第13話 できちゃった婚 4
順子は昔からちゃっかりしたところがありましたが、妊娠してその性格が強化されたようです。
バタバタと忙しく過ぎていく結婚式の準備や結婚式、出産の準備など甘えられるところは周囲にホイホイ投げていきます。
哲也さんはやつれていきましが、妊婦である順子のほうは順調そのもの。
「消費税が3%のうちに結婚式を挙げておけばよかった! 赤ちゃんの肌着とか、赤ちゃんに必要な物も先に買っておけばよかった!」
お金のことを計算しては、ぶつぶつ文句を言っています。
でも事の本質はそこではないと思うのですが。
当人は至ってまじめです。
こんなことをわたしがなぜ知っているかといえば、順子が資料と計算機を持ってノートとにらめっこしているのは、我が家の居間だからです。
「あなた週末だからって、こっちに来ていていいの? 家のことをしなきゃいけないでしょ?」
「んー。そっちは哲也さんが手伝ってくれてるから。私は週末くらいからだを休ませないと、お腹の子に悪いでしょ?」
順子が産休に入るのはだいぶ先です。
1997年の改正により、産前6週間と産後8週間は産休の取得ができます。
「有給もあるけど、生まれるまでは何があるか分からないから、なるべく取りたくない。だから無理しないようにしてる」
「そうねぇ」
一応、妊婦としての自覚はあるようです。
「お腹が張るとか、よくわかんないから。しんどくても『そんなもんかなー?』と思っていて、あとから大事になったっていう先輩の話も聞くし。用心するのが一番。だから今日も晩御飯は、よろしく。こっちで食べてくから」
「まぁ、ちゃっかりしてるわね」
ふふふとわたしは笑いました。
「でも哲也さんの晩御飯は、どうするの?」
「あとからこっちに来るから、よろしく」
「ホントにまぁ、この子ったら」
わたしは呆れてしまいましたが、当人はしれっとしています。
子どもなんてこんなものかもしれません。
結婚式で借りるウエディングドレスもマタニティ用です。
わたしたち親の世代からすれば、なんともバツの悪いものでしたが。
店員さんも、最近はできちゃった婚も多いですよ、という感じでしたね。
ちょっとだけ気持ちが楽になりましたが、できれば普通に段階を踏んで嫁に出したかったです。
とはいえ順子は妊娠6ヶ月の時に、結婚式を挙げました。
順子は晴れて木村姓から山口姓に変わりました。
あちらのご両親も知らない人ではないので、その点では安心です。
新居はもちろん義実家も近くというのは、気を使うものですが、安心感もあります。
ただ順子のほうは、姓も変わったというのに、嫁に出たという自覚があるのかないのか分かりません。
結婚後もたびたび実家に戻ってきましたし、わたしたちも甘い親ですから、それを受け入れていました。
なんだかんだとバタバタと時は過ぎ。
1998年、平成10年。
孫娘の玲子が誕生したのです。




