学園の食堂はパラダイス
学園には、いくつも食堂がある。
それはもう、いくつも。
当たり前だけど、
十二学科もあれば、学園は広大になるわけで、
「昼ごはん難民」を出さないための配慮らしい。
ありがたい。
私たち魔術科のいちばん近い食堂は、
隣接する学科と共有だ。
魔術科。
戦闘魔術、後方支援魔術――
系統ごとに班分けもされる。
そのお隣が、
騎士科。
そして、治癒魔術科。
前線。
守り。
回復。
切っても切れない三つ巴。
だからか。
この学園の食堂は――
パラダイスである。
……え?
なにがパラダイスかって?
全部だ。
全てが、無料。
種類豊富な、山盛りメニュー。
肉。
魚。
野菜。
果物。
乳製品。
焼きたてのパン。
湯気と匂いだけで、
理性が溶ける。
学園の本気度が、違う。
聞けば、他国でもこれが普通らしい。
……前世で、給食費。
両親、払ってたよね。
ふと、そんなことを思う。
でも、分かる。
未来を担う子どもたちには、
腹いっぱい、食べさせたい。
食べて。
育って。
生き抜いてほしい。
そんな想いが、
この食堂には詰まっている。
「……」
無言で感動していると、
隣から声が飛んできた。
アデルが、にやりとする。
「オカンみたいな顔してる」
「ええ、ええ」
トレーを持ったまま、肩をすくめる。
「赤ちゃんの頃から、
ベビーシッターしてましたからね」
本当に、そうである。
「……クリス」
ふと、思い出す。
「しっかり食べて、牛乳飲んでるかな……」
アデルが、鼻で笑った。
「はっ。アイツは勝手に育つから、気にするな」
「可愛い弟を、虐めないでくださーい」
むっとすると。
アデルは、何も言わず、
私のトレーに、
木苺のパイを置いた。
続けて、
ナッツ入りのサラダ。
「……」
「……?」
私の視線に気づいて、
アデルが、平然と言う。
「足りないか?」
「さすがアデル!」
思わず、声が弾む。
「私の好きな物を、網羅している!」
満足そうに、うんうんと頷く。
「俺の好物、わかる?」
「唐揚げでしょ!」
即答。
一拍。
アデルが、少しだけ笑う。
「……惜しいな」
耳元に、声を落とした。
「ソフィアだ」
「……私は、食べ物ではありません!」
思わず、抗議。
「おしゃぶりの時期は、過ぎ去った!」
本当に。
赤ちゃん時代から、
歯が生えた時、痛かったんだから!
あむあむあむあむ。
お前ってやつは!
ぷんぷんである。
それでも。
「おーいしーい!」
スープを飲み、
肉を頬張り、
幸せが、口いっぱいに広がる。
アデルが、呆れたように言う。
「水も飲めよ」
「食堂に通えるだけで、
王立学園に入った甲斐があった!」
本気だ。
「良かったなー」
そう言いながら、アデルは
私の唇の端についたソースを、指で拭った。
そのまま、舐める。
「美味いな」
「ね!分けてあげる」
チキンソテーを、
アデルの皿へ、のせのせ。
すると、今度は。
アデルが、
自分のステーキを、
私の皿へ。
交換。
……実家と、変わらない。
こんなふうに、
当たり前に食卓を囲めるのが、嬉しい。
「ふたりで通えて、よかったね」
ぽつりと、言う。
「……ああ」
短い返事。
今日も、
当たり前のように、
和気あいあいと、食事をしている。
次は、実技訓練。
……死滅、こわい。
もぐもぐ。
怖いけど、
お腹は空く。
――そして、気づく。
視線。
アデルだ。
じっと、見ている。
「……まだ、欲しい?」
首を傾げる。
「おかわり、自由だよ?」
アデルは、少し間を置いて、言った。
「いや」
カラトリーを、
ぎゅっと握る。
「可愛いな、と思って」
……。
私が、口を開けて、
咀嚼して。
喉を通って、
飲み込む。
その一連を、
本当に、嬉しそうに見ている。
……めっちゃ見る。
でも、
気持ちは、分かる。
私も、
クリスや、アデルや、
両親たちが、
美味しそうにご飯を食べている姿が、好きだ。
ちゃんと、生きている感じがする。
満たされている、という実感。
お腹も。
胸も。
だから。
今日も私は、
しっかり食べる。
実技訓練に向けて。
気合いと、筋肉と――
この、パラダイスの力を、味方につけながら。




