幼馴染み
……めちゃくちゃ、あむあむされている。
なにこれ。
私は、おしゃぶりなのだろうか。
違うだろう。
君のおしゃぶりは、アレだ。
私ではない。
そう訴えたいのに、
小さな手が私の服を掴み、
口が、私の指や頬や耳に向かってくる。
あむ。
あむあむ。
ダメだ。
完全にロックオンされている。
私に絡みまくってくる、この生き物。
離れようものなら、火がついたように泣き暴れる。
ぎゃああああ、と。
この世の終わりです、みたいな声で。
……君、違うでしょ。
その後追い、対象を間違えてるぞ。
この厄介極まりない存在こそ、
私の幼馴染――アデル。
我が家に勤める魔術師団長夫妻の、息子さんである。
両親同士は、王立学園時代の同級生らしい。
学科は違えど、顔を合わせる機会も多く、
気づけば家族ぐるみの付き合いになったのだとか。
そして、運命のいたずら。
私とアデルは、同じ月に生まれた。
それだけで、人生はこうも変わるのか。
朝。
起きると、いる。
昼。
遊ぶと、いる。
夕方。
庭に出ても、いる。
夜。
「また明日ね」と言われるまで、いる。
もはや、ニコイチ。
離乳食を食べるときも。
絵本を読むときも。
歩く練習をするときも。
気づけば、視界の端に銀色がある。
そのせいか、
アデルは私の後ばかり追ってくる。
よちよちと。
必死に。
一心不乱に。
……いや、だから違う。
後追いは、親にするものだ。
なのに、私が少しでも離れると、
途端に泣く。
大粒の涙を零し、
顔を真っ赤にして、
声を張り上げる。
周囲が慌てる。
抱き上げる。
宥める。
それでも、私が視界に入らないと、
泣き止まない。
結果。
「ソフィアちゃんのところに行けば?」
という、謎の解決策が採用される。
そして、
私のところに来る。
即、泣き止む。
……納得いかない。
不本意だが、
私はアデルの「安心アイテム」になってしまったらしい。
その結果。
ファーストキスを、奪われた。
いや、正確には、
唇に、べちっと。
完全に事故。
完全に、あむあむの延長。
……乳児はノーカン?
そりゃ、そうか。
そう自分に言い聞かせている今も、
彼は私の耳朶を狙っている。
あむ。
……やめなさい。
ため息しか出ない。
私は、ふとアデルを見る。
銀色の髪。
大きな瞳。
無邪気そのものの表情。
目が合うと。
ぱあっ、と。
世界が明るくなったみたいに、
満面の笑みを浮かべた。
……。
……可愛いな。
くっ。
これは、ずるい。
前世で、散々理性を持って生きてきた私でも、
この破壊力には抗えない。
仕方ない。
今日だけだ。
今日だけは、許してあげよう。
そう思って、
私は小さく、笑い返した。
すると、アデルは、
まるで世界を手に入れたかのような顔をして、
再び、私にしがみついてきた。
……ああ。
これはきっと、
面倒な幼馴染になる。
そんな予感が、
胸の奥で、静かに芽吹いていた。




