第27話 一人暮らし
車は海底から引き揚げられ、車の中には父の死体があった。とうとう僕は家族を失って一人になってしまった。父の葬儀の時、叔父が僕に一緒に暮らそうと誘ってくれたが断った。
僕は一人で生きていくのだ。叔父と一緒に暮らせば同じようなことが起こるだろう。一人なら巻き込む人はいない。僕は一人で生きる覚悟を決める。
僕は登校を始める。途中で勝也と合流する。
「光喜、大丈夫か。これからどうするんだ。」「一人で暮らすよ。」
「親戚がいるだろ。」「頼ることはできないよ。不幸にしてしまう。」
「俺は力になるからな。」「ありがとう。」
僕はもしかしたら勝也は僕と距離をとるかもと思っていたが、変わらず友人でいてくれるようだ。教室に入ると席に着いていた楠木が席を立ち、僕の所に駆け寄る。
「日下君、大丈夫。」「大丈夫だよ。」
「これからどうするの。」「一人で暮らしていくよ。」
「私がいてあげようか。」「えっ、あの~それって。」
「一緒に暮らしてもいいよ。」「そ、そ、そこまでしてくれなくてもいいよ。」
僕は、楠木の申し出にうれしかったが混乱する。楠木の人間関係の距離感が分からない。教室の中も騒然となる。
これまで人と関わっていなかった楠木が、突然、日下に同棲を申し込んだのだ。
楠木は残念そうに言う。
「私、勇気を出したんだよ。」「うん、でも楠木の両親が黙っていないよ。」
「大丈夫、私は家の中で厄介者だから、いない方がいいのよ。」「・・・・・」
僕は楠木の幼い時のことを聞いていたが、いまだに家族に責め続けられているのか。
放課後、僕は勝也と楠木との3人で日浄さんに会いに行く。僕は気を使う練習をする。気を使いこなせればアラタをコントロールできるかもしれない。
僕は帰宅する途中、夕食のためスーパーに買い物に行く。僕は総菜でも買って帰るつもりだった。
なぜか楠木もついてきていて、買い物かごに食材を入れていく。
「僕は料理は出来ないのだよ。」「大丈夫、私できるから。」
楠木は本当に僕の家に来るつもりか。僕はドキドキしている。
「もしかして、楠木が作ってくれるの。」「一緒に夕食をたべましょう。」
「いいけど、夕食が終わったら家まで送るね。」「泊めてはくれないのね。」
楠木は残念そうに言う。僕は心の準備が出来ていない。もし、楠木を泊めたらどうなるかわからない。
僕たちは家に到着すると夕食の準備を始める。楠木は手際よく料理を作っていく。
夕食は煮魚に野菜のサラダだ。ここ数日、コンビニで食料を調達していた身には、おいしいまともな食事になる。




