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恋焦がれた君に堕ちるまで  作者: ChaCha


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境界線

——視線が、違った。


それに気づいた瞬間、胸の奥がざわついた。


ほんの一瞬だ。

長さにすれば、呼吸ひとつ分にも満たない。


だが、確かにソフィアの視線は、俺ではない方向へ向いていた。

意識せず、探すように。

無意識に、求めるように。


それが誰かなんて、考えなくてもわかる。


……あの、治癒魔術科の男だ。


喉の奥が、きしむ。

噛みしめた歯が、軋む音がした。


——奪われる。


その言葉が、初めて明確な形を持って脳裏に浮かんだ。


深く、口付けたはずだった。

逃げ場を塞ぐように、呼吸を奪うほど、確かに繋がった。


それなのに。


ソフィアは、変わらない。


もっと、こう——

俺を求めて、縋って、離れられなくなるはずだろう?


それが、当たり前だった。


……はず、なのに。


——おかしい。


私室の前で、思わず声が漏れた。


「……おかしいと思う!」


感情が先に出た。

理屈は、後から追いつこうとしている。


「それは、君だ!」


ソフィアは即座にそう言い切った。

迷いも、怯えもない声音。


そして、扉が閉まる。


——カチリ、と、鍵の音。


その音が、やけに大きく響いた。


違うだろう?


昔は……

そう、昔は。


求めれば、応えてくれた。

触れれば、受け入れた。


……昔?


前世か。

それとも、今世の、記憶が混ざっているだけか。


頭の奥で、何かが擦れる。


ああ……そうか。


まだ、繋がっていないからか。


現世では、まだ。

身体を、完全には。


だからか。

だから、応えが浅いのか。


——そうに違いない。


自分に言い聞かせるように、そう結論づけた。


翌朝。


いつも通りに、ソフィアと並んで歩く。

朝の空気は澄んでいて、他の生徒たちの声が遠くに混じる。


ソフィアは、変わらず隣にいる。

笑うし、話すし、俺の歩調に自然と合わせてくる。


——問題は、ない。


……本当に?


教室に入ると、教官が前に立った。


「では、次の段階に入る」


空気が、少し張り詰める。


「近日中に、合同訓練を行う」


ざわ、と教室が揺れた。


「魔術科、治癒魔術科、騎士科。三学科合同だ」


その言葉を聞いた瞬間、背中を冷たいものが走った。


——三人。


俺と、ソフィアと、

そして、あの男。


同じ場所に立つ未来が、はっきりと形を持つ。


胸の奥が、嫌な音を立てて軋んだ。


奪われる、という予感が、

ただの想像ではなく、現実味を帯び始める。


……いや。


奪われない。


俺は、知っている。

夢の中の、ソフィアを。


俺の腕の中で、確かに息をしていた。

愛して、愛されていた。


だから。


「……大丈夫だ」


誰に向けた言葉か、自分でもわからないまま、呟く。


「俺たちは、もう恋人だ」


その確信だけが、今の俺を支えていた。


——境界線は、まだ越えていない。


だが。


それが、いつまで保つのか。

俺自身にも、わからなかった。


アデル

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