第48話 遠くへ
僕は家のベットで目が覚める。楠木が朝食を作っている。僕は1階に降りて楠木に声をかける。
「おはよう。」「おはよう。顔色が悪いわよ。」
「アラタが井上を殺したよ。」「日下君、止めなかったの。」
「集中できなかったんだ。井上が僕たちをクラスから追い出すようにいていたから。」「でも、殺されていいわけないわ。」
楠木は怒った様で部屋に閉じこもってしまう。僕はどうすればいいのかわからず悩む。するとアラタがささやく。
「女一人、自由にできないのか。」「黙れ。」
「力づくで抱いてしまえ。そうすれば言いなりになるぞ。」「僕はそんなことを望んでいない。そんなの楠木じゃない。」
「一緒に暮らして、まだ、抱いていないなんておかしいぞ。」「僕たちは自分のペースで進むのさ。」
「奥手すぎるな。」「・・・・・」
僕はまだキスもしていない。同棲していても楠木をどう扱えばいいのかわからないのだ。僕は部屋の外から呼びかける。
「話さないか。いやならいいけど。」「いやじゃないよ。」
部屋の扉が開く。楠木の目が赤い泣いていたのだろう。僕が泣かせてしまった。
「ごめん、つらい思いをさせてしまった。」「いいえ、日下君の方がもっとつらいものね。」
「僕は覚悟していたから、止められなくてごめん。」「いいのよ。」
楠木が近づいて来る。僕は思わず抱きしめる。楠木が目を閉じる。僕は口づけをする。
「私、耐えられないわ。どこかへ逃げたい。」「どこか遠くへ行こうか。誰も僕たちを知らない所へ。」
「ええ、行きましょ。」「どこにしようか。」
突然、アラタが割り込んでくる。
「街を離れるなら蔑んだ連中を殺さないとな。」「なにを言うんだ。」
「アラタが話しかけているの?」「うん、街の人を殺すと言っている。」
「だめよそんなこと。」「分かっているよ。」
「今夜から一緒に寝ます。」「えっ、ええ。」
「いやなの。」「うれしいけど。」
「私がアラタに犯行をさせないわ。日下君を抱きしめて寝るから。」
これでは、僕が眠れそうにない。僕たちはベットの中で、将来、どんな生活をするか話し合う。僕にとって夢のような時間だ。
そして、列車に乗ってあちこちを訪れて住む場所を探すことにする。
僕たちは桐ヶ丘駅のホームに立つ。電車が到着するまで話をして過ごす。特急列車が通過するので注意するようにアナウンスがある。
楠木が僕に抱き着く。
「人目があるから恥ずかしいよ。」「ごめんね。」
突然楠木が僕と抱き合ったまま、ホームから線路に飛び込む。アラタが僕の体を支配して危険を回避しようとするが特急列車が衝突する。
楠木は即死だろう。彼女は何を願ったのだろうか、それとも僕に分からないように絶望していかもしれない。
僕はアラタのせいでまだ意識がある。でも体はバラバラだ。アラタが言う。
「くそう。これでは修復は無理だ。こんなところで死ぬことになるとわな。」「もう、人殺しはできないぞ。」「・・・・・」
アラタからの返事はない。僕も意識が遠くなる。
井上が死の淵から目を覚ます。彼は集中治療室で命を取り留めた。警察は井上が面会可能になる時を待って、事情を聞く。
「井上君、犯人を覚えているかい。」「はい。」
「日下光喜だったかな。」「違います。アラタという化け物でした。」
「ショックで混乱しているのかな。よく思い出してくれ。日下だったんだろ。」「俺は犯人と話しました。日下は犯人ではありません。」
警察の捜査が一からやり直しになる。容疑者とその彼女が心中したことでマスコミの注目を集める。
街の人々はなぜか二人に同情的なコメントをしていた。




