私の進路
来年の春から、私は――
いや。
正確には、私たちは、王立学園へ入学する。
そう、私だけじゃない。
アデルも、同じだ。
両親と同じ道。
王立学園。
王都にある、歴史も実績もある、由緒正しき学び舎。
学科は、なんと十二もある。
多い。
多すぎる。
座学中心の学科もあれば、
実技ばかりの学科もある。
研究、戦闘、治癒、補助、解析、理論……。
適性診断で振り分けられることもあるし、
希望を出して進むこともできる。
……悩む。
デルハイド辺境伯領は、
隣国と、魔物が住まう地域に接している。
そのせいか、
冒険者も、猛者も、多い。
強さが、生活に直結する土地。
だからこそ。
両親と同じ――
魔術科。
挑戦したいよね。
私は、机に広げた魔術科の資料に目を通し、
思わず、それを抱き締めた。
魔力理論。
属性適性。
詠唱補助。
実戦応用。
……うん。
胸が、少し高鳴る。
「……アデルは、学科決めた?」
何気ない風を装って、訊く。
アデルは、少し間を置いた。
じっと、私を見る。
視線が合って、
なぜか、逃げ場がない。
「そうだな……」
溜めるな。
無駄に。
「魔術科に行く」
……ですよね。
分かっていた。
分かっていた気もする。
それでも。
ホッとした。
胸の奥が、ふわっと緩む。
……嬉しい。
そんな私の顔を見て、
アデルも、和らかく笑った。
「じゃあ、これからも一緒だね」
何の気なしに言った、その言葉。
「離す気はないからな」
即答。
……この幼馴染み、ブレない。
本当に、ブレないな。
少し呆れながら、
でも、悪い気はしない。
そんなことを思っていると、
アデルが、私の方へ一歩近づいた。
「糸くず、付いてる」
そう言って、
そっと、指が私の髪に触れる。
銀色の瞳が、間近で覗き込む。
……近い。
「とれた?」
「アホ毛だった」
「ひどい!!」
即、抗議。
最近、たまに、こういう意地悪をしてくる。
小さい頃は、
ただ引っ付いてくるだけだったのに。
男子って、成長すると、
変な方向に進化するよね……。
私は、ぷいっと顔を逸らした。
窓の外を見ると、
庭の木々が、少しずつ色づいている。
秋。
空気が澄んで、
風が、少し冷たい。
冬が来る前に、
入学準備を進めなきゃ。
制服。
教材。
寮の手続き。
それから。
「クリスと、温泉にも入らなきゃ」
ぽつりと呟く。
毎年恒例の、温泉旅行。
あれは、外せない。
「もう、アイツと入るのはダメだろ」
間髪入れず、アデル。
「は?」
思わず、振り返る。
「可愛い弟を、イジメないでください!」
「可愛い、ねぇ……」
納得いっていない顔。
アデルは、相変わらず、クリスと張り合っている。
年下相手に、本気で。
ぷんぷんである。
……先が、思いやられる。
それでも。
秋が深まり、
冬が来て、
春になれば。
私は、次の場所へ進む。
きっと、
また、騒がしい日常が待っている。
……でも。
それも、悪くない。
今は、そう思えていた。




