気に入らないアイツ
僕の姉様は、美しくて、優しい。
それはもう、疑いようがない事実だ。
笑えばあたたかくて、
名前を呼んでくれれば、それだけで胸がいっぱいになる。
僕のためなら、なんだってしてくれる。
本を読んでくれるし、
転んだら抱き上げてくれるし、
眠くなれば、背中を撫でてくれる。
世界は、姉様を中心に回っている。
少なくとも、僕の世界は。
なのに。
……なのにだ。
僕と姉様の時間を、平然と邪魔してくる存在がいる。
アデル。
あの銀髪の、いつも姉様の隣にいるヤツ。
朝も。
昼も。
夕方も。
当然の顔をして、そこにいる。
来年、姉様は学園へ入学する。
学園には、寮がある。
つまり。
……姉様は、家を出る。
頭の中で、その事実を反芻しただけで、胸がざわついた。
寮に入ったら、
姉様と過ごす時間は、確実に減る。
それなのに。
アデルは、当然のように言ったのだ。
「一緒に学園に行くよ」
まるで、決まっていたことのように。
しかも。
勝ち誇った顔。
……ムカつく。
心の底から、ムカつく。
僕は知っている。
姉様が、庭でうたた寝していた時のことだ。
木陰で、本を胸に抱いたまま、静かに眠っていた。
そのとき。
アデルは、周囲を見回してから、
そっと、姉様に顔を近づけた。
そして。
口付けた。
頬でも、額でもない。
あれは、間違いなく――。
胸の奥が、ぐっと冷えた。
あれは、僕から姉様を奪う敵だ。
許せない。
その気持ちが、言葉にならなくて、
ある日、母上にぶつけた。
「……理不尽だと思います!」
母上は、紅茶を飲みながら、首を傾げた。
「なにが?」
「血が繋がっていたら、姉様と結婚できない!」
一瞬、空気が止まった。
母上は、僕を見て、
それから、ふっと笑った。
「そう?
でも、そのかわり――」
手を止めて、静かに言う。
「別れも無く、姉弟として一生、傍にいれるわよ?」
……。
目から、鱗だった。
確かに。
結婚はできないけれど。
離れる理由も、ない。
姉弟。
家族。
……いや。
いや、それでもだ!
「……なぜ、アイツはいつも居るんですか?」
思わず、声が低くなる。
「魔術師団に行けばいいだろう?」
母上は、少し困った顔をした。
「……」
沈黙。
「理不尽だ!」
叫んだ、そのとき。
「クリスいるー?」
聞き慣れた声。
振り向くより早く、胸が軽くなる。
「クッキー作ったから、食べる?」
姉様が、籠を持って立っていた。
ぱっと、顔が熱くなる。
「姉様!」
「たべますっ!」
勢いよく走り寄る。
「アイツの分も、全部!!!」
くすくすと、姉様が笑った。
その笑顔が、僕は大好きだ。
奪わせない。
絶対に。
……たとえ相手が、あのアイツでも。
僕は、姉様のそばにいる。
それだけは、譲れない。
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