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恋焦がれた君に堕ちるまで  作者: ChaCha


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週末の気分転換

昼の食堂は、相変わらず賑やかだった。

トレーが擦れる音。笑い声。食器の触れ合う軽い響き。

学園という巨大な箱の中で、ここだけは妙に“生活”の匂いが濃い。


私はスプーンを持ったまま、深く息を吐いた。


「……気分転換がいる」


向かいに座るアデルが、パンを千切りながら眉を上げる。


「それで?」


間髪入れず、私は宣言した。


「学園を出る!」


一拍。


「ついに……脱走を……」


低い声でそう言われて、私は即座に机を叩いた。


「違いますー! 週末のお出掛けの話ですー!」


脱走って何!?

私をどんな存在だと思っているのか。

確かに倒れがちではあるけれど、犯罪者ではない。


アデルが、ぷっと吹き出した。


「……その反応、面白すぎだろ」


「笑い事じゃありません! 私は真剣なのです!」


トレーの上のデザートを指差す。


「学園の食堂は確かに素晴らしい。無料。種類豊富。味も良い。

でもね?」


アデルが続きを待つように、こちらを見る。


「私は……外に出たい!」


胸を張った。


「世界は広い! 私を待っている!」


アデルは、腹を抱えて笑った。


「ぷはっ……何それ……」


「失礼な! 私は今、精神の健康について語っているの!」


少し真顔になる。


「明日はね、美味しいデザート屋さんを探すの!」


学園内のデザートは確かに美味しい。

だが、外の空気。

知らない匂い。

初めての店。


それが、欲しい。


「というわけで、一緒に行く?」


何気なく聞くと。


「何当たり前のこと聞いてるんだよ」


即答。


だよね。


君がついてこない世界なんて、最初から想定していない。


……。


週末前。

なぜかいつも以上にハードな実技訓練。


「気合いの前に、まずは筋力を鍛えろ」


教官の声が、今日も容赦ない。


「……はい。ダンベルの重さ、増やします……」


ぐすん。


つらたん。


腕が、悲鳴を上げている。

太ももが、存在を主張している。


夕食の食堂。

私はテーブルに突っ伏していた。


トレーが、目の前に置かれる。


顔を上げると、

今日もアデルが私好みの“優しいメニュー”を選んでくれている。


スープ。

柔らかい肉。

胃に負担の少なそうな野菜。


「……圧倒的に筋肉が付きにくい身体とは!?」


呻くように言う。


「おかしい……おかしいと思う……」


「いや、ついてるぞ?」


「着いてなきゃ歩けないけど……そうじゃない!」


アデルはスープを飲みながら、淡々と続ける。


「魔力の通り道は、広がってきてる」


その言葉に、私は少しだけ黙る。


……確かに。


毎日、苦しい。

倒れる。

治療室。


でも、魔力が巡る感覚は、前より“怖くない”。


それに気付いてしまうと、

不思議と、もう一口食べられた。


「……毎日、自主トレに付き合ってくれてるアデル教官のおかげですね」


「教官はやめろ」


「優しいのは事実です」


小さく笑う。


明日は、週末。


「……ね」


スプーンを置いて、アデルを見る。


「明日はさ、お礼も兼ねて、いっぱいご馳走するから」


「外の?」


「外の!」


アデルは、少しだけ目を細めた。


「楽しみにしてる」


食堂の喧騒の中。

私の胸の奥に、軽い期待が灯った。


学園の外。

知らない道。

甘い匂い。


それだけで、

明日を乗り切れる気がした。


私は、また一口、スープを飲んだ。

優しい味が悲鳴をあげている身体に染み渡った。


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