第7話 日浄のお祓い
日曜日になる。僕は休日にもかかわらず早起きをする。今日は楠木との約束の日だ。午前9時に家を出る。途中、和菓子屋によってお饅頭を買う。
ちょっと早いが午前9時半に願本寺に到着する。しばらくすると楠木がやって来る。
「おはよう、早いわね。」「今来たところだよ。」
「クラスの佐藤と西山が殺されているけど、日下君とよくつるんでいる友達よね。」「そうなんだ。例の廃病院にも一緒に行っている。」
「何かありそうね。」「信じてもらえないかもしれないけど、夢で見たんだ。」
「どんな夢。」「僕が佐藤と西山を殺す夢だよ。」
「他にも殺しているの。」「他には勝也と斎藤を殺している。」
「二人は生きているでしょ。心配ないよ。」「うん。でも気になるんだ。」
そこへ日浄がやって来る。
「二人とも早いね。今から準備を始めようか。日下君は私と来てくれ。」「はい。」
僕は日浄さんについて行くと部屋で白装束に着替えるように指示される。白装束になると本堂に連れていかれる。本堂には楠木が待っていた。日浄さんが僕に言う。
「申し訳ないが縄で縛らせてもらうよ。」「はい。」
僕は上半身と足を縛られる。楠木が笑う。
「まるで罪人ね。これからお白州が始まるみたい。」「笑い事じゃないよ。」
僕は笑顔の楠木をかわいいと思った。日浄さんが真面目な顔で言う。
「日下君、苦しいかもしれないが我慢してくれ、友里ちゃんはスマホで動画を撮ってくれないか。穢れは珍しいから資料にしたい。」「はい。」「分かりました。」
日浄さんが護摩を焚き始めると楠木はスマホで動画を撮り始める。僕は正座して緊張している。日浄さんが経文を唱え始める。
僕はお経を聞いていると体ビリビリしてくる。ビリビリはだんだん強くなって、体中を刺すような痛みになる。僕は正座をしていられなくなる。
「いてててーーーー、やめ、やめ・・・・」「日下君大丈夫。」
僕は楠木に答える余裕もない。縛られたままのたうち回る。痛みで意識が遠くなる。僕はいつの間にか気絶していた。
僕が気がつくと日浄さんが救護隊員に担架で運ばれていた。痛みは治まっていた。僕は何が起こったのかわからない。
楠木は一尾始終を見て録画していた。
日浄さんが経文を唱え始めると日下君が苦しみだし、縛られたまま転げ回って何か言おうとする。
私は「日下君大丈夫」と尋ねるが返事はない。その後、日下君はのたうち回っていたが静かになる。
そして、目覚めた日下君は人が違ったようだった。
「坊主、お経をやめよ。」
と日浄さんに命令した。日浄さんは無視してお経を続ける。すると日下君の頭が黒くなり、目も鼻も口も消える。さらに黒い頭から黒いものが鞭のように伸びて出てくる。
黒い鞭は伸びて日浄さんの首を絞める。私は日下君に叫ぶ。
「やめて、死んでしまうわ。」
日下君は言うことを聞いてくれなかった。日浄さんは声が出ないけどお経を続けているようだった。でも、呼吸ができないはずだ。しばらくして、崩れ落ちる。
私は慌てて119番通報する。再び見ると日下君の頭は元に戻っていた。でも、変わらず黒いものが憑りついている。私には日下君に覆いかぶさるように見えている。
頭が黒くなった時には、覆いかぶさっていた黒いものが日下君に入って同化したようだった。
私は日浄さんに駆け寄り、119番の電話の指示で人工呼吸をする。でもなかなか呼吸が戻らない。私は日浄さんがこのまま死んでしまうのではないかと心の隅から思いが湧き上がって来る。
そんなことない。日浄さんは強い人だ。頭の中がぐちゃぐちゃになって涙が出てくる。
そこへ救護隊員が駆け付けてくる。日浄さんにAEDを使って蘇生を試みる。救護隊員が私に言う。
「よく頑張ったね。」「はい。」
救急車のサイレンを聞いて日浄さんの家族も集まって来る。日浄さんは奇跡的に呼吸を取り戻す。意識はまだ戻らない。そして、担架で救急車に運ばれていく。
私は日下君を見る。すると目を開けていた。私には、日下君が、いつもの日下君か、黒いものに操られた日下君か分からない。




