第28話 よろしくね
夕食後、僕は楠木を家まで送って行くことにする。楠木が料理をすることが上手なのには驚いた。
「いつも家で料理を作っているの。」「私は、食事を一人で食べるから自炊しているのよ。」
「両親がいるだろ。」「家族は私と食事をしないのよ。」
「おかしいだろ。」「私は疫病神だから家族から嫌われているのよ。」
「そんな。」「私は1か月分の食費を貰って自炊して生活をしている。あの家の中では一人なのよ。」
「ひどすぎる。」「幼い、私がいけなかったのだから仕方ないわ。」
楠木はなんて孤独なんだろう。家で一人、学校でも友達どころか話しかける者もいなかった。なんてことだ。
「日下君は違っていたわ。同じクラスになった時、ハンカチを拾ってくれたもの。」「そんなこと当たり前だよ。」
「私には特別なことよ。だから日下君は私の特別なの。」
確かに女の子のハンカチを拾って渡したことがあったけど、相手が楠木だったかは覚えていない。僕には大したことではなかったのに楠木にとっては特別なことだった。
「だから、私、日下君と暮らしたいの。」「僕だって男だよ。」
「何でも言うこと聞くわよ。」「だめだよ。ちゃんと付き合って相手のことを知らないと・・・」
「日下君、付き合ってください。」「はい、僕で良ければ。」
「よろしくね。」「うん。」
なぜか楠木と付き合うことになってしまった。僕ははっきり言ってうれしい。うれしいが、僕が付き合ってというべきではなかろうか。
僕は楠木を家まで送って行くと一人で家へ帰宅する。すると家の前に人影がある。僕は警戒する。小山刑事は死んだが、警察は僕に疑いを持っているだろう。
僕はゆっくり気づかれないように近づく。人影は警察ではなかった。僕は人影に声をかける。
「池田、こんなところで何をしているんだ。」「く、日下、家にいなかったのか。」
僕は池田が右手にナイフを持っていることに気づく。ひどく嫌な予感がする。
「なんでナイフなんか持っているんだ。」「僕は簡単に殺せないぞ。」
「何を言っているんだ。」「お前が佐藤たちを殺したんだろ。僕はナイフで返り討ちにしてやる。」
池田の奴、様子がおかしい。
「日下!何黙っているんだ!かかってこい。」「僕は池田と戦う理由がない。」
僕は、池田と戦うことを避けるために逃げ出す。池田は僕を追って来る。アラタが僕にささやきかける。
「殺してしまえ。そうしないと殺されるぞ。」「僕が戦えるわけないだろ。池田はナイフを持っている。」
「我の力を使ったではないか。」「覚えが無いよ。」
「車の窓ガラスを割る時に使っただろ。」「あれはアラタがやったんだろ。」
「いいや、お前が使ったのだ。人間離れして来たな。」「うるさい。」
こうなったら警察署に逃げ込むしかない。結構距離がある。逃げられるのか。




