濃くなる夢。
強制的に魔力循環を回された夜は、いつもこうだ。
身体は疲弊しているのに、意識だけが深く沈まない。
ベッドに横たわった瞬間、
引きずり込まれるように――夢を見る。
黒い。
どこまでも黒い。
世界が、音を立てずに崩れていく。
空も、大地も、輪郭を失い、塗り潰される。
その中心に、ソフィアがいる。
儚い。
触れれば砕けそうで、呼吸一つで消えそうな姿。
「待って」
声が届かない。
距離が縮まらない。
足元が崩れ、身体が沈む。
世界ごと、堕ちていく。
「お願いだ……」
喉が裂けるほど叫んだ。
「彼女だけは……助けて……くれ……」
その瞬間。
ガバッ、と身体が跳ね起きた。
暗闇。
寮の部屋。
窓の外には、月。
荒い呼吸。
胸が上下する。
まただ。
額に汗が滲み、喉が乾いている。
心臓の音が、耳の奥でうるさい。
「……はぁ……はぁ……」
悪夢。
いつもの、悪夢。
だが――
最近、違う。
布団を握り締めたまま、
俺の脳裏に浮かぶのは、現実の光景だった。
食堂。
木のテーブル。
湯気の立つ皿。
ソフィアが、口を開ける。
唇。
歯列。
舌の動き。
噛む。
咀嚼する。
飲み込む。
喉が上下し、水を含んで潤す。
生きている。
確かに、ここにいる。
その映像が、夢の黒を押し返す。
胸を押さえた。
「……なんなんだよ……」
掠れた声が、部屋に落ちる。
毎日、毎日。
俺は俺なのに。
夢の中のソフィアは、
消えて、壊れて、失われていく存在なのに。
現実のソフィアは、
笑って、食べて、怒って、眠る。
同じ顔。
同じ声。
同じ匂い。
なのに、違う。
――違う、はずなのに。
「……」
静かな部屋の中で、
声がした。
懐かしい声。
胸の奥を直接撫でるような声。
『あなたが好き』
喉が鳴る。
「……ああ……」
返事が、勝手に零れた。
「俺もだ……ソフィア……」
誰に向けた言葉なのか、わからない。
今のソフィアか。
夢の中のソフィアか。
それとも――
もっと、古い何かか。
頭が、じくりと痛む。
現実と夢の境界が、
滲んでいく感覚。
俺なのに。
俺のはずなのに。
別の俺が、
奥から浮かび上がってくる。
戻ってくる、というより――
侵食されていく。
そんな感覚。
「……愛している」
口が、勝手に動いた。
誰を?
「……愛している」
君だけを?
「……愛している」
答えは出ない。
ただ、胸の奥が熱くて、
苦しい。
堕ちていく。
夢の底へ。
記憶の底へ。
それでも――
明日、食堂で。
ソフィアが、また食べるのを
俺は、きっと見てしまう。
そして、安心してしまう。
生きている、と。
それが、救いなのか。
それとも――
堕ちるための楔なのか。
わからないまま。
俺は、目を閉じた。




