家族みんなで温泉旅行
冬が来た。
吐く息が白くなり、
朝の空気がきりっと冷たい。
この季節は――
温泉でしょう。
「ふっふっふ」
私は胸を張った。
「今回は、卵持参よ!」
籠を掲げる。
毎回、現地に着いてから思い出すのだ。
温泉卵、食べたかった……と。
その反省を、今年は活かした。
「ただのゆで卵の、なにが嬉しいんだ?」
アデルが、呆れたように言う。
「温泉卵は別物なの!」
即、反論。
「僕も姉様と食べます!」
クリスが、勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、アデルは食べなくてもいいよねー?」
にこっと言う。
「……食べないとは、言ってない」
低い声。
即、訂正。
……めんどくさい。
馬車の編成は、いつも通りだった。
夫婦たちは、別の馬車。
子どもたちは、同乗。
荷車と護衛もつく。
それに、
さりげなく城のみんなも参加。
デルハイド辺境伯領には、温泉街がある。
冬になると、交代で温泉街へ。
福利厚生、という名の、
ほぼ恒例行事だ。
「姉様と入る温泉が、楽しみです!」
クリスが、目を輝かせる。
「背中、流し合いっこしましょうね」
「はい!」
即答。
「……それは、ダメだろ」
隣から、低い声。
「アデルも、私と入りたい?」
冗談半分で言う。
「……入る」
即答。
「それこそ、ダメですよ!!」
今度は、クリスが叫ぶ。
「冗談よ」
言った瞬間。
「ガーン」
分かりやすく、落ち込む。
やいのやいの。
騒がしい馬車の中で、
笑い声が弾む。
しばらくして。
窓の外に、
白い湯気が見えてきた。
温泉街だ。
屋根の上に積もる雪。
立ちのぼる湯気。
人の気配。
「……旅行、か……」
ぽつりと、言葉が落ちた。
胸の奥で、
前世の記憶が、ふと揺れる。
一緒に行くはずだった旅行。
叶わなかった時間。
その瞬間。
がっ。
手首を、強く掴まれた。
「きゃっ」
思わず声が出る。
見ると、
アデルが、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
いつもの、柔らかい表情じゃない。
低い声。
「……何を、考えていた?」
ぞわっ。
背中を、冷たいものが走る。
「え……?」
一瞬、言葉に詰まる。
「温泉街が、見えたなって……」
とっさに、そう答えた。
嘘ではない。
全部でもないけれど。
じーっと、
視線が絡む。
離れない。
一拍。
「……そうか」
掴んでいた手が、少しだけ緩む。
「俺も、一緒に温泉、入るからな」
当然のように。
「だからー!
邪魔しないでください!」
クリスが割り込む。
いつもの光景。
いつもの言い合い。
なのに。
胸の奥に、
小さな棘が残った。
……今の、なに?
一瞬だけ。
本当に、一瞬だけ。
アデルが、
すごく――
こわかった。
私は、その違和感を、
まだ、言葉にできないまま。
温泉街へと、
馬車は進んでいった。




