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恋焦がれた君に堕ちるまで  作者: ChaCha


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22/31

濃くなる夢。

強制的に魔力循環を回された夜は、いつもこうだ。

身体は疲弊しているのに、意識だけが深く沈まない。


ベッドに横たわった瞬間、

引きずり込まれるように――夢を見る。


黒い。

どこまでも黒い。


世界が、音を立てずに崩れていく。

空も、大地も、輪郭を失い、塗り潰される。


その中心に、ソフィアがいる。


儚い。

触れれば砕けそうで、呼吸一つで消えそうな姿。


「待って」


声が届かない。

距離が縮まらない。


足元が崩れ、身体が沈む。

世界ごと、堕ちていく。


「お願いだ……」


喉が裂けるほど叫んだ。


「彼女だけは……助けて……くれ……」


その瞬間。


ガバッ、と身体が跳ね起きた。


暗闇。

寮の部屋。

窓の外には、月。


荒い呼吸。

胸が上下する。


まただ。


額に汗が滲み、喉が乾いている。

心臓の音が、耳の奥でうるさい。


「……はぁ……はぁ……」


悪夢。

いつもの、悪夢。


だが――

最近、違う。


布団を握り締めたまま、

俺の脳裏に浮かぶのは、現実の光景だった。


食堂。


木のテーブル。

湯気の立つ皿。


ソフィアが、口を開ける。


唇。

歯列。

舌の動き。


噛む。

咀嚼する。

飲み込む。


喉が上下し、水を含んで潤す。


生きている。


確かに、ここにいる。


その映像が、夢の黒を押し返す。


胸を押さえた。


「……なんなんだよ……」


掠れた声が、部屋に落ちる。


毎日、毎日。

俺は俺なのに。


夢の中のソフィアは、

消えて、壊れて、失われていく存在なのに。


現実のソフィアは、

笑って、食べて、怒って、眠る。


同じ顔。

同じ声。

同じ匂い。


なのに、違う。


――違う、はずなのに。


「……」


静かな部屋の中で、

声がした。


懐かしい声。

胸の奥を直接撫でるような声。


『あなたが好き』


喉が鳴る。


「……ああ……」


返事が、勝手に零れた。


「俺もだ……ソフィア……」


誰に向けた言葉なのか、わからない。


今のソフィアか。

夢の中のソフィアか。


それとも――

もっと、古い何かか。


頭が、じくりと痛む。


現実と夢の境界が、

滲んでいく感覚。


俺なのに。

俺のはずなのに。


別の俺が、

奥から浮かび上がってくる。


戻ってくる、というより――

侵食されていく。


そんな感覚。


「……愛している」


口が、勝手に動いた。


誰を?


「……愛している」


君だけを?


「……愛している」


答えは出ない。


ただ、胸の奥が熱くて、

苦しい。


堕ちていく。


夢の底へ。

記憶の底へ。


それでも――

明日、食堂で。


ソフィアが、また食べるのを

俺は、きっと見てしまう。


そして、安心してしまう。


生きている、と。


それが、救いなのか。

それとも――

堕ちるための楔なのか。


わからないまま。


俺は、目を閉じた。



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