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恋焦がれた君に堕ちるまで  作者: ChaCha


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罪と贖罪

血の匂いは、何度嗅いでも慣れない。


鉄のようで、熱を帯びていて。

命が、今まさに流れ出ている証だ。


視界の端で、治癒魔術科の仲間たちが動く。

声が飛び交い、魔力が重なる。


——けれど。


俺の意識は、ただ一人に向いていた。


「——お願い……!」


叫び声。


震えた声で、泣きながら。

それでも、はっきりと届いた。


彼女が、俺を——

前世の名で呼んだ。


その瞬間。


すべてが、繋がった。


(……ああ)


胸の奥が、強く締め付けられる。


(やっぱり……君だったんだ)


前世。


長い時間をかけて、想い続けた人。

大切にしすぎて、壊すのが怖くて。

一歩を踏み出すまでに、あまりにも時間がかかった。


ようやく手を伸ばした、その先で。


俺は——

君を、失った。


あの日。


飛行機の中で、手を握ったまま。

恐怖に震える君に、「大丈夫だ」と言った。


何一つ、大丈夫じゃなかったのに。


俺が、誘った。

俺が、決めた。

俺が——


救えなかった。


その後悔を、俺は生まれ落ちた瞬間から抱えている。


目を開いた時、すべてを覚えていた。

君の声も、笑顔も、最後の温もりも。


だから俺は、治癒魔術を選んだ。


誰かの命を引き上げるため。

二度と、「間に合わなかった」と言わないため。


贖罪だ。


それが、俺の生きる理由だった。


——なのに。


目の前で血に染まる俺を見て、

君は泣き叫び、縋りつき。


「私の大切な人なの!!」


そう言った。


(……ずるいだろ)


胸の奥で、何かが軋む。


(そんな顔で……そんな声で……)


惹かれないわけが、ない。


でも。


現世では——

君には、恋人がいる。


アデル。


訓練中に何度も見た。

君の隣に立つ男。


視線の置き方。

距離の詰め方。


——あれは、確かに恋人だ。


(……そうだよな)


俺は、遅すぎた。


前世でも。

そして、今世でも。


治癒が進み、意識が少し戻る。


君の顔が、視界に入る。


泣いている。

必死で、俺を見ている。


(……守りたい)


反射のように、そう思った。


けれど。


その次に湧いた感情に、俺は愕然とする。


(……欲しい)


そばにいたい。

触れたい。

選ばれたい。


——だめだ。


強く、歯を食いしばる。


(それは……違う)


俺は、治癒師だ。


救う側だ。

命を繋ぐ側だ。


想いを理由に、奪う側に回る資格はない。


君が誰を選ぼうと。

どこへ行こうと。


それでも俺は、

手を差し伸べる存在で在り続ける。


それが、俺の贖罪で。

俺の、覚悟だ。


治癒が完了する。


身体の痛みが引き、呼吸が整う。


君が、ほっと息をつくのが見えた。


その表情を見られただけで、胸が少しだけ軽くなる。


(……それでいい)


選ばれなくてもいい。


ただ。


君が生きていること。

それを、俺の手で支えられるなら。


それだけで、十分だ。


俺は、ゆっくりと目を閉じた。


次に目を開いた時も。

きっと、同じ道を選ぶ。


——治癒師として。


君を、守るために。


ルイス

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