弟が増えた
相変わらず、アデルは私にくっ付いている。
朝から晩まで。
本当に、片時も離れようとしない。
私が椅子に座れば、隣。
立ち上がれば、裾を掴む。
歩けば、後ろをよちよち――いや、もうよちよちではない。
堂々と、である。
「こっち向いて」
声を掛けられて、
「……なに?」
と振り向くと。
ぱあっ。
全力の笑顔。
「ソフィア大好き」
……直球すぎない?
「私も好きだよ」
そう答えると、
満足そうに、ぎゅっと腕にしがみついてくる。
やれやれ。
少し落ち着いたかと思えば、今度はこれだ。
「……本じゃなくて、僕をみて?」
私は本を広げたまま、ため息をつく。
「お勉強は大事だよ」
すると。
ごろん。
広げた本の上に、寝転がってきた。
……猫なの?
「もう!」
睨むと、
目が合ったことが嬉しいらしく、また笑顔。
完全に、確信犯である。
そんな日常が続いていたある日。
我が家に、新しい命がやってきた。
私が三歳のとき。
弟、クリスが産まれた。
三歳ともなると、
会話ができる。
感情も、主張も、十分にできる。
だから私は、
その能力を、遺憾なく発揮した。
「可愛い弟がきたー!」
小躍り。
本当に、小躍り。
幼馴染み?
今はそれどころじゃない。
赤ちゃんだ。
弟だ。
抱かせてもらうと、
あたたかくて、柔らかくて、
なんだか、良い香りがする。
ちゅっ、と頬に口づけると。
ふにゃ。
溶けるような笑顔。
……なにこれ。
「……弟は天使だ!」
断言である。
完全に、心を奪われた。
赤ちゃん可愛い。
無条件で可愛い。
存在が尊い。
私は、文字通り猫可愛がりした。
すると。
「……ソフィア」
低い声。
「ぼくだけを、みて」
ぞくっ。
一瞬だけ、背中に冷たいものが走った。
……いやいや。
気のせい、気のせい。
弟が生まれてから、
ニコイチだった世界に、もう一人増えた。
当然、バランスは崩れる。
結果。
奪い合い。
私を。
どちらも、私がそばにいないと泣く。
三歳なのに、
気分はベビーシッターである。
「おーよしよし」
両手が塞がる。
片方にアデル。
もう片方にクリス。
……腕が足りない。
それでも時間は流れ、
気が付けば。
私とアデルは、八歳。
クリスは、五歳。
今日も変わらず、
二人は私と遊びたがる。
「ねえさまを離せ!」
クリスが叫ぶ。
「お前こそ離せ!
産まれた時から、僕のソフィアだ」
アデルが即座に応戦する。
……ちょっと待って。
「どっちの私でもありませんよ」
思わず冷静に突っ込む。
「一緒に遊べばいいだけじゃない?」
正論だと思うのだけれど。
二人は、私の腕を引っ張り合う。
……痛い。
城の中庭。
日差しは穏やかで、風も心地いい。
両親たちや、城の人々は、
その光景を微笑ましそうに眺めている。
「仲が良くて、微笑ましいですね」
……違う。
腕、ちぎれる。
本当に、ちぎれる。
「やめい!!」
声を荒げると、
二人は、ぴたりと止まった。
そして、同時に。
「ソフィア」
「ねえさま」
……はいはい。
今日も騒がしい。
けれど。
飛行機が堕ちて、
白い世界に消えた、あの人生と比べれば。
この日常は、
あまりにも賑やかで、
あまりにも生きている。
二度目の人生は、
どうやら、穏やかに進んでいるらしい。
……多分。
腕は、死にそうだけど。
誤字脱字を修正しましたm(_ _)m




