲れたー」
出産を終えた順子はグッタリしていますが、無事です。
口だけはいつも通り元気ですが、さすがに体への負担は大きかったようです。
初めての出産ですから、生まれるまではバタバタしました。
わたしが生んだのは昔のことですから忘れてしまいましたが、子どもは予定通りに生まれてくるものはありませんからね。
何時何分にポンッと魔法のように生まれてくるわけではありませんし、母子ともに命の危険はいつだってあります。
子どもが元気に生まれてくれて、順子も無事で、ホッと一安心です。
でも、あまりにいつもの調子を取り戻すのが早くて、わたしは呆れてしまいます。
「もう、この子ってば」
「ふふ。私はもうこの子のお母さんなんだから。いつまでも子ども扱いしないでよ」
「わたしから見たら、いつまでも子どもよ」
わたしがそう言うと、順子はちょっと頬を膨らめてみせました。
哲也さんのお母さまもいるのに。
そういうところが子どもなのよ、と言いたいところですが。
恥の上塗りになりそうなので黙ります。
そこへ哲也さんが入ってきました。
「授乳は終わった?」
「うん、終わった。お父さんたちに病室へ入ってもらっても大丈夫よ」
「ああ。そうするよ。お父さん、お義父さん。赤ちゃんを見てやってください」
哲也さんの言葉にこたえるように低い声が2つ響いて、男性陣が病室へ入ってきました。
ちょうど他の妊婦がいないタイミングだったので、本来は2人部屋ですが、この病室には順子しかいません。
ですから、ゆっくり赤ん坊の顔を見ることができます。
「僕がパパに……」
哲也さんは何度目になるか分からないセリフを呟いて、赤ん坊を見て目を潤ませています。
彼、性格は素直なよい奴なのです。
結婚前に娘を孕ませはしましたが、根はいい子なのです。
……まぁ、孫も生まれたことですし。
喧嘩などせずに仲良くやっていきたいと思います。
孫娘は、それはもう可愛くて、可愛くて。
何時間でも見ていたいですが、そうもいきません。
病院の管理上の問題もありますし、これからは順子と哲也さん、そして生まれたばかりの赤ちゃんで家庭を作っていかなければいけませんからね。
わたしたち夫婦も適当なタイミングを見計らって、病院を後にしました。




