君を手に入れた夜。
ソフィアを抱いたまま、夜が更けていく。
規則正しい寝息が、胸元で微かに揺れている。
温かい。
確かな重さがある。
それだけで、胸の奥が満たされるはずだった。
──なのに。
夢の中で、すべてを思い出した。
俺は、前世で彼女を殺している。
否定の余地はなかった。
誤魔化すことも、逃げることもできない。
白い指。
細い首。
触れた瞬間の温度は、もう思い出せない。
冷たかったのか、温かかったのかすら、曖昧だ。
ただひとつだけ、はっきりしている。
──俺は、手を離さなかった。
抵抗が弱まっても。
呼吸が浅くなっても。
「まだ生きている」と分かっていながら。
離さなかった。
愛していた。
それは嘘じゃない。
だが、彼女は俺を選ばなかった。
恋人だった?
違う。
口付けた記憶はない。
抱いた記憶もない。
思い返せば、どれも“願望”だった。
遠くから見つめて。
後を追って。
彼女の生活を、知ったつもりになって。
俺は、彼女の人生を後ろから追い縋るだけの、
選ばれなかった側の人間だった。
隣に立つ理由もないまま、
触れてもいないのに、
触れたつもりで、
「恋人だった」と思い込んでいただけの。
その事実を、今は否定できない。
拒まれていた。
距離を保たれていた。
それでも、俺は「愛されているはずだ」と信じた。
そして。
奪った。
自分の手で。
直後に、理解した。
取り返しがつかないことをした、と。
膝が崩れた。
呼吸が出来なかった。
「助けてくれ」
誰にともなく、何度も繰り返した。
「彼女だけは……お願いだ……」
世界がどうなってもよかった。
倫理も、理も、未来も。
全部、どうでもよかった。
彼女が生き返るなら。
だから、禁術を使った。
代償が“世界”だと知っていても、迷いはなかった。
釣り合うと思ったからだ。
世界一つと、彼女一人。
当然だろう、と。
歪んでいる?
狂っている?
構わない。
俺にとって、世界は彼女以外に意味を持たなかった。
時間軸がずれたことも。
生まれ変わって生きていたことも。
全部、後から知った。
だが、結果は──今、ここにある。
俺は、ソフィアを抱いている。
逃げ場のない腕の中で。
拒まれない距離で。
彼女は眠っている。
無防備で。
俺を信じきった顔で。
喉が鳴る。
「……手に入れた」
小さく呟く。
何度も、何度も。
言い聞かせるように。
過去では出来なかった。
触れることも、選ばれることも。
だが、今は違う。
彼女は、俺のものになった。
選ばせた。
逃げ道を塞いだ。
それでも──彼女はここにいる。
それでいい。
愛は、与え合うものじゃない。
奪って、縛って、逃げ場を消して。
それでも残るなら、本物だ。
ソフィアの髪に顔を埋める。
甘い匂い。
生きている証。
「愛してる」
何度でも言う。
過去で叶わなかった分まで。
拒まれた回数分まで。
「二度と、手放さない」
この夜、俺は確信した。
彼女は、もう俺から離れない。
世界がどうなろうと。
彼女が何を思おうと。
俺は、君を手に入れた。
そしてこれからも──
何度だって、追いかける。
君が壊れるまで。
君が俺だけを見るまで。
永遠に。




