また君にあいたい。
治療室は、いつも同じ匂いがする。
薬草、消毒、少しだけ残る血の気配。
治癒安全研修の最中だった。
新人同士で役割を確認し、万一に備えるだけの、はずの時間。
「……搬送!」
声が飛んだ瞬間、身体が先に動いていた。
担架の上。
浅い呼吸。
魔力循環の乱れ。
――彼女だ。
名前より先に、そう思った。
他の治癒班が動くよりも早く、
気が付けば、前に出ていた。
触れさせたくなかった。
理由は、わからない。
理屈も、正当性も、後からいくらでも付けられる。
でも、その瞬間はただ――
彼女を、他の誰にも触れさせたくなかった。
見た目は、違う。
記憶の中の彼女とは、年齢も、声も、立ち姿も。
それなのに。
彼女が目を開けた。
その瞬間、
胸の奥で、何かが跳ねた。
懐かしい、なんて言葉では足りない。
引き寄せられる、という表現でも足りない。
もっと深いところ。
思考より先に、魂が反応した感覚。
――ああ。
堕ちる。
音もなく、抗えず、
底が見えない場所へ、静かに。
「……また君に会いたくてさ」
気付けば、そんな言葉が口をついていた。
野外訓練。
過酷で、危険で、命が簡単に零れ落ちる場所。
あそこに向かうたび、
俺はいつも同じことを考えている。
絶対に、死ねない。
理由は、ひとつしかない。
「……彼女だけは……助ける……」
誰に聞かせるでもなく、
何度も胸の内で反芻してきた誓い。
俺は、生まれ落ちたときから、前世の記憶を持っていた。
救えなかった。
選んだ結果、彼女は――
その後悔が、
俺をここまで連れてきた。
母と同じ、治癒魔術科。
他者の生命を引き上げるための道。
贖罪だ。
逃げないための選択だ。
だからこそ、わかる。
この感情は、過ちだ。
使命と、欲が、重なってはいけない。
それでも。
彼女が笑ったとき。
息をして、生きていると実感したとき。
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
(……生きている……)
それが、どれほど救いだったか。
必ず。
必ず、俺が助ける。
それが、治癒師としての誓いなのか。
それとも――
もう一度、
君に堕ちているだけなのか。
答えは、まだ出せない。
ただひとつ、確かなのは。
また君に会いたい。
それだけだった。
ルイス・ランカスタ




