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恋焦がれた君に堕ちるまで  作者: ChaCha


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もう戻れない

夢と現実の区別が、つかなくなったのはいつからだ。


眠れば、あの世界にいる。

目を覚ませば、この世界にいる。


——だが。


どちらにも、ソフィアがいる。


それだけで、十分だった。


夢の中のソフィアは、よく笑う。

俺の名前を呼び、当たり前のように腕の中に収まる。


「おかえり」


そう言って、触れてくる。


現実のソフィアも、笑う。

俺の隣を歩き、何気ない仕草で俺を頼る。


違うはずなのに。

違う“はず”なのに。


(……何が違う?)


胸の奥で、低い声が問いかける。


夢の中の記憶は、鮮明だった。

触れた温度。

重なった息。

交わした言葉。


恋人だった。

疑いようもなく。


——なら。


今の俺たちは、何が違う?


合同訓練。


あの光景が、何度も脳裏で再生される。


血。

悲鳴。

そして——


ソフィアが、あいつの名を呼んだ。


(……は?)


一瞬、理解できなかった。


俺の目の前にいるソフィアが。

俺の恋人であるはずのソフィアが。


別の男の名前を。


ルイスではない男の名を。


叫んだ。


その瞬間、

何かが、音を立てて崩れた。


——ああ。


そうか。


(……そういうことか)


理解してしまった。


ソフィアは、

前世を“ひとつ”しか持っていない。


俺とは違う。


俺は——

世界ごと失った。


禁術を使い、

自分と世界を代償にして。


ただ一つ。


「君に、もう一度会いたい」


その願いだけで。


——結果。


ソフィアは生きている。

別の世界で。

別の時間で。


そして、俺の前にいる。


(……成功してるじゃないか)


笑いそうになる。


禁術は、成功している。

完璧だ。


ただ一つ、誤算があっただけだ。


——時間軸が、ズレた。


俺は、すべてを思い出している。

前世も、死も、代償も。


だが、ソフィアは違う。


彼女は——

“戻ってきただけ”だ。


だから。


俺が、教えてやらなきゃいけない。


ここが、帰る場所だと。

俺の隣が、居場所だと。


ルイス。


治癒師の男。


ソフィアが向ける、あの視線。

懐かしさ。

信頼。

……温度。


胸の奥が、静かに冷える。


(……邪魔だな)


感情は、もう荒れない。


怒りも、焦りもない。


ただ、結論だけがある。


——排除すべきだ。


殺す、という意味じゃない。

そんな野蛮なことはしない。


ソフィアの世界から、

“不要な選択肢”を消すだけだ。


彼女が迷わないように。

苦しまないように。


優しさだ。


(……俺は、間違っていない)


君のいない世界など、

最初からなかった。


あの世界は、消えた。

俺が、消した。


それでも、後悔はない。


君が生きているなら。

君が、ここにいるなら。


世界なんて、何度でも捨てられる。


現実のソフィアが、俺を見る。


少し戸惑った顔で。

少し困ったように。


「アデル?」


その声。


——夢と、同じだ。


俺は、自然に微笑んだ。


「大丈夫だよ」


頭に手を置き、

いつものように、引き寄せる。


「俺がいる」


ソフィアは、疑わない。

疑えない。


それでいい。


——もう、戻れない。


俺は、

君の世界を選んだ。


君も、

俺の世界に堕ちるだけだ。


それが、

唯一の正解だから。


アデル

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